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医薬品のネット販売に関する最高裁判決〜各論編

高裁判決文を全文読んだのであるが、ネット通販会社の主張内容がいまいち正確に把握できていないかもしれない。昨日の最高裁判決文についても、まだ読んでいないので最高裁がどういう解釈を出したのかは承知していない。とりあえず、ここまで調べた範囲内で書いてみた。


まず、薬剤師の存在しない店舗において、一般用医薬品のうち取扱(販売可能)品目で不可とされるものがあることについては、止むを得ないとして受け止めているものであろうと思われる。
他方、薬剤師が24時間常駐している店舗において、一般用医薬品を販売するに当たって、販売不可となる品目があるということがおかしい、不満である、ということなのであろうというのが当方の受け止め方である。


そこで、問題とされていると思われる「薬剤師が24時間常駐している店舗」がネットを通じて医薬品を販売することに制限をされることについて、違法だというのが企業側主張であるという前提で、以下の話を進めていきたい。


厚労省の説明でも出てきていたものと思うが、元来薬事法の想定している販売・授与(以下、面倒なので販売とだけ書く)が店舗に出向いてきた人に対するものである、ということだ。これは、立法された時代がそうだったから、ということであり、ネット社会に対応しているものではなかったのだから、今回改正の意味があるものとも言えるだろう。


1)薬事に関する基本事項


①医薬品販売業の排他性(薬事法24条)

医薬品販売は業として排他性が認められている。どうしてかと言えば、端的に言えば「危険だから」ということである。「職業選択の自由」を乗り越えるだけの制限の利益があるから、ということであろう。危険でないなら、誰でも行えるべきものであるはずだから、ということ。誰でも医薬品販売を行えば、公共の福祉が害されることになってしまうからだ。


②店舗販売業とは

一般人への医薬品販売ができるのは、薬局と許可を受けた販売業者である。そのうち、店舗販売業という区分が存在し(同25条)、条文上では次のように定義される。
一般用医薬品(医薬品のうち、その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであつて、薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているものをいう。以下同じ。)を、店舗において販売し、又は授与する業務』

今回提訴しているのは、この「店舗販売業」者がネット販売ができないのはおかしい、ということであろう。


③店舗販売業の許可権者は都道府県知事(同26条)

過去にカタログ通販などを取り締まってこなかった(公的に認めていた)のだから、今後もいいじゃないか、という論点に通じる。本来、取締を行うべきは許可権者たる知事であり、都道府県単位で行えということになるだろう。厚労(厚生)省が野放しにしてきたのだから、認めていたものと同じ、というのはやや問題がある。厚労省には、知事への命令権限があるわけではないのであって、元来違法と解釈されても不思議ではなかった通販を行っていた販売業者に対して、許可取り消し等の対応をすべきであったのは知事である。厚労省がこれを命じることはできないはずである。


④店舗販売業の品目制限(同27条)

店舗販売業者は、一般用医薬品以外の医薬品販売は不可能である。条文上では、以下の通り。
『店舗販売業の許可を受けた者(以下「店舗販売業者」という。)は、一般用医薬品以外の医薬品を販売し、授与し、又は販売若しくは授与の目的で貯蔵し、若しくは陳列してはならない。ただし、専ら動物のために使用されることが目的とされている医薬品については、この限りでない。』

従って、ネット通販などを行う「店舗販売業」者は一般用医薬品しか扱えない、ということになる。


⑤販売方法の制限(同37条)

条文上では次の通り。
『薬局開設者又は店舗販売業者は店舗による販売又は授与以外の方法により、配置販売業者は配置以外の方法により、それぞれ医薬品を販売し、授与し、又はその販売若しくは授与の目的で医薬品を貯蔵し、若しくは陳列してはならない。』
(2項省略)

ここで言う「店舗による販売」が、ネット販売を規制するかどうか、ということになる。基本的には、ここの解釈の相違が、高裁判決と厚労省見解の違い、ということになるだろうか。
過去においても、一律に強力な規制をしてしまえば、それこそ離島や僻地等の薬局などの存在しない地域の人たちにとっては、不利益が大きいというようなことがあるだろうし、比較的危険性の低いものについては一般用医薬品全般と同じレベルで規制するのが望ましいとも言えない面があったことは確かなので、ある程度柔軟に対応してきた=全部を違法として摘発したり許可取消等の強力な規制権限を発動してこなかった、ということではないか。


