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「2%インフレ目標」に日銀はどう応えるか

選挙前の安倍自民党総裁への批判が報じられた日銀の白川総裁であったが、選挙後には借りてきた猫みたいになってしまったらしい(冗談)。


日銀法改正だ、と公言されてしまったので、日銀サイドとしてもこれは困ったということになり、ある程度の要求を呑まざるを得ない、という状況になってきた、という認識であったろう。


そこで早速、日銀としては「インフレ目標」を設定するということになるのであろう。

白川総裁の敗戦の弁(冗談です)。

これ>http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1212b.pdf


この中での総裁発言をいくつか取り上げてみたい。


また、ご質問の2%という点ですが、日本銀行は、中長期的に持続可能な物価の安定と整合的と判断する物価上昇率について、消費者物価の前年比上昇率で2%以下のプラスの領域にあると判断しています。これは、本年2 月に公表したことです。その上で、当面は1%を目途としているが、成長力強化への取組みの成果が挙がっていった場合には、目指すべき物価上昇率は1%よりも高まっていくこと、また、日本銀行は、この「中長期的な物価安定の目途」について、原則として、ほぼ1 年毎に点検していくという方針を本年2 月に明らかにしています。』(p6〜7)


これは白川総裁の言う通り。今年2月時点での言い方と変わってはいない。

参考記事>日銀の「物価安定の目途」公表に関する私見



定義としては、「物価安定の理解」の時代から基本的には変わっていない。すなわち、2%以下のプラス領域にある、というものだ。”理解”の時代では、「(0〜2%の範囲にあり)中心値は概ね1%」が付いていたのは御存じの通り。


で、目途になっても、定義としては大きな変更はなく、ただ政策的には「当面1%を目途(ゴール)」として運営してゆく、ということであったわけである。

これまでと違っていた面としては、参考記事中でも触れたように、白川総裁が1%より上の領域に到達することも有り得る、という認識を示した、ということくらいであろうか。前記参考記事中には次のように書いていた。


『ならば、米国で2%、ECBでも2%に近い水準、ということなのですから、日本も同じ程度で何ら問題ないのではないかとしか思えないわけです。
仮にバイアス問題がある、経済主体によってはデフレ下に置かれる可能性がある、調節性のこと、というのを考慮して問題点をクリアしようと思うならば、当然に2%程度の水準が必要になってくるわけである。
白川総裁が将来時点での水準引き上げの可能性について言及したようではあるが、今になってそう言うのではなく、ずっと以前から分かり切っていた論点であったはずなのである。』


なので、今回の安倍総裁のご提案というものが、全くの見当外れとか日銀サイドと対立するといったことでは、必ずしもないということはあるかもしれない。日銀側の姿勢としては、既に「目途」公開の時点ではかなりの転換が図られた後である、ということだ。

もっと以前であると、「0%」を公言してはばからなかったわけですから。それを思えば、かなりの進歩があったものと言えるのでは(笑)。


また、「インフレ目標」という呼び方とか、ワーディング云々という質問についても答えている。


まず、最初の用語の話についてです。「中長期的な物価安定の目途」は、中央銀行の金融政策の使命と整合的な物価上昇率を数値的に示していく、それを中長期的に目指していくという点では、「目標」という表現を使っている国の中央銀行の考え方と違いはありません。日本銀行が本年2 月に「目途」という言葉を使ったのは――記者会見あるいは講演でも申し上げましたが――、わが国では、「インフレ目標」という言葉が、一定の物価上昇率と関係付けて機械的に金融政策を運営することとほぼ同義に使われているケースが少なくないという実情を踏まえたものです。海外のインフレーション・ターゲティング採用国でも、当初は、実際にそうした機械的な運営がなされていましたが、そうした機械的な運営が、却って経済の変動を大きくしてしまうことを経験し、現在では、「インフレーション・ターゲティング」とは、中長期的にみて物価や経済の安定を重視していく、いわゆる「フレキシブル・インフレーション・ターゲティング」であるということが共通理解になっています。

金融危機後、この数年間、例えばニュージーランドあるいはカナダもそうですが、インフレーション・ターゲティングを採用している国で、枠組みの再点検を行った際、いずれも金融システムの安定も重視するという方向に変わってきています。いずれにせよ、フレキシブルな体系であるということは、ほぼ共通の理解になっています。確か記者会見の席だったと思いますが、日本銀行が本年2 月に発表した枠組みについて、「インフレーション・ターゲティングと呼ぶのか」というご質問を受けました。直前1 月に、FRBが「インフレーション・ゴール」を発表し、バーナンキ議長が記者会見で「これはインフレーション・ターゲティングではない」と明確に否定されました。

