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辺野古沖基地建設に係る埋立承認取消の代執行に関する裁判の争点について〜4

国の主張の要旨を見つけました。

若干の反論を書きましたので、取り急ぎ。


https://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=142068


(一部引用)

本件の「処分の取り消しによって生ずる不利益」は、辺野古沿岸域を埋め立てる最大の目的の、普天間飛行場の周辺住民へ危険除去ができなくなることであり、96年に日米間で合意して以来約19年間にわたって日米両国が積み上げてきた努力がわが国側の一方的な行為で無に帰し、日米間の外交、防衛、政治、経済など計り知れない不利益だ。さらに、普天間飛行場跡地利用による宜野湾市、県の経済発展の計画は白紙に戻され、県全体の負担軽減も実現されないことになる膨大な不利益が生じる。

 国は辺野古沿岸域の埋め立て工事等のため約900億円の契約を締結し既に約473億円を支払っており、承認が取り消されれば全くの無駄金となり、国民がその負担を背負うことになる。

 (中略)


最高裁判決の位置づけ

 行政処分の安定性・信頼性の確保は、行政事件訴訟法がそれを指導理念としているものである。また授益的処分の取り消しは、授益的処分に法律的な瑕疵があったからといって取り消すことはできず、極めて限定的な場合にのみできると考えられている。

 最高裁1968年判決は、授益的処分をした行政庁が、その違法または不当を認めて取り消すためには、「取り消しによって生ずる不利益と、取り消さないままの不利益を比較し、公共の福祉に照らして不当だと認められるときに限り、取り消すことができる」として、違法な行政処分の取り消しを極めて例外的な場合と限定し、この高いハードルを超えない限り瑕疵があったとしても取り消しはできないとしている。

 本件が授益的処分なのは明白で、判決が示すハードルを超えない限り適法に取り消すことはできない。

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◆契約金等の損失

原告国の言う契約額約900億円や払済金473億円は、本件埋立事業において、実質的に未だ埋立工事が実施されておらず、ボーリング調査すら完了し終えていないのであるから、違約金を支払ってもなお解約できる余地はある(朝霞公務員宿舎の建設計画に際しても、計画取りやめで数十億円もの違約金が発生すると主張していたが、やはり建設工事は中止された。その違約金がいくらであったか問うべきである。財務省の説明と違っている場合には、理由付けの為に過大な金額を言うのが常道だからである)。
しかも過去に繰り返し基地建設事業の関連費用や調査費用等で無駄に国費を浪費してきたに等しいものも含まれており、そもそも杜撰な事業計画に起因するものであって、埋立を不承認にしたことによる直接的費用はもっと小さい。


宅建設工事を想定してみよう。工事の請負契約をしたとして、契約書に中途で契約破棄する場合の違約金があるだろうが、まだ基礎工事前の更地状態でボーリング調査(杭打ち問題で言えば、工事前の調査に過ぎない)を実施した段階であり、これを契約解除できないなどという理屈はないだろう。
これまでかかった費用は損失とはなるが、元の事業計画が悪いからであり、無駄な基地建設工事により将来的な事業費用が数兆円単位にかかるよりは、損失がはるかに小さい。



判例適用の基本的な誤り


原告国は、次の最高裁判例を引いて、処分の取消によって生ずる不利益と、取消をしないことで処分により既に生じた効果を維持することの不利益を比較考量すること、また処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当である場合に限り取り消すことができると解する、と主張する。

(報道記事からは、判例詳細が不明であるが、当方が探してきた、恐らく以下のものであるという仮定で書くものとする。国の訴状には引用判例の記載をしてほしい)


【昭和43年11月7日 最判小一 民集22巻12号2421】

すでに法定の不服申立期間の徒過により争訟手続によつてその効力を争い得なくなつたものであつても、処分をした行政庁その他正当な権限を有する行政庁においては、自らその違法または不当を認めて、処分の取消によつて生ずる不利益と、取消をしないことによつてかかる処分に基づきすでに生じた効果をそのまま維持することの不利益とを比較考量し、しかも該処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められるときに限り、これを取り消すことができると解するのが相当である(昭和二八年(オ)第三七五号、同三一年三月二日第二小法廷判決、民集一〇巻三号一四七頁参照)。


