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日本国憲法と第9条に関する論点整理〜5

帝国議会の議論が引用部が非常に長くて、読み難いと思いますが、どうか全部お読みいただければ、と思います。
ここまでで、当時の政府答弁から、制定意図がかなり見えてきたのではないかと思います。

法学の重箱の隅を突くような話ではなくて、当時の議員も世論も9条の意味合いというものを、かなりよく検討し議論した結果であることが分かります。また、「芦田修正」として一身に責任を負わされる立場になったかのような芦田均委員長(当時、自由党議員だった)ですが、これも議事録から面白いことが分かりました。


4 9条の文言の変更は「芦田均」の主導ではなかった 

当時の政府提出案は、制定されたものとは違うわけですが、衆議院の「帝国憲法改正案委員会」での審議を経た段階でもなお、文言の変更はなかったのです。その後に、「憲法改正案委員会小委員会」の懇談会で議論が重ねられた結果、制定条文の形が出きてきたのです。



1946年8月1日 衆院 帝国憲法改正案委員小委員会


○芦田委員長 それでは速記をやつて宜しうございます──第二章に參りまして、宣言すると云ふ言葉に付て色々議論をしたのでありますが、若し宣言すると云ふ字を取つて、此の間の修正案の通りで、多數の委員諸君の異議がなければ、是は臨時に私が斯う云ふ案を作つて見たと云ふ程度のことですから、最後の宣言すると云ふ文字を削つて、それで一應の修正とすることに御異議がないでせうか、第二章の九條です

○鈴木(義)委員 讀まなくても分りますが、非常に私は心配するのです、どうも交戰權を先に持つて來て、陸海空軍の戰力を保持せずと云ふのでは、原案の方が宜いやうに思ふのです、其の點に付て十分御考慮下さつたでせうか

○芦田委員長 私は之を保持してはならないと云ふ書き方が……

○鈴木(義)委員 いや其の書き方を變へるのは贊成しますが、順序を變へることです

○芦田委員長 順序を變へるのは其の人の趣味で、例へば演説をする時に、一番大事なことを一番初めに言ふ人もあれば、一番大事なことは最後に言ふ人もある、是は其の人其の人の趣味であつて、偶偶私の趣味が一體交戰權は之を認めないと言ふから、戰爭を抛棄すると云ふ結果が出て來るのだ、戰爭を先づ抛棄すると言つた其の後で、交戰權は之を認めないと言ふことは、どうも順序を得てない、それだから初めに交戰權は認めないと言つて置いて、國際紛爭を解決する爲の戰爭は之を抛棄する、斯う云ふことが原則から出て來る結果なんだから、それで後に書いた方が宜い、斯う云ふ風に私は感じたのです

○鈴木(義)委員 或る國際法學者も、交戰權を前に持つて來る方が、自衞權と云ふものを捨てないと云ふことになるので宜いのだと云ふことを説明して居りました、だから色々利害はあるのですけれども、何か先達て金森國務大臣は、戰爭の方は永久に之を抛棄する……

○芦田委員長 金森君と私の意見は、其の點に於て違ふのです

○鈴木(義)委員 それも分ります、十分御考慮下さつた後で、それで宜いと云ふことであれば私は強ひて反對しませぬ

○犬養委員 是は一寸法制局に伺ひますが、第九條の第一項は今一寸鈴木君が觸れられましたが、是は永久不動、第二項は多少の變動があると云ふ、何か含みがあるやうに、一寸此の間國務大臣の御發言があつたのですが、さう云ふ含みがありますか

○佐藤(達)政府委員 正面からさう云ふ含みがあると云ふことを申上げることは出來ないと思ひますが、唯氣持を分り易く諒解して戴けるやうに、金森國務大臣はああ云ふ言葉を御使ひになつたのだらうと思ひます

○犬養委員 隨て此の順序は無意味でなくて、相當意味がある……

○佐藤(達)政府委員 意味があると云ふことを申したい爲にああ云ふ表現を使はれたと思ひます

○犬養委員 是は一應論議の對象になる

○鈴木(義)委員 それから是は別なことですが、念の爲に此の條文に付て一寸申上げて置きたいのです、「國の主權」と云ふのを「國權」と直しましたね、併し國權を英語に譯すときに變な譯し方をされると却て迷惑する、英語の方では「シュターツゲワルト」に相當する言葉は、無理に使へば「パワー・オブ・ステート」と云ふ言葉もありますけれども、それは適當でない、英語では主權も國權も共に「ソヴァレンティ」です、だから此の通りで宜いと云ふことを御諒承願ひたいと思ひます

