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日本国憲法と第9条に関する論点整理〜11

少し間が空きましたが、再開したいと思います。
これからは、昨年の法改正が一体全体どういうものであったのか、という点について、見ることにします。


まず、基本的な部分で分かり易い、自衛隊法の改正から見ることにする。


自衛隊法は、自衛隊の性格を規定する根拠法であり、戦力に該当するかどうかの判断基準の一部をなしているものである。
昨年改正点について、重要部分を旧法と新法の対比で示す。



【旧法】

第三条  自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする。

2  自衛隊は、前項に規定するもののほか、同項の主たる任務の遂行に支障を生じない限度において、かつ、武力による威嚇又は武力の行使に当たらない範囲において、次に掲げる活動であつて、別に法律で定めるところにより自衛隊が実施することとされるものを行うことを任務とする。
一  我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態に対応して行う我が国の平和及び安全の確保に資する活動
二  国際連合を中心とした国際平和のための取組への寄与その他の国際協力の推進を通じて我が国を含む国際社会の平和及び安全の維持に資する活動

3  陸上自衛隊は主として陸において、海上自衛隊は主として海において、航空自衛隊は主として空においてそれぞれ行動することを任務とする。


【新法】

第三条  自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする。

2  自衛隊は、前項に規定するもののほか、同項の主たる任務の遂行に支障を生じない限度において、かつ、武力による威嚇又は武力の行使に当たらない範囲において、次に掲げる活動であつて、別に法律で定めるところにより自衛隊が実施することとされるものを行うことを任務とする。
一  我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態に対応して行う我が国の平和及び安全の確保に資する活動
二  国際連合を中心とした国際平和のための取組への寄与その他の国際協力の推進を通じて我が国を含む国際社会の平和及び安全の維持に資する活動

3  陸上自衛隊は主として陸において、海上自衛隊は主として海において、航空自衛隊は主として空においてそれぞれ行動することを任務とする。


分かり難いかもしれませんが、赤字部分が削除されたものである。
変更点はどのような目的によるものか?
簡単に言えば、制限を解除しているものである。その制限とは何か?次の2点である。


 a)侵略に対する防衛力という限定
 
 b)我が国周辺という地域の限定


第一項の変更は、自衛隊が「武力の行使」に該当する行為(例えば武力攻撃)を許される唯一の事態が「侵略」=相手からの攻撃だったものを、侵略がないにも関わらず武力攻撃を可能とする性格の組織へと変えたものだ。
第二項第1号の変更は、活動する地域の制限を除去したものである。


このような制限の解除を必要とする明確な理由について、内閣は何ら具体的説明をすることもなく、それがあることによる弊害なり現実の不都合があるという立論すらないままであった。
この変更は憲法上、問題を生じないのか?
従来からの法解釈論では、到底許されないというのが、法学者や元内閣法制局官僚や裁判官らの批判だった。


本シリーズ10までの整理としては、9条解釈論において、自衛隊が例外的に「武力の行使」が可能なのは、あくまで侵害から自己(自国)を防衛する為ということであった。3条1項はそれを実行可能にする法令である。
これを、直接・間接侵略の限定条件を除外するということは、侵略がないにも関わらず「我が国の防衛」を発動してもよい、ということを意味する。「我が国の防衛」とは、これまで述べてきた通り、自衛力self-defense forceを行使する(=実質的に武力の行使)、ということに他ならないのである。


自衛隊法ではできなかったことを今後やろうとするからこそ、法改正を実施したわけである。それは、前述した制限の範囲を超えた部分にあることは明らかである。制限を除外せずとも可能であったなら、そもそも法改正の必要性が生じない。

よって、本質部分はa)とb)にあるのであり、
・「侵略」がないにも関わらず「わが国の防衛」を可能にすること
・「我が国周辺の地域」ではないにも関わらず、活動できるようにすること
である。