ただ、FRBの政策の枠組みをインフレーション・ターゲティングであると呼ぶ議論が多かったわけですが、もしFRBの政策について、本人の否定にもかかわらず「インフレーション・ターゲティング」と呼ぶのであれば、日本銀行の今回の金融政策の枠組みは、FRBの金融政策運営の枠組みに近いということを私は申し上げました。要は、フレキシブルな運営であるという理解が――今、日本でもそうした理解が徐々に拡がってきていますが――、さらに深まっていくと、「目途」か「目標」かといった議論は意味がなくなってきます。従って、この問題のポイントは、柔軟に対応していく枠組みであるのか、あるいは物価上昇率が目標より低い限り金融緩和政策をどんどん強化していくことを「インフレーション・ターゲティング」と呼ぶのかです。海外のインフレーション・ターゲティングは、柔軟な政策の枠組みであり、あくまでも金融政策を遂行していくための枠組みであるということが大事です。



当方の参考記事で書いたのは次のようなものだった。



『当時のインフレターゲットというものの解釈としては、白塚ペーパーの如く「Walsh/Svensson型」を指していることが多かったと思う。これを「インフレターゲット政策」と呼んできた、ということである。そういう経緯は存在してきたので、これを狭義の「インフレターゲット」(政策)とすると、もうちょっと広義の「インフレターゲット」(政策)も存在するであろう、ということである。
FRBの公表した「goal」も、日銀の「目途」も、狭義のインフレターゲットには該当しないが、後者には含まれるであろう、という意味である。厳密に言えば、旧来から言われてきたもの(Walsh/Svensson型)とは異なるという点で、バーナンキ議長や白川総裁の言われる「インフレターゲットとは異なる」ということになるし、一部マスコミの言うのも妥当となる。

ただし、研究対象とされたNZやカナダやスウェーデンなどの中銀の運営を見ると、90年代当初から言われてきたような画一的運用方法というのは取られなくなっていると言えそうであり、インフレターゲット政策という概念そのものの変容があったということもできよう。その点においても、狭義のインフレターゲットと、もうちょっと緩やか(柔軟)な広義のインフレターゲットを区別する意義というのは薄れてきているだろうし、「インフレターゲットと呼ばない」と厳密さを追求する意味もないように思われる。』

「フレキシブル・インフレーション・ターゲティング」と白川総裁が述べたのと同じく、当方記事においても「もうちょっと緩やか(柔軟)な広義のインフレターゲット」と書いていたので、共通の理解であると当方は勝手に判断した(笑)。


なので、日銀のとってきた政策としては、今年の「物価安定の目途」というものが、所謂「事実上(笑)のインフレ・ターゲティング」とみて差し支えない、ということであったわけです。ただ、日銀の場合であると、「目途」というのが非常に意思が弱くて、受動的な印象を与えてしまう、という危惧を述べたものです。主体的に「行動して(政策効果で)デフレを脱却する」という雰囲気ではなさそうだったので。すまん、疑り深くて。


転機となったのは、やはりFRBのゴール公表、ということだったはずで、その流れが日銀にもやってきたのだろう、ということでしょうか。


http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/f9680fdcb431f31505be046a2cacc48e

http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/363b480480dd89ed2a22d47887cc872c


ただ、FRBの場合、先日の失業率6.5%という「カラ目標」みたいな失業率ターゲット風味の「ガイドポスト」を出してきたので、打つ手に窮すると説明が混乱しがちとなるだろう。これは、インフレ目標というのが公表されていた為に「判明した」というものであり、もしもインフレ目標のようなゴールがよく分からない場合には、いかようにも事後的に説明を変更したり都合に合わせて説明内容を変えることができてしまうわけである。

けれども、具体的な「ゴール」が公表されていると、ゴールに対して政策が「不整合となるのはどうしてか」ということの説明を負わされることになるので、誤魔化しが難しくなる、という利点があるわけである。だからこそ、追加的なガイドポストとしての「失業率6.5%」という数字を出さざるを得なかった、ということであると推測しているわけである。透明性を向上させる、というのは、こうした意味だ。



話がそれたが、安倍総裁の要求というのは、必ずしも日銀に対して無理なものということではないので、恐らく日銀の対応策としては、あくまで「目途」の中において、文言の変更等で対応することを考えているのではないか。日銀が政府から要求されれば、簡単に変えてしまう、というイメージをもたれることは避けたいから、だ。


実際、「目途」の中で要求に応えることは、そう困難でもないだろう。

だって、「物価安定の定義としては2%以下のプラス領域にあるが、1%を通過点として2%へ向かうものであって、インフレ率が2%に一足飛びに到達するものではない。従って、当面の政策目標としては1%を到達すべき”目途”としているが、旺盛な成長力の中で経済活動実態の結果として2%となるならば、これを阻害する政策をとることはない。あくまで2%の超過によって国民経済の受ける不利益が増大することが危惧される局面においては、適切な金融政策によって対応してゆくことになる。金融引き締めの必要であると金融政策決定会合で判断される場合には、当然それが選択される。」

みたいな説明を付ければ、目標は2%です、ただしそこに至るにはまず1%を超えないと、これが目途ということの意味です、と言えますもんね。


ま、今後の経過を待ちましょう。