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医薬品のネット販売に関する最高裁判決〜各論編2

前のつづきです。


4)薬事法上の省令への権限委任(同29条の二)

提訴企業は元々厚生省令であるところの「薬事法施行規則」(改正薬事法においては厚生労働省令)の内容が、薬事法に規定されていない販売方法の禁止事項が「根拠法の委任限度を越えている」ということであったと思われる。
薬事法29条の二における厚生労働大臣権限の及ぶ範囲として、販売方法の規制は違法性があるかどうか、ということが争点となっていた。条文は次の通り。

厚生労働大臣は、厚生労働省令で、店舗における医薬品の管理の方法その他店舗の業務に関し店舗販売業者が遵守すべき事項を定めることができる。』
(2項省略)

「店舗の業務」に関し「店舗販売業者が遵守すべき事項」というのが、果たして販売方法(本件でのネット販売規制)までをも含むのかどうか、という点である。
この点に関しては、過去の経験からすると行政側有利の判断が圧倒的多数だったのではないか。「店舗の業務」だと官僚が言えば、誰も覆しようがなかった、ということである。本件では、意外や意外、霞が関官僚の言い分を退けているので、これまでの判決と大きく異なるのはどうしてなのか、という疑惑が生じるのも無理はない(笑)。まさか、当方のようなザコが最高裁批判をしたからといって、急に良心に目覚めて体制寄りの判決とはしなかった、というようなことでもあるのだろうか。そんなワケはないだろう。あるとすれば、もっと上位のご意向を汲んで、ということくらいか、という邪推の生じたわけがご理解いただけただろうか。大きく逸れた。


薬事法規定の範囲内において、これを補助する為の法律として厚生労働省令が位置づけられているはずであろう。そうすると、条文中の「店舗において販売」乃至「店舗による販売」が、具体的にどういった内容となっているか、ということを立法的に明示的に区分しよう、ということであるなら、省令での規定が必ずしも不合理というべきものとも言えないのではないか。カタログ通販やネット販売等、過去の薬事法時代には存在してこなかったような販売方法の登場によって、「店舗において販売」を更に明示的に区分するということである。行政法の関連でいえば、昔だと条文の疑義解釈のみで対応してきたような内容について、省令で規定するということの方がむしろ公正明大であるように思われる(昔が暗黒すぎた、ということかもしれないが)。

この疑義解釈という意味は、通常は所謂「通知・通達行政」というもので、法文には書いていないことを、後出しで附加的に解釈をするというようなことである。法律変更という正規手続きではなく、行政側が有利な解釈変更等で対応するというものだ。本件でも出されていたのは、昭和63年通知であった。

http://www.wam.go.jp/wamappl/bb13gs40.nsf/0/49256fe9001ac4c749256f08001be27c/$FILE/siryou.pdf


厳しく見るならば、29条の二の規定が、「こんな都合のいい条文ならば、どんなことだって入るじゃないか」という反論は正当なものだ、ということになる。「その他店舗の業務」とは、全部じゃないか、と。確かに一理ある。これがあらゆる法律に通用してしまうというレベルなら、今後一切「その他」や「等」で境界不明瞭として誤魔化す条文(笑)は一切作れない、ということになる。(将来時点の)未知の領域さえも「法制定時に判っておけ」ということになりかねない、かも。


インターネット販売という販売方法は「その他店舗の業務」には該当しない、という解釈ならば、省令で規制するのは違法となる。それとも、インターネット販売という販売方法は無害なのだから規制する利益が存在しない、故に省令の規定は合理的とはいえない、ということなら、行政の規制権限の超越が過ぎる、ということかもしれない。

行政側としては、猶予期間を設けて対応してきたということもあるし、制定に際しては有識者会議もパブコメもやったじゃないか、ということもあるから、たとえそれが形式的にではあるとしても、必ずしも手続的問題を指摘できるかどうかであろう。



