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医薬品のネット販売に関する最高裁判決〜場当たり司法の歴史4

記事が昨日はとんでしまいましたが、続きです。


6)福岡地裁(H6.12.26)

・概要:

喘息既往を有する患者に対しロキソニンを投与したところ、アスピリン喘息発作を誘発し死亡。投与した歯科医師に過失認定。

・判示:

『なるほど、上記医師に課せられる義務のうち、研鑽義務については、医療の高度化に伴って医師が極度に専門化しているがために、薬剤の知識について医学の全専門分野でその最先端の知識を修得することが容易なことではなくなっていることは想像に難くないが、いやしくも人の生命および健康を管理するという医師の業務の特殊性と薬剤が人体に与える副作用等の危険性に鑑みれば、上記のような医師の専門化を理由として前記のような研鑽義務が軽減されることはないというべきである』

・ポイント:

喘息発作を誘発する可能性があることは当然に投与する側が把握しておくべきであり、研鑽義務が軽減されることもない。妥当な判決と言えるだろう。
添付文書の内容などは薬物投与側が当然に知っておくべきであり、これはネット販売などにおいても同様。安易な薬物使用や投与は、発生頻度が一定であれば、使用者数の母数が増大すれば被害の発生も増大する、ということになる。

レモン市場と同様に、薬物においても情報の非対称性が問題となりうる。ニセ薬の横行はその実例と言えるだろう。また、情報(医療)を熟知していない人の自己判断・自己責任による薬物選択や使用は、病状悪化を招いて健康被害や医療費増大を助長しかねない。



7)横浜地裁(H15.6.20)

・概要:
正露丸アレルギーの存在が疑われた患者に、検査目的でICG投与したところ、アナフィラキシー反応を来たし死亡。長期に渡り鼻炎もあり、ヨードによるアナフィラキシーショックが発生しないかどうか、投与前に確認しておくべきであったとして、問診に過失認定。

・ポイント:

裁判所としては、アレルギー体質が疑われた患者であったので、当然にヨード剤のアレルギーを予見してしかるべき、という判断であったものと思われる。ヨード系はアレルギーが比較的よく見られるものであるから、注意が必要であるというのはよく知られた事実であるが、鼻炎の存在で「アナフィラキシーを予見できた」といったような要求は、無謀に過ぎるとしか思えない。

正露丸アレルギーという点でも、これが本当に「アレルギーであったか」というと疑わしいかもしれない。患者が何かを内服した時、たまたま「背中が痒かった」「手が赤くなった」「顔の発疹のようなものが出た」ということがあって、それが本当に薬物起因のアレルギー反応であったかどうかは判らない。単なる偶然のことは少なくない。

実際にアレルギー反応の疑われた薬物について、チャレンジテストなどを実施すると陰性として問題ないという結果が得られることは珍しくもない、ということである。患者の申告する症状というのは、「何かと関連している」という前提(思い込み)などからアレルギーだとか薬疹だといった誤った認識をもたらしている場合がある、ということだ。

ヨード系のアレルギーがあるとして、食品とかうがい薬なんかはこれまでどうだったのか、というと、恐らく問題とはなってこなかったのであろう。
裁判所が要求する水準でいけば、鼻炎の存在で「アレルギー体質ではないか」→「ヨード系のアレルギー反応を予見し防げる」、といった論法となり得るわけで、ネット販売でヨード系うがい薬のような外用薬を販売する場合でも、アレルギー体質を確定してから投与せよ、さもなくば過失認定ということになるだろう。


8)福岡高裁(H17.12.15)

・概要:

内視鏡検査前に局麻薬としてリドカイン投与、その直後より容体急変し、患者死亡。担当医は脳幹部梗塞が死因と主張するも、アナフィラキシーショックによる死亡と判断し医師の過失認定。

・ポイント:

腹部エコー検査後、内視鏡検査目的で准看護師キシロカイン投与したようである。恐らくは咽頭部の嘔吐反射抑制の為、キシロカインのスプレーかゼリーを使用したのではないか。

内視鏡検査にあたり救命カートなどの常備が検査室内になく、緊急薬品や救命器具の不備が指摘された。また心電図モニターの記録も全くなく、その他客観的な証拠となりえる記録類も一切なかったことで、医師の信頼性が疑われたことも判決に影響した可能性があろう。内視鏡検査開始前後での、血圧等のチェックもなかったようだ。

1審は患者側敗訴(認容額ゼロ)だったが、控訴審で逆転判決となった。


実際のところ、キシロカインによるアナフィラキシーショックだったかどうかは疑問の余地はある(ひょっとするとリドカイン中毒の可能性?医師側が脳幹部梗塞と主張していた理由として容体変化初期の意識障害や振戦が観察されていた為?)。

ただ、医療体制としては、内視鏡検査時のモニタリングや救急セットの不備などが指弾されてもやむなしと思われる。救命可能性は何とも言えないが、4)の最高裁判決の如く、当時の標準的医療水準が達成されていれば生存可能性があったかもしれないとすれば(死因が正確には判らないので判断は難しいかもしれないが)、賠償を負うのもやむを得ないという気はする。


薬物を投与する以上、相応の責任を負うことは当然ということだが、ネット販売解禁を最高裁判事が支持するのであるとすれば、投与する側の責任はできるだけ小さくしておき、事故や問題が起こったならば「事後的救済」ということにせよ、ということを推進してゆくつもりなのかもしれない。


C型肝炎で製薬会社に一律救済せよと大騒ぎしていたのが、本当に不思議でたまらんわ。「厚労省攻撃の為」に用いられたネタであったわけで、PMDA増強せよ、というのは、その一部だ。
本当の狙いは、厚労省から知財関連分野を分離して、医師や薬剤師等の関与を弱め、かつて行われた「医薬分業」という美名の下に薬価決定過程に「欧米系製薬会社」の意向を反映しやすくする、というものだった。

医者が関わってくると「医師会という既得権益集団」が外資系グリードたちの邪魔をしてくるから、それを少しでも排除していこう、ということだったろう。


日本の医療を良心的な医師たちの関与下から奪い取り、保険会社や製薬会社がガッポリ儲けられる仕組みに作り変えたい、そういう勢力は常に色んな手を使ってくる、ということだ。