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続・福島県の小児甲状腺癌〜UNSCEAR2016年白書に関して

どうも韓国での甲状腺癌の罹患率が上昇したことを喧伝していたような連中が、例の岡山大の津田et al.(2016)の論文*に対して、「フルボッコで瞬殺」などと貶しているようだ。

http://b.hatena.ne.jp/entry/s/togetter.com/li/1101123


*:Tsuda T, Tokinobu A, Yamamoto E, Suzuki E.. Thyroid cancer detection by ultrasound among residents age 18 year and younger. Epidemiology. 2016;27:316–322


話はそう簡単ではないように思えるが。拙ブログでも、UNSCEAR2016年白書は取り上げたが、あれの内容が何かの伝家の宝刀みたいに、そんなに権威のある記述なり主張が、相応の根拠をもってなされたとは見做せないわけだが。

2017年1月
http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/564990d61e1aa351e9d34b383f635b3d


UNSCEAR2016年の日本語版
http://www.unscear.org/docs/publications/2016/UNSCEAR_WP_2016_JAPANESE.pdf

(このp25のナンバー111の所が、津田論文への批判です)


反論の一つが、タカムラという著者の意見(T6)であった。

http://journals.lww.com/epidem/Fulltext/2016/05000/Re___Thyroid_Cancer_Among_Young_People_in.31.aspx


We recently conducted thyroid ultrasound screening, using the same procedures as the Fukushima Health Management Survey, in 4,365 children aged 3–18 years from three Japanese prefectures, and confirmed one patient with papillary thyroid cancer (prevalence, 230 per million).2 Furthermore, we recently reviewed findings of thyroid ultrasound screening conducted in Japan.3 In one survey, 9,988 students underwent thyroid screening and four students (including one foreign student) were subsequently diagnosed with thyroid cancer (prevalence, 300 per million). In another study at Okayama University that examined 2,307 students, three patients with thyroid cancer were found (prevalence, 1,300 per million), while at Keio High School, of 2,868 female students examined, one was found to have thyroid cancer (prevalence, 350 per million).


一つは3県(長崎、青森、山梨)検診結果について、である。他に、千葉、岡山大の例、そして、慶応女子高の例、ということらしい。

前にも取り上げたと思うが、ランセットにも同内容の記述が。
・Misrepresented risk of thyroid cancer in Fukushima – Authors' reply
http://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587(16)30318-7/fulltext



で、元論文となる長崎大学のNagataki, Shigenobuと Takamura, Noboruの論文に千葉、岡山、ケイオウの記載がある。
http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp/dspace/bitstream/10069/35869/1/COEDO21_384.pdf


岡山大の学生の検診結果から3名の甲状腺癌が検出された、ということらしいが、これは津田岡山大教授のお膝元なので、学内で確認してもらいたい。それが記載されたペーパーが発見できなかった(ところで、岡山大の教授を首にするしない騒動ってのがあったやに記憶しているが、そういうのと何か関係が?)。


また、千葉大と慶応女子?高の検診云々は、この論文に記載があった。

http://www.hcc.keio.ac.jp/japanese/healthcenter/research/bulletin/boh2004/22-19-22.pdf#search='%E6%80%9D%E6%98%A5%E6%9C%9F+%E7%94%B2%E7%8A%B6%E8%85%BA


まず、慶応女子高は当然ながら学生は女子だけであり、男性が含まれない集団である。福島県の例と比較するには注意が必要。また、千葉大の4名のガン患者検出というのも、男女各2名とも20歳以上だった、ということが問題点となる。

なぜなら、第一に甲状腺癌は男女差がかなりはっきりしており、女性に多いこと、また、10代後半から20代前半くらいから甲状腺癌発見例が散発的に見られること、がある。けれども、15歳未満であると、かなり検出例が乏しくなる。

なので、福島県との比較には、年齢階層や性差に注意する必要がある。そういう断りなしに、結論だけを都合よく記載しているUNSCEARの白書というのも、レベルとしてどうなのか、という疑問を生じる。
通常のまともなreviewerなら、参照すべき論文はもっと広範に挙げるであろうし、議論の対象となっている集団が大きく異なるならば、その注意を与えるのが一般的であろう。現に、白書において『彼らの結論は、FHMS の集団検診を受けた人の甲状腺がん発見率と、小児の甲状腺検診結果がほとんど含まれていない日本の他の地域での発見率との比較に基づいていた』と、対象集団が異なることを批判の理由に挙げているのであるから、男性が一人も含まれない女子高の検診結果を「発生率」の比較対象として利用することなど、あってはならないはずの議論だろう(爆)。

仮にそういう特殊な集団であっても比較できるというのは、性差が全くないというような疾病の特徴を備えているというような、条件を有している場合だろう。それならば、男女を問わず、単純な「人数」として見れば済むという話である。

また、韓国の検診で罹患率が増加したことを挙げているわけだが、これも福島県の集団と比較するには不適切であり、韓国の甲状腺ガン検診の主要な対象者が20歳未満といった条件でもあるなら別だが、そうではないにも関わらず、当該論文を挙げている時点でレヴューする論文を間違えたのではないかと思ったのだが。若年層の一般的な罹患率と比較する方が、「主として乳がん検診対象者を多く含む集団の罹患率」と比較するより、はるかによいのでは、としか思えないわけである。