しかも、PKO活動では周辺ではない地域にまで派遣されており、その活動ではまだ足りず、もっと別な活動内容を実行したいと考えているようである。


具体例で示そう。
例えば、イラク領内に「イスラム軍事攻撃団」がいるとしよう。
これが我が国の存立危機事態であると宣言する。湾岸地域が危なくなれば、それで我が国が倒れてしまう、と。よって、米軍、豪州軍、韓国軍、日本軍(自衛隊などと呼ばず軍でいい。それが安倍自民の悲願なのだから)が有志連合となり、イラクを救いに行くぞ、となる。イラクは救援を頼み、同意した、と(さしずめ米国が桃太郎、日本はキジで、残りが豪韓が犬猿となろうか)。

そこで、米国を中心とする有志連合軍は、安保理に「イラク領内の平和を守り、各国が行動をすることを求める決議」案を提出、これは可決される。具体的にどのような行動を実施するかは、これから決めればよいだけなので、とりあえず「行動しよう」と宣言する為の形づくりの決議さえあればよいからだ。


で、決議があるから、米軍はイラクへ攻め込む。
日本軍は、地域制限がないのでイラクでもOK、安全と平和に資する活動だからOK、という解釈で押し通すわけだ。これはあくまで「我が国の安全と平和の確保の活動」なのであり、有志連合軍に協力するべきだ、と。
イラク領内での戦闘には直接参加しないが、基地や米軍の配備している兵器を守備する為、基地を襲撃しに来る悪の組織たる「イスラム軍事攻撃団」を排除するべく、日本軍が戦う、というストーリーになっているわけだ。そして、基地運営経費や補給物資関係は、日本軍が「自ら負担します」ということが合法的に認められているので、戦費も出すということになるわけである。航空機の整備も勿論全部日本軍がやることになっているのである(国際法上でいう、中立国を超えるもので、戦争への加担と見做されるのと同等である。広く言えば、交戦権で規律される範囲の諸権利が含まれる)。


これらを可能にする法律群が戦争関連法だったのであり、自衛隊法改正はその一部を担っているものである。これら想定は、全て憲法違反と考えられる行為である。

(※国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律  法律第七十七号(平二七・九・三〇)に関する議論は次回に述べる。この具体例は、その際にも用いる為のものである)




戦力の定義を再掲しよう。
次の①を満たし、同時に②または③も満たすもの、ということだった。

①爆弾テロ防止条約4条にいう『Military forces of a State』に該当するもの
②軍事的紛争の解決乃至介入手段として意図した、或いはそれらを目的とした組織
③自衛力self-defense force(s)の限度を超越するもの


軍事的紛争のウ)(破壊活動を伴う敵対状態)に該当するものが上記例であり、この「介入手段として意図した組織」は戦力と見做さざるを得ず、すなわち憲法9条違反(戦力の不保持違反)となる。自衛隊法改正は、「介入を合法化する為のもの」を目的としているのであるから、違法であると考える。侵略がないのに、「我が国の防衛」=武力の行使(基地業務、整備、補給業務等を当然含む)を可能とすることも同じく、自衛権発動要件(ウェブスター米国務長官の3条件)を満たさず、国連憲章にも反する。


また、「自衛力の限度」であるが、これは害敵手段の効果以外に、地理的範囲は条件として考慮の対象となってきたものであるから、果たして「自衛力」というのが「我が国周辺の地域」を大きく離れて作用するのが当然と言えるのかどうか、という問題が生じる。1万km離れた地点から攻撃してくる敵に対して自衛隊を活動させるのか、或いは周辺地域乃至極東地域ではない遠くの場所で生じた軍事的紛争に対し、日本の自衛力行使が正当と言えるのかどうか、というような問題である。


自衛隊法3条の改正は、

自衛隊を「戦力」にしてしまう(戦力の定義②に抵触)
・「侵略」の制限除去は、自衛力行使の要件を満たさない
・地域制限の除去は、自衛力の制限を超える可能性大(=戦力)

となり、憲法9条に違反し、違憲立法であると考える。