2)販売方法を規制することの根拠

何故規制しなければならないか、という言い分について、簡単に言うと「危険だから」ということで、高裁判決文からするとそれ以上のことが判り難いような印象を受ける。一応、当方の個人的理解の範囲で書いてみる。


①一般化学薬品は危険なもの

大まかな原則として、化学薬品類は危険性がある、だから、各種規制法が制定されているものである。例えば、毒物及び劇物取締法農薬取締法などがある。化学物質には様々な危険性が存在し、これを人体に用いることの多い医薬品類となれば、規制水準に厳密さを要求されても当然と言えよう。薬事法による規制については、医薬品の危険性をどのように制御すべきか、ということが根底にある。


②販売者側の規制

これは、医薬品に限ったものではない。毒物や劇物でも、農薬でも同じである。販売者には、販売方法や貯蔵・管理状態などの基準が課せられる。制限が存在することそのものに違憲性や違法性があるとは考えていない。同様の法規制は、多種多様に存在するからである。


③需要(購入・使用)者側の規制

論点として重要なのは、ここである。厚労省の主張では、あまり見られていなかったように思われる。裁判所見解でも、述べられてはいなかったように思う。
具体的にどういうことかと言えば、簡単に言えば「薬剤、化学薬品等を購入する人間がどういう人か」ということであり、極端な例を挙げるならテロ目的で購入したらどうするんだ、といったような話である。
毒物及び劇物取締法でも、農薬取締法でも、購入した人間を特定できるようにしておく必要がある、ということだ。医薬品においても似ているわけだが、普通は薬局で処方箋で購入する人は、その時点で個人が特定されている。一般化学薬品の購入においても、実験用として買った人間が誰かというのは特定されるわけである。どうしてかと言えば、先に述べたように危険なものを別な目的で使用されてしまうと大変なことになってしまうから、である。テロ目的や殺人目的で購入されないとも限らない、ということだ。だから、購入者の特定という点が考慮されているわけである。

また、販売側は薬品類の貯蔵・管理体制について法規制が及ぶわけだが、購入した人の方には基本的には規制が及ばない。一般的には、危険な貯蔵となるほど大量に買い込んだりすることはないはずだが、管理不備が酷ければ水質汚染や土壌汚染に繋がらないとも限らない。用量依存性に危険性の高まる薬物が殆どであるはずで、保管・所持している量が問題となるはずである。また、紛失や盗難といったこともあるかもしれない。

これらを広くまとめて言ってしまうと、販売側規制だけではなく、購入する人間の方に対する危険度をどう考えるのか、という点が問題になるのである。ガソリンや灯油だって、一か所に大量に保管していると、大変危険なので危険物として制限を受けるわけである。
なので、購入者の特定できない仕組みであるとすれば、自ずと品目や販売に制限が課せられるのは止むを得ないと考える。基本的に医薬品は危険なものだから、である。購入者の特定ができるなら制限の範囲は緩和されてもよいかと思うが、なりすまし等の対策がどうなのかという点は留意する必要がある。対面販売の場合であると、そのこと自体が犯罪等に抑止的に働くだろうと思われる(面が割れる、不審に思われる、等)。


3)薬剤師業の観点から

ネット販売企業の主張からすると、ネット上で店舗側に画像前に薬剤師が24時間存在しうる状態にあり、いつでも情報提供ができるのだから、薬剤師が存在する時に販売できる医薬品は全部売れるようにしろ、ということであろうか。
反論をいくつか述べるが、薬剤師がそこにいるからといって、何でも販売できるわけではないことは明らかだ。


①店舗販売業は一般用医薬品のみ

これが基本である。もしも薬剤師が存在するので、もっと範囲を広げたいということなら、そもそも店舗販売業の許可ではなく、薬局の許可申請をすべきであろう。


②薬剤師の業務としての『調剤』

店舗販売業における薬剤師の業務としては、「医薬品の販売」が行われるわけであるが、販売はあくまで販売であり、『調剤』とは異なる業務である。
薬剤師法上の業務としては、薬剤師は「調剤」行為が法的に許容されているが、店舗販売業の許可しかない店舗においては「調剤」該当行為は許容されない。法文上で「販売」と「調剤」が業務内容として明確に区分されていることは明らかである。例えば、薬事法第5条では、2号規定として次の条文がある。
『二  その薬局において医薬品の調剤及び販売又は授与の業務を行う体制が厚生労働省令で定める基準に適合しないとき。』