津田論文が挙げた対象を批判する為に、全くもって不適切な論文を根拠として提示している時点で、落第に匹敵しよう。
このUNSCEAR2016年白書を書いた人たちは、恣意的な意図をもって否定の為の否定をしたようにしか見えない、ということである。とても残念だが。


検診をするので甲状腺癌が発見される数が増えるんだ、という理屈は、分からないではない。けれども、その要因だけで説明がつくものとは思わない。

検診結果ではなく、通常の罹患率の標準的な数値をここで確認したい。
国立がんセンターの登録患者に関する数字である。


◎出典:
高精度地域実測値(山形・福井・長崎各県の地域がん登録)
Katanoda K, Sobue T, Tanaka H, Miyashiro I (eds.). 2016. JACR Monograph Supplement No. 2. Tokyo: Japanese Association of Cancer Registries.


1985〜2010年(事故発生前までを参照した)の26年間における、甲状腺ガンの男女別、年齢階層別の罹患率の年平均は次のようになっていた(人口10万人対)。


年齢     男性   女性

〜10     0.03   0.04
10〜14    0.26   0.41
15〜19    0.36   1.16
20〜24    0.91   3.96
25〜29    1.24   5.13



まず、男女差はかなり出ていることが分かるだろう。また、女性の場合であっても、年齢により罹患率が上昇してゆくことが分かるだろう。
女性の場合、高齢になってもこの何倍も罹患率が上昇するということではなく、むしろ高齢で下がる傾向がある。甲状腺疾患(例えばバセドウ病や橋本病等)の好発年齢と似た傾向がある。


ここで重要なのは、男女比である。
15〜19歳では、女性の罹患率は男性の約3.2倍である。20〜24歳だと更に広がり、約4.4倍である。
仮に、検診を一律に行ったせいで、今後何年か10年後かに検出されるであろうガンを発見してしまったとして、例えば10歳時点で「20歳時に判明するであろうガン」が発見されたとて、年齢階層が上の罹患率とほぼ似た数字しか出てこないのではないか?


需要の先食い、みたいなものに似ていて、トータルの罹患数は大きく変わらないが、検出が早い時期になってしまうかも、ということである。そういった影響が出ないとも言えないので、20歳以上の階層も数字を挙げてみたのだ。検診したことによって発見が10倍に増加したとしても、それでもなお福島県の小児甲状腺癌患者は多いと言わざるを得ない。


他にもある。そういう影響があったとしても、男女比の謎は説明が困難なのだ。福島県甲状腺検診の対象者の男女と年齢の数は、詳細が不明なのだが、一部調べた結果が分かった。古い数字で恐縮なのだが、15年9月末時点で、

 男性54名(うち15歳以上31名)、女性98名(同54名)、

であった。
それぞれ、男女別の正確な人数が分からなかったのだが、約30万人だったので、男女それぞれ15万人とした場合の、ガン患者数は、

男性 54/15万人 ⇒  36.0/10万人
女性 98/15万人 ⇒  65.3/10万人

となる。この男女比は、通常の罹患率の比率からは説明ができないだろう。

また、15〜19歳の階層別の倍率と比較しても、通常罹患率の場合の3.2倍に対して、福島県では1.74倍とかなり低い。上の年齢階層の患者が掘り起こされたとしても、3〜4倍くらいは男女比の差が、本来は観察できるはずであろう。


これまでの小児甲状腺癌の論文では、放射線性のガンである場合には、男女比が低下することが知られており、福島県の例はそれに一致しているように思う。スクリーニング効果や過剰診断というのは、男女を見わけたり、区別したりできるのだろうか?もし、それがあったとしても、男性にだけそれが多く発生する理由、といったことを果たして説明できるのだろうか?


また、津田論文の被曝線量依存性のガン発生率が見られていないことが批判されているが、差が見え難くなったのは、福島県内で区分けをしたことが理由の一つであろう。何故なら、推定の吸収線量といった数値は市町村別で一部データ公開があったものの、その信憑性とか正確性は何とも評価が難しい面があるだろう。
ならば、対照を福島県にせずに、北海道とか九州とかにできるのであれば、そこで比較すると線量依存性が見出せるかもしれない。


いずれにせよ、UNSCEAR2016年の白書の記述があるからとて、それがどの程度の説明・説得力のあるものなのか、というのは、吟味が必要である。

それをいとも簡単に「フルボッコで瞬殺」などと揶揄するのは、いかがなものか。
少なくとも、件の白書が依拠している論拠というのは、「津田論文よりもはるかに」脆弱であり、挙げられた論文の質と内容の検討レベルから見て、到底権威ある国際機関が記述するに相応しいものとは思えない。
前のブログ記事にも書いたが、白書の作成に関して、数人の日本人執筆陣が特別に入っていたようだが、その意義について、かなり疑念を生じている、というのが拙ブログの見解である。