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行政不服審査法に基づく申立て権と執行停止について(代執行裁判での主張)

国の機関が申立てを行うのはおかしい、防衛局が申立てをして、審査庁たる国交省(大臣)が裁決や決定を行うのは、内輪でしかないからおかしい、というようなご意見があるのは承知しています。

確かに一理あるかもしれません。
凄い例になりますと、盗人が自分の刑事裁判をやって判決を出すみたいなものだ、くらいのご意見を見かけたようにも思います。そこまで酷いかどうかは別として、審査制度としてどうなのか、本件ではどうなのか、ということを見ていきたいと思います。


1)現行法上、地方防衛局の申立て権は存在する

まず、沖縄防衛局に申立ての権利行使はおかしい、という点についてです。私人とは違うのだから、不服申し立てが認められるべきでない、という主張があるのは分かりますが、その理由とか根拠については説得力に欠けるように思います。

既に述べた通りですが、現行法上でその権利行使が条文において定められている以上、これを「認められない」とするのは、かなり強力な反対論が必要であると思います。シリーズの記事中で「論点9」に示した通り、法律に規定があるものを否定するのは極めて困難であると言わざるを得ません。


争点その2>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/bf7e5efbaafe1bec40232961a216b126


再掲しますと、通称、駐留軍用地特措法、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法」の22条です。

○第二十二条  
収用委員会が第十九条第四項に規定する期間内に裁決をしない場合において、地方防衛局長から行政不服審査法 (昭和三十七年法律第百六十号)第七条 の規定による異議申立てがあつたときは、収用委員会は、同法第五十条第二項 の規定にかかわらず、第十四条の規定により適用される土地収用法第三十九条第一項 の規定による申請に係る事件を防衛大臣に送らなければならない。
(以下略)


『地方防衛局長から行政不服審査法第七条の規定による異議申立てがあつたとき』とはっきり書かれています。これは申立て権があることを示しているわけで、これが違法である違憲である、ということを立証するのは極めて困難です。

そもそもこの条文が違憲立法であることを、どう説明できるのか?
大義名分として、国民の救済制度として設けられているという主旨は分かりますし、その主張自体はおかしいものではないですが、現実と適合していないとしか思えません。行政不服審査制度の全般を相手にして、違憲であることの主張を通すのは無理筋としか思えません。周知の通り、過去に違憲立法の主張が認められた裁判例は極めて少なく、拙ブログの管見では勝てる見込みは皆無に等しいのではないかと思います。


2)申立て者の違いが問題なのではない

国が国に審査請求するのがおかしい、という意見は、そうかなと思えるかもしれませんが、本当にそういう問題なのでしょうか?

例えば、裁判を考えてみましょう。
最高裁長官は内閣が指名するし、裁判官の任命も内閣です。下級裁も最高裁の名簿を内閣が任命します。それに、身分は公務員であるし、内閣の影響から逃れられるわけでもないと言えます。
実際、砂川判決のような例があるわけですから、裁判所だってどうせ政府の味方だ、という見解もあり得るでしょう。
それでは、裁判所が国を審理するのはおかしい、と言いますでしょうか?

国が控訴したら、裁判の請求者は国です。国を裁判所が裁くのが、ルール違反だというようなことを言いますでしょうか?


違いますよね。少なくとも、司法は独立であって、いかに最高裁長官が内閣の指名であろうとも、裁判所が判断することは是とされているわけです。それは、申立人が私人であるか、国であるか、の問題なのでしょうか?


そうではなく、あくまで「審査する立場」の側の問題なんだ、ということではないでしょうか。裁判所が公正中立に判断するという前提があればこそ、国を相手に戦うことができる、ということです。申立てを誰が行ったのか、というのは、大きな問題ではないのではありませんか、ということです。審査請求権が地方防衛局にあったとしても、その審査が公正であれば問題はないはずではないか、ということです。


つまり、裁判所に相当する立場、すなわち、審査を担当する側の問題なんだということです。
行政不服審査法に基づく審査は、審査庁が行うわけですが、その審査庁の判断が裁判所と同等の公正性が確保されていなければならないのです。たとえ行政機関が申立て人であったとしても、審査が適正かつ公正であれば、出される結果は信頼に足るものであるはずです。