○大島(多)委員 あの宣言は取つてしまふと云ふ

○芦田委員長 それを今御相談します、今第一項と第二項とどうしようかと云ふ議論に入つて居つて、其の文句のことをまだ決めて居ないのですが、若しそれを取れば、第一項の一番終ひが「その他の戰力を保持せず」、此處で一寸「又」と云ふ字を入れた方が、何だか日本語としては宜いやうな氣がするのですが「又國の交戰權を否認する」……

○鈴木(義)委員 「保持せず」と云ふ言葉は口語體として一寸どうですか

○芦田委員長 「保持しない」とすると、此處で切らなくてはならぬですね、それで此の前、原委員から、やはり「保持せず」とした方が力強く且つ筒潔に出るのではないかと云ふ御意見が出たのですがね

○鈴木(義)委員 それはさう思ひますが、唯全體が口語になつて居るものですから……

○芦田委員長 「せず」と云ふのは口語ぢやないのですかね

○鈴木(義)委員 口語にも使はれませうね、唯感じがさう出て來ないやうな氣がする

○犬養委員 江藤さん、順序はどうですか

○江藤委員 順序はどうも原文の方が宜いやうな氣がするのですがね

○吉田(安)委員 昨日でしたか、金森國務大臣が一寸言うて居られた永久と云ふこと、第一項と第二項の何ですが、今又法制局の佐藤さんからの御話、さう云つたことを考へますと、大分是は強さに於て第一項と第二項──勿論第二項は何ですが、含みがあるやうに考へられるのですが、さうすれば是はどうでせうか、やはり原文のやうにして置いたら如何でせうか

○芦田委員長 それでは私もう一つ説明しなかつた理由を申上げます、原文の儘に第二項に置いて、さうして文句を變へると、關係筋で誤解を招くのではないか、獨立の條項として置く限りは「これを保持してはならない」、「これを認めない」と云ふ風にしないと、どうも却て修正することが薮蛇になるのだから、そこでどうしても日本は國際平和と云ふことを誠實に今望んで居るのだ、それだから陸海軍は持たないのだ、國の交戰權も認めないのだ、斯う云ふ形容詞を附けて「戰力を保持せず」と言ふことの方が、其の方面の交渉の時には説明がし易いのではないか、此の儘に置いて此の第二項の英文を書換へると云ふことは相當困難ぢやないか、斯う云ふ理由もあつて、それで之を一定の平和機構を熱望すると云ふ機構の中で之を解決して行く、斯う云ふ風に實は考へたのです

○犬養委員 今言はれた國際平和を誠實に希求すると云ふ前文は、順序を變へても入れてはいけないのですか

○芦田委員長 それは併し紛爭解決の手段として永久に之を抛棄すると云ふことも、やはりさうなんですね、それなら初めと……

○犬養委員 私の言ふのは、九條前文が、事態斯くの如くになつては萬已むを得ないと云ふやうな、讀んだ後味があるので、積極的に何か入れたいと云ふのが抑々の私の發言なんです、其の趣旨を御贊同願つて段々文章が變つて來たやうですが、最初に委員長が言はれた文章は非常に良い文章だ、それを第一項に入れて順序は原文通りにしたら、何處か差支へのある所が起りさうでせうか

○芦田委員長 結局私の考へは、第二項をどう云ふ風にして書換へるかと云ふことが一つと、それから日本が國際平和を望むと云ふことを入れたいと云ふことも一つで、其の爲には斯う云ふ風にして原文を第一項と第二項とを變へて、そして戰力の問題、交戰權の問題を形容詞の下に包含させるならば、是はやつて見なければ分らないが、其の方がどうも説明が樂に行くやうに思ふ

○吉田(安)委員 私は委員長の修正案文は最初から非常に贊成です、鈴木委員の御説もありますが、委員長の仰しやることに贊成します、併し金森さんの仰しやつたことに一寸引掛りがありますが、何か將來第二項の方はもう少しどうにかなりはしないかと云ふ氣がするのです

○芦田委員長 併しそれは憲法の書き方で決まるのではなくて、今後の日本の民主化の程度、國際情勢で決まるのだから、私は此處に「永久」とあるから、何かあると云ふやうなことは、形の上の問題としては非常に重要だが、實際問題としてはさう大した變りはないと思ふ

