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在日米軍に法は全く通用しないのか〜3

2)主権免除という最高裁判決は妥当か


本項では、本シリーズ最初に取り上げた、平成14年4月の横田基地騒音訴訟の最高裁判決について考える。



再掲しよう。


外国国家に対する民事裁判権免除に関しては,いわゆる絶対免除主義が伝統的な国際慣習法であったが,……おいても,【要旨】外国国家の主権的行為については,民事裁判権が免除される旨の国際慣習法の存在を引き続き肯認することができるというべきである。



いわゆる主権免除と呼ばれる考え方であり、国家(政府)が他国の裁判所において民事事件の被告とされることはない、とする慣習であった。けれども、近年においては、例外が認知されるようになり、実際に他国の裁判例で政府が被告とされた事件は存在してきた。簡単に言えば、私人の行為に類似する行為(商業活動など)は裁判免除は受けられず、公的行為は従来通りに免除される、というものである。


最高裁は判決文中で、絶対免除主義を採用するものではなく、制限免除主義を肯定してはいるが、本件についてみれば主権的行為=民事裁判権が免除される公的行為だ、として、請求を否認した。



(再掲)
本件差止請求及び損害賠償請求の対象である合衆国軍隊の航空機の横田基地における夜間離発着は,我が国に駐留する合衆国軍隊の公的活動そのものであり,その活動の目的ないし行為の性質上,主権的行為であることは明らかであって,国際慣習法上,民事裁判権が免除されるものであることに疑問の余地はない。したがって,我が国と合衆国との間でこれと異なる取決めがない限り,上告人らの差止請求及び損害賠償請求については被上告人に対して我が国の民事裁判権は及ばないところ,両国間にそのような取決めがあると認めることはできない。




このような裁判官の意見を到底同意することなどできない。
拙ブログの言い分については、後ほど述べる。


まず、近時ではどのようになっているのか、というと、日本は大陪審判例の変更がこの後の平成18年に行われた。


平成18年7月21日最高裁判決
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/348/033348_hanrei.pdf



国連裁判権免除条約に署名、批准

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%80%A3%E8%A3%81%E5%88%A4%E6%A8%A9%E5%85%8D%E9%99%A4%E6%9D%A1%E7%B4%84



国内法の立法措置も取られた。

外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律
(平成二十一年四月二十四日法律第二十四号)

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H21/H21HO024.html



このように、基本的には制限免除主義を最高裁判例や法律で明確にした、ということである。


これら立法措置は、横田基地騒音訴訟の時代には遡及できないから、これらの存在を理由として当時の裁判官たちを批判できるものではない。




ここで少し離れて、別角度から眺めてみることとする。


①合衆国連邦裁判所の姿勢

日本の最高裁判事は米国の判事を少しは見習うといい。最近話題の従軍慰安婦問題であるが、この裁判例が米国連邦裁判所であった。

米国籍を有しない女性15名が、日本政府を被告として賠償請求を行った、というものである。当然、外務省は主権免除だ、と合衆国政府に主張したに違いない。だが、裁判は行われた。連邦最高裁判決は2006年頃だった。産経新聞が連邦最高裁で却下された、といったような記事を報じていたはずである。


この件でも、日本製紙事件からでも分かるのは、合衆国裁判所のjurisdictionは日本で考えているより広いし、国際礼譲とか主権免除ということに対しては、少なくとも日本政府相手であれば安易に免除なんかしない、ということである。日本の最高裁が言うような、国際慣習法の存在ゆえに司法の役割を易々とは放棄してこなかった、ということだ。


もう一つは、合衆国連邦最高裁が日本の団体が提訴した米軍機の飛行差止訴訟(だったはず)で述べた原則がある。一般論として、連邦法を域外適用するには、当該法律がその旨を明示している必要がある、というものである。別の連邦最高裁判例でも同じく「法律は特段の定めがない限り域内にしか適用されないと解釈すべき」旨が判示されている。


ここから分かることは、米国法は原則として域内にしか適用されない、すなわち在日米軍は依然として属地主義的に、日本法の適用下にある、ということである。そして、在日米軍に対する規制措置としては、米国の域外なので米国法が適用できない、米国法の条文に域外適用の定めがない以上やむを得ない、と判示さえれたものだ。


結局のところ、従軍慰安婦訴訟では日本政府の主権免除とはなっていなかったこと、国際礼譲による管轄権の謙抑というのは明確な一般国際慣習法ということではないこと、在日米軍には原則として米国法が域外で適用できないこと、などが合衆国連邦裁判所の考え方であると思われる。



②主権免除の例外にはならないのか

日本の最高裁は米軍機の行為が「主権的行為」、すなわち国家(公的)行為論で国際慣習法上民事裁判権が及ばない、としている。

これには異論の余地があるものと考える。


理由1: ヨーロッパ国家免除条約

第11条 訴訟が法廷地国における身体の侵害もしくは有体財産に対する損害に関係する場合

受忍限度を超える騒音被害は、「身体の侵害」となりうると考える。これは本条約上の11条に該当するものと判断するから。


理由2: 国際刑事裁判所ローマ規程

「人道に対する犯罪」に抵触する可能性があるから。騒音被害は、『身体又は心身の健康に対して故意に重い苦痛を与え、又は重大な傷害を加えるもの』に該当する可能性がある。


理由3: 国際法協会における裁判権免除の例外規定

『E 法廷地国に存在する動産の所有、使用の権利、利益に関する訴訟』、或いは、『F 人身傷害、死亡、または財産の損害、損失に関する訴訟』に該当する可能性が高いから。
空域や海域を使用する権利がE、騒音による人身(健康)傷害がF、と判断する。