調剤、販売、授与が法文上で異なる、というのは明らかだ。
では、『調剤』とはいかなる行為なのか。薬事法上の定義は存在しないが、これは医師法歯科医師法で医業や歯科医業の法的定義が書かれていないのと同じ意味合いであろうと思われる。すなわち、時代によって、医学等進歩が反映され一律に定義するのが困難であるから、だ。
ただし、法的な見解は判例が存在している。

大正6年3月19日 大審院判決
『一定ノ処方ニ従ヒテ一種以上ノ薬品ヲ配合シ若クハ一種ノ薬品ヲ使用シテ特定ノ分量ニ従ヒ特定ノ用途ニ適合スル如ク特定人ノ特定ノ疾病ニ対スル薬剤ヲ調製スルコト』

一種かそれ以上の薬品を、特定用途に適合するように、特定人の特定疾病に対して薬剤を調製する、ということだ。普通に考えられるのは、処方箋に応じて調製するということであるが、狭義ではそう解釈できるわけだが、医薬品全般を見れば、1種類の医薬品であっても、例えば「鎮痛剤を一瓶」販売する場合であっても調剤行為と看做せるわけである。
薬局と薬剤師は、医療法が及ぶ対象であるので、基本的には医療の提供の一部をなしているわけである。よって、胃薬を売る、という場面においてであっても、調剤行為になるわけであるから、当然に調剤行為に伴う薬剤師の義務は発生する。具体的には薬物アレルギーの確認などを怠って、重篤なアレルギー発作が起こってしまえば注意義務違反を問われる可能性が生ずる、ということである。

よって、薬剤師が常駐しているとしても、その行為が「調剤行為」に該当すると判断されれば、店舗販売業の規定に反する。

また、医薬品をネット販売することで、薬剤師が調剤行為を行うことになってしまうならば(具体的には「H2ブロッカーを販売する」など)、調剤行為の実施にあたり使用者に面会することなく可能なのかどうか、ということになるわけである。購入者の人品特定や評価を行わずに、大陪審判例のいう「特定人の特定疾病」に対して適切に調剤できるのか、ということである。医師が患者を診察せずとも診断できる、というのと似ており、通常の医療では考えられないような話である。

すなわち、テレビ電話等でネット接続されているとしても、購入者が薬剤師の顔をいくら見ても何の意味もないわけである。薬剤師から購入者が見えなければ基本的には役に立たない。しかも、それが騙し絵のようなものではない、ということが確認できなければならない。


因みに、提訴したネット販売企業の採用試験が、全てネット上のペーパーテストとチェックシートの結果のみで判定しているのだろうか。もしも面接が必要だということで、直に面接をしているなら、大笑いではある。質問のやり取りの様子などを観察しているのであれば、「チェックシートで事足りる」とする主張と食い違うようにも思われるが、いかがだろうか。
特定人(需要者)に対する調剤行為で一般に面接が必要と判断されるのは、何ら特別なことではないだろう。特定人が薬物使用後ある一定の期間経過していて、薬剤効果と病状等が安定しているというような場合においては、改めて面接が重要ということにはならない(=郵便等販売でも対応可能という場合もある)、ということだ。


要するに、
・店舗販売業の場合には薬剤師が常駐しているとしても『調剤』該当行為は不可
・『調剤』を行う場合には当人との面談等がなく薬剤師業を実施することは困難
であって、
いずれの場合でもインターネット映像を介する常駐薬剤師の存在が問題を解決できることにはなっていない、ということである。使用者からの質問に回答できる、とか、薬物の情報提供が行える、といったことは、調剤行為の正当化にはならない。


医薬品の種類によっては、調剤行為に当たらないか、面談等を必ずしも必要としない薬剤師業務範囲内に留まる医薬品販売ならば可能、ということが言えるだけである。店舗販売業で薬剤師が行える医薬品販売とは、そうした範囲内にある業務に限定されて当然だ、ということである。



長くなったので、つづく