○原(夫)委員 私は草案の原文を非常に尊重し、又委員長の修正案に付ても非常な御苦心だつたことを思つて、一字一句忽せにしないで讀んで大體會得致して居るのですが、色々な本日の御議論の跡を考へて見まして、いつそ是は第九條の冒頭に「國の主權の發動たる戰爭」とある上に、少し文字が欲しいぢやないかと云ふ今犬養君の言はれた趣意から是は出發して居るのですが、そこへ歸つて一應考へて見る所に依りますと、委員長の修正案の「日本國民は、正義と秩序を基調とする國際平和を誠實に希求し」そこまで取つて、さうして前文に續ける、それ位の所ではどうでせうか
○鈴木(義)委員 贊成です

○原(夫)委員 委員長の勞苦を感謝して、贊成はして居つたのですが……

○芦田委員長 さうすると原案通りになるのですね

○鈴木(義)委員 原案の前に「日本國民は、正義と秩序を基調とする國際平和を誠實に希求し」、それから「國の主權の發動たる戰爭」、斯う云ふ風に續けて、やはり一項、二項と云ふことを原案の儘に殘して置いて宜い

○芦田委員長 さうすると二項は變へないと云ふことですか

○鈴木(義)委員 さうです

○芦田委員長 是は人の趣味の問題だが、之を讀んで、陸海空の戰力は之を保持してはならないと云ふと、何だか日本國民全體が他力で押へ付けられるやうな感じを受けるのですね、自分で……

○大島(多)委員 そこの第二項の所を斯う云ふ風に修正したらどうでせうか、「陸海空軍その他の戰力の保持及び國の交戰權はこれを認めない」……

○芦田委員長 だからそれだけを獨立して、さう云ふ風に直すことが果して關係方面と簡單に旨く行くかどうか

○大島(多)委員 いや、そこの所は私が言つたやうにする方が英文に忠實ですよ、そこの所は「ワン・センテンス」になつて居ないのです、私も之を考へまして、是は一文にした方がましだと思ふのですが──是は二つの文章になつて居りますが、それは一文にしても、ちつとも意味が變らないと私は考へます

○芦田委員長 併し欲せずと云ふことは、「ウィル・ネヴァ・ビー・オーソライズド」と云ふ言葉の飜譯としては、是は英文は變りませぬとは言へないんぢやないですか、相當強い言葉ですよ、決して許可はしない、斯う書いてある

○鈴木(義)委員 元來戰爭の問題だから、何か委員長のやうな感じを私共も最初は持つたんですが、考へて見ると、憲法は國家機關に對する命令を規定して居ることが非常に多い、何々を保障する、何々をしてはならない、思想及び良心の自由を侵してはならないと云ふのであつて、國家機關が、將來の政府は陸海空軍を設置してはならないと云ふことを命令して居るんですから、差支へないと思ひます

○芦田委員長 だから初め申上げたやうに、是は趣味の問題だが、我々の趣味では、其の他の戰力は之を保持してはならないと云ふやうな言葉を讀まされることが何だか……

○吉田(安)委員 それは分る、辛い

○芦田委員長 保持せずと云ふならば自分の決心だが、「オーソライズド」と云ふ字を使つた所は外にないでせう、此處に限つて「ネヴァ・ビー・オーソライズド」と斯う書いてある、それが何となく我々には辛いので、そこで保持してはならないと云ふやうな、一種の受動的な形でなく、自發的に之を保持せずと……

○鈴木(義)委員 保持せずとした時は、どう御譯しになるんですか

○芦田委員長 是は餘り良い飜譯でもありませぬけれども、「ナット・メーンテン・ザ・ランド・シー・エンド・エア・フォーシズ」──「ネヴァ・ビー・オーソライズド」と云ふやうなことは書かないで、斯う云ふ風にでもしたら……

○鈴木(義)委員 さう神經過敏に考へなくても宜いと思ふ、「オーソライズド」と云ふことは、要するに……

○芦田委員長 それは法理的にはあなたの仰せられる通りだと思ふ、唯讀んだ時に、此の文句が氣になる人は、私ばかりではなく、相當多いと思ふ

○鈴木(義)委員 私共もさう云ふ感じから、此の修正案を考へて提案した譯ですが、偖て段々思案して行つて手を着けて見ると、又元へ戻つて來て、是しかないと云ふやうな感じがしたものですから……