しかし、判例の適用及び解釈の誤りは明白である。

第一に、上記判例は法定の不服申立期間の徒過している場合であり、異議申立者は処分の当事者に該当しない訴外人であるといった、通常の行政手続法・行政不服審査法などの救済制度を用い得ない場合に、適用されるものである。

すなわち、前記判例の言うように既に通常の争訟手続によって争い得なくなった処分の取り扱いについては、「不利益の比較考量」と「公共の福祉の要請」を検討した上で処分の取消や変更を行政庁は行うべし、とするものである。本件においては、法定の争訟手続によって争い得なくなった処分でないことは明らかであり、事実行政不服審査法に基づく審査請求が事業者からなされているのであるから、本判例の適用は誤りである。

第二に、本判例には次のような指摘がある。

かかる処分が、本件におけるごとく、法定の要件に違反して行なわれ、買収すべからざる者より農地を買収したような場合には、他に特段の事情の認められない以上、その処分を取り消して該農地を旧所有者に復帰させることが、公共の福祉の要請に沿う所以である

取り消されるに至った、その元となる処分が「法定の要件に違反して行なわれ、買収すべからざる者より農地を買収したような場合」なのであって、本件埋立について考えれば、「法定の要件に違反して行われ、埋立すべからざる者より埋立された場合」であるなら、埋立承認の処分を取り消すことは可能である証拠である。

これにより行政庁が「争訟期間を経過している処分」であって、しかも買収計画や所有権取得登記が完了しているものであっても、行政庁が取り消すことを認容したものである。本件について見れば、未だ埋立工事の具体的作業が何らなされておらず埋立地竣工や土地取得すら生じていないのであるから、これを取消できないとする理由はない。

かえって、行政庁が既に授益的処分をした場合であろうとも、その処分に違法の誤りがあって、これに気付いた場合には、不利益の比較考量の上、処分を取り消す方が公共の福祉の要請に合致しているならば、契約関係が完了しているとしても「取り消してよい」ということを補強している判例であると言えよう。


以上により、この判例の適用誤りについての説明は十分であるが、一応主張点であるところの埋立承認を取り消した場合の不利益と埋立承認によって生じた効果を維持した場合の不利益について検討する。


①埋立承認の取消によって生じる不利益

a.契約関係における金銭的損失
b.国際関係上の不利益
c.普天間飛行場に関する不利益


②埋立承認の維持によって生じる不利益

・回復困難な不可逆的変化をもたらす
環境保全が極めて困難
・景観の破壊
・自然公物の自由使用の制限
・永続的軍事施設の残存
・航空機等による騒音、振動など


②の影響が大きいとするのが、知事及び沖縄県の判断である。
また、国の言う①の不利益のうち、普天間飛行場に関する不利益や沖縄県の負担軽減に関する不利益については、「本件埋立工事」が必然に生じさせるものではないことは明らかであって、本来これら不利益を除去すべき義務を国が負うものであるから、その措置を政策的に実現するべきことである。

たった一つの埋立工事に、これら全ての要件が存するという立論そのものに破綻があり、それでは埋立工事の成否いかんにより、ありとあらゆる効果が波及するという、通常では行政には考えられない状態が本件工事ということになる。それならば、当然に立法措置をもって対処すべき深刻な事態であるから、特別法があってしかるべきところ、その存在は証明されない。


少なくとも、cについての不利益の解消は、国が知事の執行停止を決定していることから、「重大な損害」要件を満たしているのが明らかなので、別の政策をもって不作為を早急に解決すべき義務を負うものと言うべきである。

a.の損失は既に述べた。b.の不利益は、あるにはあるが、国の主張では抽象の域を出ないものであり、米国との約束を反故にすることが甚大な不利益を生じるというのなら、前の記事で述べた通りに日米関係はとうに破綻していることであろう。