理由4: レイカー航空事件判決

国際法上、英国管轄権が優先するとの英国政府主張を、国際法及び米国法を理由として退けたこと。国際礼譲は自国(本件では米国)公共政策に影響がある場合認められない、英国裁判所の差止め命令は米国の反トラスト法実施の妨げなので認めることができないとした。
つまり、属人主義的な適用を否定、なおかつ日本の公共政策に影響する場合の管轄権は日本にあってしかるべき。


理由5: ハートフォード社事件判決

同時に2カ国の法規制下にある者は、同時に両方の法を遵守できる場合、conflictは存在しない(=故に同時にどちらも遵守すべき)。
a)適用される日本(外国)法が、米国法では禁止する行動を義務付け又は強制する場合、或いは、
b)米国法を遵守することが日本(外国)法によって発動される命令に違反する場合
には、管轄権が米国になっても当然と考えられ、その場合本来的には在日米軍が日本法適用下にあるが日本は国際礼譲という慣習法に従い管轄権の主張をしない、ということになる、というものである。

すなわち、米軍機の行動が、日本法に従うと自動的に米国法に違反してしまうならば、管轄権は日本にない、とすべきということである。


理由6: レテリエル事件判決(1980)

米国における主権免除についての法律が、外国主権免除法として76年に制定された。その法の適用と裁判権を巡り、チリ政府との管轄権の衝突が生じた事件である。判決中で、以下のごとく判示されている。

a)外国の不法行為又はその公務員、被用者が職務範囲で行った不法行為について、米国内の個人に生ずる身体損傷、死亡、財産損害に関する損害賠償訴訟は主権免除を認めない
b)(外国政府の)「裁量機能」とは(=いわゆる政府の公的行為となるべきもの)政策的な判断や決定が介在する余地がある行為を意味し、国家が違法行為を行うことの、又は公務員(や機関職員)に違法行為を行わせるという裁量は有していない
c)外国政府に政策的判断の自由があっても、国際法及び国内法で認められた人道の規則に反する行動をとるような裁量は有してない
d)チリ政府の行為がチリ国内では可能(合法的、政府の政策の裁量内)であったとしても、米国内に不法行為損害が発生すれば国家行為論は適用されない

これを在日米軍に照らせば、合衆国政府には自由裁量権があろうとも、日本の国内法に明らかに反するような裁量権は有しておらず、不法行為損害が日本国内で発生するなら国家行為論(日本の最高裁の言った主権的行為、論のことであろう)は適用されない、とするものである。

従って、主権免除を認めるだけの理由というものは、どこにも見当たらないというべき。
あるとすれば、米軍機の行動が日本国内法に従うと米国法では違法となってしまうか、米国法に従った結果日本法で発動された命令に違反する場合、である。


健康を害するほどの騒音被害を与えることが、米国法の要求しているところであるとは、到底思われないが。
仮に在日米軍は日本法に従う国際法上の義務を有しておらず、民事裁判権免除が許される立場であろうとも、在日米軍が合衆国憲法及び連邦法、連邦最高裁判例、コモン・ロー、国際法に違反する行動を許される、などとは考えられないし、米軍を規律する米国法や自由裁量の政策が、大勢の日本国民を夜中のジェット機の騒音で苦しめるよう行動することを要求しているなどとは想定できない。


論点を戻すと、米軍機騒音の民事訴訟において、法廷地国である日本では、在日米軍(合衆国政府)相手であると、主権免除という国際慣習法の存在により管轄権がないとする最高裁判決は、明らかな不当である。
上記に列挙した理由1〜6により、平成14年4月当時、国際礼譲の存在により裁判権が免除されることを正当化できる理由など、何一つ見当たらないというべき。

また、米国法を遵守した上で、日本国内法を遵守することが法理において不可能という事態でない限り、合衆国軍隊はいずれの法をも遵守するべきなのである。日本国内法を遵守することにより米軍の活動が著しく妨害され、その結果として合衆国の安全を脅かすというような、最大に優先すべき利益が証明されない限り、米軍は日本法の及ぶ範囲にあるものと考えるべきである。


平成12年の日米共同声明において、以下のように述べられている。

環境保護及び安全のための在日米軍による取り組みは、日米の関連法令のうちより厳しい基準を選択するとの基本的考えの下で作成される日本環境管理基準(以下「JEGS」)に従って行われる。その結果、在日米軍の環境基準は、一般的に、日本の関連法令上の基準を満たし又は上回るものとなる。日本国政府及び米国政府は、JEGS を見直し、2年ごとに更新するための協力を強化する。米国政府は、関連法令に適合して、日本における環境を保護するよう常に努力を継続する。

当然に、日米両政府の法の管轄下に置かれる在日米軍であるから、どちらの法も遵守することにより共同声明中にある「日米の関連法令のうちより厳しい基準を選択する」ことになるのは必然である。


合衆国連邦最高裁判例は、以前からこれを要求してきたものであり、合衆国政府がこれを無視するのは、法の支配の否定というべきである。
米軍が本当に無法集団でない、というのであれば、米国は米軍に法を守らせるよう規律すべきである。


日本の裁判所が、米軍を変に庇っているのだ。
外務省も防衛省も同じ。

オスプレイの飛行訓練ルートにしても、国内法を遵守せねばならないので、国土交通大臣の許認可が必要ということであるはずで、意図的に米軍の言いなりを演じる為に「どこでも飛んでいいですよ」と国民ではなく米軍を守っているんだよ。

本当なら、国交大臣が「認めない」と拒否すれば、それで済む話なのに、だ。


日本の最高裁は、連邦最高裁の爪の垢でも煎じて飲むべきではないのか。
官僚たちも、同じ。
政治家たちもだ。


これほど腐った国家なのは、どうしてなのだ?

あまりに酷い。