○芦田委員長 多數が原案で宜いと云ふことなら、是でも宜い

○原(夫)委員 原案の第一項に冠りを付ける、斯う云ふ……

○芦田委員長 唯簡單に之を保持せずと云ふ風に修正する爲には、何か一應の理窟を述べなくてはならない、なぜ斯う變へるか、それにはやはり前文のやうな形容詞を付けて、「日本國民は誠實に平和を希求するが故に戰力を保持せず、交戰權を否認する」斯う云ふことがあつた方が、修正の場合に幾分か樂に行くんではないか
○原(夫)委員 それは總て總合して、成べくさう云ふ風にしたいのは山々なんですが、私などもやはり最初から一項、二項を區別して、交戰權の問題と軍備の問題、此の關係が中々難かしいので、其の精神を探求するのに、同文章の出來上りに非常に苦心したんですが、併しながらそこまで草案で區別がしてあるんですから、戰爭抛棄と云ふことから、やはり第二項も來て居る譯ですから、そこで結局此の兩方を總括した何か文句があれば結構ですけれども、そこまでなくても、第一項の戰爭抛棄の頭に今言つた如く「國際平和を誠實に希求し、國の主權の發動たる」と言へば、國際平和を希念した國民が正義と秩序を基としたのだと言ふことだけでも、ここに冠が掛かると非常に文章の工合も宜し、觀念上からも非常に宜いのぢやないかと思ふ

○吉田(安)委員 私は個人としましては今原さんの仰しやつたことも能く分りますけれども、どうも第二項を見ますと、是が此の儘で憲法として殘ります以上は、將來之を讀む度毎に、國民の誰もが如何にも他力的に情なさを感ずるやうな氣がします、隨て委員長の仰しやる通り、是は積極的に之を保持せず、之を否認すると言つた方が宜いのぢやないかと私は考へます、是は許されない、保持してはならないと云ふことは一種の情なさを感ずる、隨て個人としては私は委員長の修正案に贊成を致します

○林(平)委員 どうも其の日其の日の氣持で色々に變ると思ふのですが、今の第九條は先日滿場一致で修正され、唯宣言と云ふ文字を殘すか殘さないかと云ふことだけが問題となつて殘つて居つた、又引繰返してしまふと……

○犬養委員 此の條文は私が居ない爲に保留されたんです

○芦田委員長 さう云ふことはありませぬ、委員が一人缺席したからと云つて……

○林(平)委員 それで宣言と云ふことだけが殘されたと私は承知して居ります、それから斯う云ふ風に修正しようと云ふ重點は何處にあるかと云ふと、保持してはならないと言へば非常な刺戟を與へる、此の點に重點があつたので、私は委員長案に贊成した譯でありますが、今日もやはり其の心持は變らないので、委員長案に贊成致します、又其の宣言を除くと云ふことにも贊成致します

○原(夫)委員 此の前、宣言と云ふことに主に議論が集中を致したのであつて、法律文章としては惡いのぢやないかと云ふことで、之に重點が置いてあつたけれども、是は宣言だけのことが問題になつた譯ではないんです、文章は全部の釣合等もあるものですから、そこで私は其の時に──今日は犬養委員も出席ではないし、大體私も贊成は致したが、其の次にまで延ばさうと云ふので、實は確定的な贊成意見も私は述べては居ない、出來るだけ二度も三度も發言をしたくないから、其の點詳しいことは申しませぬでした、そこはどつちにした所が、ものを良く作らうと云ふ重大な案件ですから、さう理窟なく……

○芦田委員長 御趣意は能く分りました、それではまだ進歩黨の方でも黨としての一定の意見がおありにならぬやうでありますから、是は後に廻しませう、やはり黨の意見を纏めて述べた方が……

○鈴木(義)委員 後にすると云つても、切りがないことですから、最後の結論が出て來るやうに、此處で一應は決めて置きたいですね、それで私も外の條文ならば蒸返しは決して致しませぬ、是は非常に心配して始終考へて居りまして、佐藤君も御存じだが、議場外に於ても、どうもあれは心配だから能く國務大臣の意見も聞いて呉れ、順序を變へることもどうかと色々話をした位で、此の條文は恐らく關係方面との關係に於ても一番大事な條文になると思ふから、他の事は決して蒸返ししないが、是だけは除外例として蒸返しても宜いと思ふ

○芦田委員長 御説の通り再檢討することにして、今一寸拜見すると必ずしも一つの黨でもまだ意見が一致してないから、やはり黨の意見を纏めて御話を願はないと纏めやうがないと思ふから、後廻しにして……

○鈴木(義)委員 大體論點は此處にある、此の論點を決めて返事することに御願ひしたい

○原(夫)委員 私も鈴木君と同意見だが、此處で英文の話から委員長の含みなど色々考へさせられる、ですから非常に研究になつて喜んで居るのですから、もう此の位な所で一應片付けて戴きたい