簡単に言うなら、国が主張の大半に費やしている、埋立工事をしないとどうなるか、というデメリットの強調であるが、殆ど検討以前の問題である。あくまで法の技術的議論というか、手続の正しさをまず見るべきであって、国の言う理由のあれこれはほぼ関係がない。それ以前の話だということ。


沖縄タイムス記事からさらに引用する。

そもそも法定受託事務として、公有水面埋立法に基づいて一定範囲の権限を与えられたにすぎない県知事が、わが国における米軍施設および区域の配置場所などといった国防や外交に関する国政にとって極めて重大な事項の適否を審査したり、判断する権限がないことは明らかだ。法を所管する国土交通省の所属事務に国の国防や外交に係る事項の適否の判断は含まれず、法に基づく法定受託事務の範囲で公有水面埋め立ての権限を付与されているにとどまる県知事に、米軍施設および区域を辺野古沿岸域とすることの国防上の適否について審査判断する権限が与えられていない。

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これが典型的な例。
米軍基地になって、これがどのように運用されるか、は、本件埋立承認についての代執行手続が正当かどうかには影響を及ぼしていない。拙ブログでの争点1〜3でも、米軍基地の配置が妥当か否かなどといった検討は全くしていない。

知事が判断していいのか、という国の言い分であるが、これを反対しても問題ない。
埋立について、「承認」や「承認取り消し」といった処分が、適法に手続きされたかどうか、をまず見ているものである。完成した埋立地の利用状況が政治的に正しいかどうか、の判断以前の問題なのだ、ということである。


国の行った埋立申請の手続上においては、制限海域の提供という点において違法があると見るべきである。
更に、審査請求に対し裁決をすることなく、また代執行を行える条件を整えることなく、本件代執行の手続きを行い裁判を請求している点が、埋立地の目的や用途や運用方法の是非を判断するまでもなく、根本的に誤っている、ということだからだ。


故に、原告国の主張は、無効なものが圧倒的に多いのであり、更に言えば、上記判例の適用すら「満足にできていないのではないか」ということである。


国の訴状には、取消処分の根拠として挙げた条文の4条が国に準用されない、といった主張がなかった。この点が、最も攻撃されるのではないかと想定していたのであるが、取消条文の誤り、これがなかったのであれば、前の記事の「論点10」で述べたように、形式的には取消処分は有効となるだろう。



19日10時頃 追記:


損失となる金額について、次のような質問をするべき


「900億円が損失だと言うが、例えば、朝霞公務員宿舎建設計画が中止になった際、財務省が最大40億円程度の違約金等損失が出ると主張していたことが報道されていたが、受注企業の大林組はこのような違約金を受領していない、とも報道された。現実には、建設計画中止に伴って、いくらの違約金の負担が発生したか?その総額に対する割合は何%か?」

「もしも本件工事において、発生するであろう違約金の割合が朝霞公務員宿舎と比較して大幅に違うなら、その理由は何か?契約上のミスではないのか?」

「原告国は473億円の損失額について、不利益の理由として挙げている。このうち、埋立承認後の平成26年度予算以降に入札及び契約となった金額と実際に支払った金額(A)はいくらか?」

「米国政府が未払いとなっているFMS調達の金額はいくらか?」

日米地位協定に基づく米国政府の負担相当額(25%部分)のうち、米国政府が未払いの金額はいくらか?」

「これら米国政府が払ってない合計額(B)と(A)を比較して、沖縄県知事が与えた損失額の大小を言え」

沖縄県知事が与える損失を、甚大な損害であるかのように主張しているのに、米国政府には請求できず明らかな損失を与えていることを放置することは行政として許されるのか?」

沖縄県知事が与えた損失が大であって、米国政府は許されるとするなら、その法的根拠や合理的理由をいえ」

「米国政府と地方自治体に取扱の差別はあるのか?ないなら、何故米国政府が許されるのか?」

「(A)以前に払った金額は、現知事の任期外で無関係であり、損失を言うのは不当。そもそも承認がない時点で払った金額を算入するのは国の勝手な希望的観測による(承認はきっと得られるであろうという)皮算用的支出によるもの。承認が得られないなら、どの時点でも損失になるに過ぎない」