行政機関同士の相互監督といいますか、そのような機能は審査制度以外にも存在しています。顕著な例は、会計検査院の検査です。他にも、事業や処分の決定にあたっては、他省庁の大臣意見を求めなければならない、という規定は多数存在します。行政が政府内でいくら検討してみたって、味方するだけだから意味がない、というようなことを言ってしまえば、本件での農水大臣意見照会とか、埋立免許前の国交大臣認可や環境大臣意見などの手続きも不要かつ無意味に帰することになりかねません。

どの程度の監視・牽制機能があるのか、実効性はどうなのか、はおくとして、建前上は省庁間なり行政機関相互において、ある程度の抑制的権限(機能)は働いているものと考えるよりないものと思います。処分庁と審査庁の関係性はこれに類するものと考えます。


3)「執行停止」の何を問題とすべきか

ここまで書いてきたように、行政不服審査法が私人じゃない行政機関の申立てを予定してないからダメなんだ、とか、国が国に申し出すると仲間内をひいきにする結果を出すに決まっているんだ、というような、制度全体を相手に主張しても勝ち目がないのでは、と思うわけです。いくら抽象論を述べても、違憲の立証はハードルが高いでしょう。

そうではなく、「判断をする側」の問題を捉えるべきなのです。裁判であれば、判決(文)ということです。
訴訟制度はおかしいとか、裁判所が国を審理するのはおかしい、などと言わずに、個別の判決について、これを問題とすべき、というのと同じです。


本件審査請求と執行停止の場合で見れば、防衛局に「審査請求権があるのはおかしい」を証明することはかなり困難ですが、「執行停止」の決定は果たして妥当かどうか、を言う方が比較的容易なので、こちらを見るべきということです。


それは、条文なり法が要求する必要条件が「本当に満たされているのか」という点を攻撃するべきということです。この要件を満たしていない場合には、当然にこの決定は不適法となり、決定の効力を失わせるか取り消させる事由となります。

行政不服審査法34条4項にいう要件について、国に対し立証を求めるべし、ということです。条文から、必須要件はこれです。
処分により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要がある

国は「重大な損害がある」こと、「緊急の必要がある」ことは、執行停止決定通知書でも述べていますから、同じ主張をしてくるものと思います。これの妥当性の判断は、早い話が裁判所の判断に依存すると思います。「いやいや重大ではない」といくら反論しても、決定権限を有する行政側が通常は有利です。


残るは、除外規定の3つ(但書)です。

公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、処分の執行若しくは手続の続行ができなくなるおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるとき

普通は、埋立事業そのものは、公共の福祉に「重大な影響を及ぼすおそれ」に該当すると主張するでしょう。この立証は可能です(大規模埋立事業ですので)。
また、「処分の執行ができなくなるおそれ」についても、工事作業を継続されてしまうと埋立地が完成してしまい、「執行ができなくなるおそれ」があると言えます。これを立論できればよい。事実、国は埋立作業を継続すると官房長官会見でも述べていますから、それを証拠とできるでしょう。


従って、主張の仕方としては、防衛局に審査請求の権利があるのは違法・違憲である、というのは困難なので回避した方がよく、大臣の出した執行停止決定は「除外規定のうち2つに該当している、故に執行停止は誤りである」(=執行停止を取り消せ)と主張する方が、勝てるチャンスは出てくると考えます。


得られる効果(執行停止が取り消されること)は同じですが、申立て人が国の行政機関なのでダメなんだ、と言うのを避けて、審査する側が公正にやってないからダメなんだ、という方向に主張を変えるということです。

審査する側が公正にやってないからダメ、と主張する根拠とか理由はなんだろうか?、というと、「不公平じゃないか」という部分が審査庁の決定には存在するはず、ということです。すなわち、「執行停止するなんて、おかしいじゃないか、何故なら……」という説明をするのと同じようなものなのです。審査庁の決定が本当に一分の隙もなく適正であるなら、誰が見ても「執行停止決定もやむを得ないな」と思うはずでしょう?

そうではないのなら、その理由というものがあるはずなのです。そこを衝くべき、と。



※補足ですが(15時頃):

拙ブログでは、執行停止決定はこれが残っている方が得策であると主張してきましたので、執行停止を裁判で取り消させることができるとは考えておりません。ただ、沖縄県側の言い分というか、検討を求めた部分にこの「執行停止」があったようなので(確かに執行停止がなければ工事作業は中断させることができるから)、戦い方をどうするかという点から書いてみました。

あくまで国の主張する「重大な損害」と「緊急性」を完全否認せず残したまま、除外規定での「執行停止決定は不当である」との論に導くべき、ということは変わりません。