○芦田委員長 私も一刻も早く終りたいのですけれども、纏まりますか

○犬養委員 委員長の仰しやつた前掲の目的を達する爲めと云ふことを入れて、一項、二項の仕組は其の儘にして、原委員の言はれたやうに冒頭に日本國民は正義云々と云ふ字を入れたらどうかとも思ふのですが、それで何か差障りが起りますか

○芦田委員長 前項のと云ふのは、實は双方ともに國際平和と云ふことを念願して居ると云ふことを書きたいけれども、重複するやうな嫌ひがあるから、前項の目的を達する爲めと書いたので、詰り兩方共に日本國民の平和的希求の念慮から出て居るのだ、斯う云ふ風に持つて行くに過ぎなかつた

○吉田(安)委員 そこで、正義と秩序を基調とする國際平和を希求して、此の希求の目的を達成する爲め、陸海空軍其の他の戰力は之を保持してはならない、「これを保持せず」、斯うしたら「保持せず」と直しても目的が謳つてあるから、委員長の御苦心が生きる、委員長と意見の違ふ所は、一項と二項は原文の儘で、自發的な精神を生かして……

○廿日出委員 委員長の御心配になつて居る二項の所謂他動的な文句、何だか屬國ででもあるやうに國民に映る卑窟な氣持、之を完全に除きさへすれば、私は此の第九條は解決すべき問題ぢやないかと思ふ、實は新聞に載つた時の文は、是より違つて、「戰力保持は許されない。國の交戰權は認められない」、斯うなつて居ります、そこで誰も皆氣を腐らした、それが今度此の文に現れた時には、「これを保持してはならない。」「これを認めない。」と云ふ程度になつて居る、是は變つて居ると思つた、それを今度「保持せず」又は「保持しない」と、ぴしやつとやつて置けば、非常に心がすつとするのではないかと思ふ、それと同時に今前文のことを氣にして居りましたけれども、本當にあの前文があれだけの内容を含めた前文、さうして最後に「誓ふ」と云うた、あれが宣言だ、其の宣言の後に此の九條が直ぐ來ると見て私は何等差支へないと思つて居ります、長い間私は是で苦しんで居る、皆からも責められた、此の點だけでも直さなければならぬと隨分言はれた、そこでどうか第二項の所は何も加へずに、さつとやつて下されば一番解決するのではないかと思ひます

○芦田委員長 さうすると、今進歩黨の案は「日本國民は、正義と秩序を基調とする國際平和を誠實に希求し、國權の發動たる戰爭と、武力による威嚇又は武力の行使は、國際紛爭を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」、それから第二項に於て「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戰力は、これを保持しない。國の交戰權は、これを認めない」

○廿日出委員 それで宜しうございます、私は異論はありませぬ

○鈴木(義)委員 それなら大贊成です

○大島(多)委員 そこの所を英文に直す時にどうでせうか

○鈴木(義)委員 其の程度の飜譯は許されると思ひます

○笠井委員 此の九條の「抛棄」は否認に變へることに決定致したのですか

○芦田委員長 いや、「抛棄」に還つたのです、唯「抛」の字を放すと云ふ字にしようと云ふのです

○笠井委員 此の憲法に付ては、隨分「マッカーサー」の方でも力を入れて居るらしいですから、成べく此の原案に餘程力のある文章を作つて戴きたいと思ふ、認めないとか何とか簡單でなく──左樣に御願ひします

○江藤委員 私も大體今の笠井さんの御意見と同じです、成たけ斯う云ふことは原案を忠實に作るやうにと云ふことで宜いのぢやないかと思ふ、さつきの鈴木さんの御話にもありましたやうに、私等はさう抑へ付けられたと云ふやうな感じを殊更持たないのですけれども……

○芦田委員長 そこは非常に意見がある所でありまして、感情と言ふか、趣味の問題で、勿論是で何でもない人も澤山あるに違ひない、又之を見る度に始終口惜しい氣持のする人もあるのだから、是はもう百人百樣の印象を受けるので、決して其の感情を強ひようと云ふ趣意ではないのですが、併し相當に神經を起す人があるとすれば、神經の起らないやうなものに直すことが出來ないかと云ふ問題に過ぎぬのです

