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福島県の小児甲状腺癌〜UNSCEAR2016年白書に関して

福島県の小児甲状腺ガンの摘出例は、これまで増加の一途をたどってきたわけだが、どうも国連の一機関の報告書の存在をもって、「福島県では小児の甲状腺癌の患者は多くない」という見解を広めている人々がいるようだ。


拙ブログの見解は、以前から述べてきたけれども、福島県の小児における甲状腺癌の発生は、どうも過去の例と比較すると多いのではないか、というものであった。


15年10月>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/1706e8f25cb6b081da4c0db8606345ba

    >http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/2dbf06b8c5acae20b95087991e2006f7


16年10月>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/fac67aaefc8f5ae14e1db2e5f3c3cc72

16年10月>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/49250a9a47db2d4c583b62061c154afd



で、問題のUNSCEARの白書ですね。こちら

http://www.unscear.org/docs/publications/2016/UNSCEAR_WP_2016_JAPANESE.pdf


気になる箇所は、23頁の111の項である。

111.
1 編の論文 [T17](およびその後に発表された、批判への回答 [T16])は、甲状腺がんの発生率が放射線によって上昇したことを証明できると主張している。著者らは福島県で50 倍(95%信頼区間:25 倍〜90 倍)の過剰を報告している。しかし、調査の計画と方法は、この解釈を正当化するにはあまりにも偏りが生じやすいもの [J2]であった。Tsuda et al. [T17]は、観察された甲状腺がん発見率に対する、甲状腺の高感度超音波検診の影響を十分には考慮に入れていない。彼らの結論は、FHMS の集団検診を受けた人の甲状腺がん発見率と、小児の甲状腺検診結果がほとんど含まれていない日本の他の地域での発見率との比較に基づいていた。小児期に検診を受けた他の集団、特に被ばくしていない 3 県で超音波検診を受けた小児についての調査 [H3]、および日本の若年層における他の検診調査 [T6]では、放射線被ばくのない甲状腺がんのベースライン発見率が FHMS の発見率と同程度であることが判明している。同様に、韓国で広範な検診を行ったところ、甲状腺がん発見率の明らかに大幅な上昇を経験した[A2]。また、検診で検出されたがんの一部は、放射線被ばくの前から存在していた可能性がある [T5]。


岡山大の津田らの論文において、地域間の差を示しているが、それがどの程度まで言えるかというのは、判断が難しいのかもしれない。112番の記述に関しては、言いたいことは分かるので、とりあえず保留としたい。


で、問題の111である。
通常、年齢差や性差の大きい疾患の場合、違う対象の論文と同列に論ずることはかなり稀である。ところが、この白書では、何故か敢えてA2論文を挙げて、検診をすると発見率が上昇するのだということを強調しているのだ。


これはどういうことか?
極めておかしな議論ではないかと疑わしくなるわけである(笑)。普通の研究者なり医学者なりだと、そういう論の提示はしないのでは?


また、参照されている長崎大のTakamura et al.のペーパーがある(T6)が、恐らく以下のものであろう。

Takamura ペーパー

http://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587(16)30318-7/fulltext


アブストラクトではないですよ、フルテキストでこの分量だそうです。
で、千葉300人、岡山1300人、東京350人、福島358人、いずれも/百万人当たり、ということで、地域差が見られないですよ、という結果が報告されているわけだ。内容が薄過ぎて、具体的な調査実態が分からない(性別とか年齢層とかもよく分からない研究報告みたいな)のですが、有力な証拠とされているようです。ふーん。随分と、キリのいい数字が並ぶもんなんですね、300、1300、350って。もっと細かい数字ではないのは偶然なのかな?(笑)


※※ちょっと追記:

何?早速の嫌がらせか何か?w
当該Takamura論文へのリンクを外したの?
これって、何か不都合とかがあるの?

もう一回、試してみるわ

http://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587%2816%2930318-7/fulltext



で、拙ブログでは、ネット上で少し探してみたところ、非常に勉強になるペーパーがありましたので、それを提示してみたいと思います。分量が長いので、英語を読める方は是非とも頑張って原文をお読みくださいませ。当方の理解の範囲でしか、ブログ記事には書けませんので。


http://www.scielo.br/scielo.php?script=sci_arttext&pid=S0004-27302007000500012&lng=en&nrm=iso&tlng=en


このうち、ベラルーシのMogilevとGomelという地域での小児の甲状腺スクリーニングプログラムの検査結果というのが出されているわけですが、「table2」にその数字が掲載されています。


事故当時に9歳以下だった小児について、91-96年のスクリーニング検査結果は、線量の高い影響を受けたであろう、Mogelでは37例/19660、Mogilevが2例/23781という発見率だったわけです。


で、2002年の高発見率地域だった前者でのスクリーニング検査では、14歳以下の小児においてゼロ人、0/25446という結果だったということです。

スクリーニングをしたから、元々大人になれば発見されるであろう甲状腺癌を先に発見したんだ、というお説が本当なら(笑)、2002年時点でもかなりの数が発見されていてもおかしくないでしょう?

しかし、発見例はなくなっているわけです。二万人を超える大規模調査ですので、国連の出した白書に書かれている韓国の論文よりは意味のあるものと考えます。


日本での過去の経験でも、15歳未満での甲状腺癌の発見例は極めて稀であり、腺外浸潤、リンパ節転移や遠隔転移が生じているのに治療せずともよい、などという意見が医学界の常識として存在してきたのか?

そういうのを、デマと呼ぶのでは?


また、本論文においては、小児甲状腺癌の原発巣の大きさの基準というのは、10mmといった基準が果たして妥当なのかどうか、という議論もなされており、今後の検討や議論が必要ではないか。


福島県の手術適応となった例では、10mm以下は3分の1しかなく、リンパ節転移が高率で発生していたし、遠隔転移も見られたわけで、上記論文のTable4の結果と見比べてみても、特別に過剰な治療であったものとは考えられないだろう。


何より、疑問というか残念なのは、UNSCEARというある種の権威機関が出した報告書において、当然に参照するべき重要と思える論文をレビュー対象から外しており、自説の都合のよい論文をみつくろって結論を導き出しているかのような体裁になっている、ということだ。何の為の報告書なのか。


小児甲状腺癌の発育が緩徐であるというなら、2013年以前に検診で問題なしとされていた患者において、わずか2年程度で手術適応となること自体が、通常では考え難い事態であろうに。

早期に発見したに過ぎない、というお説ならば、例えば2015年時点でガンとするのではなしに、2012年か2013年には検出できていたはずであろう?大きさがそんなに急速に増大すると?

10年、20年待っても問題ない、と豪語してたはずが、2年前に検出なり診断なりができていないわけがなかろう?


津田論文の議論では、福島県内の地域差を見ているわけだが、そこには十分ではない部分があるとしても、福島県全体で見た場合の、小児甲状腺癌患者の発生というのは、普通では説明がつかないものと思われる。