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医薬品のネット販売に関する最高裁判決〜場当たり司法の歴史2

2)高松高裁(H8.2.27)

・概要:
20年以上前の手術時に薬疹と思われる皮疹(原因物質不明)があった患者が、脳外手術後の退院時アレビアチン及びフェノバールの処方を受けた。内服後症状出現し、約1カ月後に薬剤アレルギーの疑いで治療開始されるも、中毒性表皮融解壊死症(TEN)の診断にて病状悪化により死亡。副作用の情報提供に義務違反があったとして医師の過失認定。


・判示:

①『医師には投薬に際して、その目的と効果及び副作用のもたらす危険性について説明をすべき義務があるというべきところ、患者の退院に際しては、医師の観察が及ばないところで服薬することになるのであるから、その副作用の結果が重大であれば、発症の可能性が極めて少ない場合であっても、もし副作用が生じたときには早期に治療することによって重大な結果を未然に防ぐことができるように、服薬上の留意点を具体的に指導すべき義務があるといわなくてはならない。即ち、投薬による副作用の重大な結果を回避するために、服薬中どのような場合に医師の診断を受けるべきか患者自身で判断できるように、具体的に情報を提供し、説明指導すべきである』

②『単に「何かあればいらっしゃい」という一般的注意だけでなく、「痙攣発作を抑える薬を出しているが、ごくまれには副作用による皮膚の病気が起こることもあるので、かゆみや発疹があったときにはすぐに連絡するように。」という程度の具体的な注意を与えて、服薬の終わる二週間後の診察の以前であっても、何らかの症状が現れたときには医師の診察を受けて、早期に異常を発見し、投薬を中止することができるよう指導する義務があったというべきである』



・ポイント:

①をまとめると、

  ・医師の「観察外で服薬」する(のだからそれ相応に)
  ・結果が重大なら可能性が極めて少ない場合でも未然に防ぐ義務
  ・重大な結果を回避する為の具体的説明、指導が必要
   (患者自身で判断できる程度の具体性が必要)

ということである。


②でも、「何か異常があれば受診せよ」程度の抽象的な注意では足りず、副作用として「皮膚の病気」「かゆみや発疹」といった具体的指示内容をもって指導すべき義務があった、としている。



薬事法上において「一般用医薬品」(医療用の医薬品とは区別される)であっても、TEN(中毒性表皮融解症)の発生例が報告されていたことは既知であるから、ネット販売においてもそれが「起こらない」と言うことはできないだろう。


すなわち、TEN発生可能性のある薬物である場合には、患者自身でも受診必要性について判断できる程度には具体的説明指導の義務がある、と裁判所が求めているのであるから、ネット販売で「同意」ボタンクリックくらいでその義務が果たされているかどうか、ということが問題となろう。

因みに、最高裁判事ケンコーコムなんかのネット販売業者のシステムがこれら義務の要件を十分に満たしている、と判断していることだろう。




3)大阪高裁(H11.6.10)


・概要:

喉頭炎にてステロイド剤点滴(7日間)及びボルタレン内服7日分投与の患者が、出血性胃潰瘍に起因する出血性ショックとDICなどにより胃全摘等受けるも約1カ月後に死亡。患者は約20年前に胃潰瘍の薬物治療歴があったものの既往歴で医師には申告せず。未申告の患者過失割合は2割相当として相殺されたが、医師には検査義務があったのに行わなかったことにより過失認定。


・判示:

『一般に、患者に対して消化性潰瘍等の重篤な副作用が発現するおそれのある薬剤を継続的に投与する場合には、原則的に許容されている投与期間を超えて投与するとか、副作用の発生の兆候がみられるような場合、副作用が発生したか否かについての十分かつ適切な検査をする義務があると解するのが相当である』


・ポイント:

判示では原則5日間のボルタレン投与期間を超過して投与していたことが問題とされ、なおかつステロイド点滴治療との併用も問題視された。患者の訴えとして、5日目頃に膨満感があったのに内視鏡検査等の実施をしなかったことが過失とされた。薬物の副作用として平易に考えられ得る症状が現実に発生した場合には、たとえ患者側が申告していなくとも薬物投与側が適切に判断しなければならず、その責任を負わされるということである。



風邪薬や鎮痛剤等で、投与期間の原則はどの程度守られていると考えられるだろうか?別の店で購入したりしていても、購入者以外には判らないのではないか?
ネット販売業者が投与期間によって購入制限を設けていたりするものなのか?多剤併用になっている一般購入者は、珍しくないのではないか?
患者が「〜の既往はあるか?」の問いにNOと答え未申告であろうとも、その過失割合は2割に過ぎないか、事例1)の如く聴取できないとしても投与側に責任が存すると決めつけられてしまうのである。



医療者には過度に厳しい基準で過失認定、達成が困難な程度に高度な義務を課すくせに、何故か同じく薬物投与する立場の一般販売業者や薬局などには安易に投与することを推奨しているのが、最高裁判事なのである。