○鈴木(義)委員 どうです、皆さん、折角纏まりかけて來たのだから「保持しない」「認めない」と云ふことで原案通り御贊成願ひたい

○廿日出委員 皆さん贊成でしたら、私は異論はありませぬ

○芦田委員長 さうすると保持しないと直すのですか

○鈴木(義)委員 さうです

○芦田委員長 それではもう一遍讀んで見ませうか、「日本國民は、正義と秩序を基調とする國際平和を誠實に希求し、國權の發動たる戰爭と、武力による威嚇又は武力の行使は、國際紛爭を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戰力は、これを保持しない。國の交戰權は、これを認めない。」、斯う云ふことでしたね
 それでは第三章に參ります、第三章は最も修正案が多い所であるのですが、社會黨の修正案の各條を通じての精神は、生活權と云ひますか、生存權と云ひますか、それを國家が保障する條項をはつきりしたい、出來れば之を具體的に擧げたい、斯う云ふ御精神が一つだと思ふのです、そこで一應の私の個人的の意見でありますが、此の詳細な規定を、殊に勤勞者に對する詳細な規定を竝べる代りに、第十二條の「すべて國民は、個人として尊重される」と云ふ所へ、個人として尊重をされ、其の生活權は保障される、と云ふ一句を入れる、それからそれと對應して、第二十三條の「社會の福祉、生活の保障」と云ふ所で、生活の保障と云ふのは社會保障と云ふ方が私は正しいと思ひますから、さう云ふ風に直して、此の十二條乃至二十三條、どちらから見ても生活權の保障を憲法に於て約束して居る、斯う云ふことにして、さうして休息の權利があると云ふやうな條項は、二十五條あたりでも第何項かにして入れて、さう云ふ程度で何とか御考へ願へないか、是は非常に雜駁な意見ですから、尚ほ詳細に檢討して行けば、外に加へる問題も出て來るかも知れませぬが、是は一應の私の考へた點です




ここでの議論は、非常に興味深い。
前日までの議論の過程において、芦田委員長は、9条の1項と2項の位置を変更してみた方が、説明がつきやすいのではないか、ということを考えて、芦田委員長私案としての、修正案を提示していたものである。

これが、いよいよまとまりかけていたのだが、この回で再び戻ることになったのである。


論点としては、金森大臣答弁の2項の将来的な含み、という点が浮上した為であった。政府委員として呼ばれていた内閣法制局佐藤達夫も、金森答弁を否定してはいない。

これは、憲法制定当初から、2項については未来時点の政府なり国民なりが、国際情勢等により考え方(解釈)の余地を敢えて残すものとして想定されていた、ということである。この小委員会での議論でも、そのことが取り上げられたわけである。


この時、決まりかけていた、芦田委員長提示案は、主に進歩党の面々によりひっくり返されたものと見てよい。
芦田委員長は、自分の提案が通らない様子なので、この回の議論を打ち切りにして、とりあえず後日に回そうと、途中で提案をしている(党に持ち帰って。しかし、犬養委員の発言に端を発して、鈴木(義)や原(夫)らが決めてほしい旨を主張するわけである。


芦田委員長に食い下がったのは、鈴木(義)、犬養、廿日出らであり、最終的な憲法9条文言を導き出したのは、彼らだったわけだ。

芦田委員長は、若干ふてくされた感じで、彼らの言う修正の提案に応じていったことが分かる。時に、芦田は「個人的趣味の問題」であるかのような物言いをしたりもしているのが面白い。で、彼らの提案を拒否したい気分を、どうもね、辛いねという感じになっているわけだ。


吉田(安)は芦田の肩を持つタイプの人で、委員長に賛成を連発している。
多分、GHQ太鼓持ちっぽいのが、最後の方で発言している笠井と江藤で、英文の原案通りでいいんじゃないか、何でこんなに拘るんだ変える必要があるんだ、という感じだった。


芦田修正、と謳われてはいるが、実際には、芦田委員長は苦虫を噛み潰したかのような、仕方なしに受け入れたものとなっていたのだ。その他の委員(特に、進歩党の議員)さんたちが中心的な役割を果たしていたのである。文言の提案の一部は、芦田委員長からなされたものはあったわけだが、自分の案(1項と2項を入れ替える、というもの)が否定されてしまったので、当初政府案に近い形に戻ったことが非常に不満だったのだ。

金森君とは違う、とまで言ってしまったわけで。


※要点:

※4  「芦田修正」は、実際には芦田均委員長が主導したわけではなく、他の委員の意見を不承不承受け入れた結果だった。2項には、将来的に政府答弁の含みが残されていることを、制定意図として知った上で、1項、2項の順序を維持した。