以上、あれこれと書いたが、まとめると次のようなことだ。

前記の通り、薬剤師業務と調剤の定義からすると、店舗販売業者に薬剤師が存在していても「調剤行為」はできない、従って薬剤の性質からみて、一般用医薬品の第一類医薬品販売は薬剤師固有の業務となっている為(薬事法36条の五)、当然に販売が規制される。
薬事法施行規則(省令)上でも第三類は販売が認められているのであるから、薬剤師による販売が義務付けられていない第二類販売が、ネット販売不可となるかどうか争点となるだろう。ネット販売全般が全て最高裁判決で解禁された、というような解釈はあり得ないのではないか(最高裁判決文をまだ読んでないので、実際どうなのかは判りませんが)。
登録販売員による販売が認められている第二類医薬品の販売について、郵便等販売が妥当か否かという点に絞られるだろう、ということだ。第二類医薬品に含まれる成分が、量的に多くなった場合の人体や環境に与える影響等で「危険性があり得る」という判断に当たるものについては、若干の規制(具体的には、購入者の住所氏名の特定等)があってしかるべき、ということにはなるだろう。商品発送先情報が判明しているのであれば、基本的には追跡可能状態と判断して、販売は認められてもいいのかもしれない。

例えばビタミン剤は有害作用が殆どないから、というような理由を挙げる人がいるかもしれないが、妊婦のビタミンA過量摂取や、ビタミンD過量摂取などによる有害作用は存在するので、安全だと言えるものではないわけである。ドリンク剤であっても、過量摂取後に急死したりしている事例は海外で報道されていたので、危険性がないとまでは言えないわけだ。
基本的には、最初に書いた通りに、化学薬品類なのだから安全だというものはほぼないわけである。使用方法を誤るとか、殺人目的等の目的外使用などの危険性はあるわけで、販売規制はいらないとまでは言えないのではないか、ということだ。


これとは別に、東京高裁や最高裁が「行政の省令制定範囲」や「通知通達行政」について、全部ひっくり返して、権限範囲を超越しているからダメ、という厳しい意見なのであれば、行政法やその解釈の在り方について根本から変えろ、ということで、そういう裁判所の判断なのだな、と受け止めるわけである。
つまりは、薬事法29条の二のような、曖昧な都合のいい条文は今後二度と作らせない、という最高裁の断固たる決意の表れということだな(笑)。細かい部分まで、全部国会審議で上位法の中で決めろ、という法体系にすればいいだけだから。



裁判官の人のツイートチラッと見かけたが、行政が裁判所を舐めている、とかいう問題ではないのではないか。
むしろ、裁判所の検討レベルが低いんじゃないのかな、という気がするわけだ。法学関係の人たちが、最高裁判決が省令制定に注文をつけた、というような見方をしている向きもあるようだが、何度も言うが「店舗における販売」がどんな態様でもいいとするかのような解釈拡大は、過去から存在してきたものとは思われないわけである。

薬局やドラッグストア系の実態を知るわけではないが、特に大手チェーン店などで薬剤師確保が困難(費用がかさむ、需要が多く集めるのが難しい等)だからといって、「薬剤師不在」状態で薬剤師業務を無資格一般人が行ってきた、というような脱法行為が繰り返し行われてきていたのが問題とされていたのではないのだろうか。潜脱を繰り返してきたのが営利企業の側であって、違法な業務運営してきたというのを「過去の実績」と称して、これを「これまで今の方法でやってきたので、今更規制するのはおかしい」と言い張っているように見えなくもない。
日常的にスピード超過をしていても取締で捕まったことがないから、という理由で交通違反で切符を切られる時「これまでずっとこの速度で走っていて一度も警察に捕まったことがないのに、その同じ速度で走っていた今日に限って捕まえるのはおかしい」と主張する人みたいなものか。


事故発生確率が極めて低い、だから規制はいらない、などという意見が当然だとすれば、例えば日本ではテロ活動による死者・被害者は過去30年間で何人存在したか、飛行機爆破テロはなかったなら、どうして国内線でさえ搭乗時検査や手荷物検査などがあんなに無駄に厳重に行われるのか、説明できるのだろうか(笑)。安全性担保というのは、そうした面があるだろう、ということだ。少ない確率かもしれないが、防ぐ努力をすることで軽減できるならば、国民の合意や理解を得る範囲で規制するのはあり得るだろう。



以下にトラックバックしてみた。このブログでは初の試みである。

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