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福島原発事故を巡る東電の大罪〜1

事故当時から、どうも疑問点が多かった。東電の説明というのは、言い訳に終始しており、どうも後付けの都合のよいゴマカシをひねり出していた印象がぬぐえない。

拙ブログではその都度、疑問点を記事に書いたりしてきた。


2011年3月12日
http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/05dfa2e4bdec954ee6aa41d60affc62e

2011年5月24日>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/0e8f10d4335ff8043a8de02e1c0ad6ea

2011年10月26日
http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/3ecfb64c88554a0258aa06000ad5692b

2011年12月27日
http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/cc3adee362ad2c312ddc499248ac5ee6


東電は、何かを隠そうとしては、言い逃れができそうな理由を発表してきたのではないかと思える。一貫性や分かりやすく説明しようとする姿勢が皆無だからだ。
彼らが得意だったことは、巨大な原子力施設の危機的状況を乗り切れるだけの専門的知識や技術などではなく、いかに責任逃れと隠蔽を行うかということだけだった。


東電が平成24(2012)年5月に発表した資料を再度読み返し、彼らの言い分の矛盾点について考えてみることにした。900ページ以上の文書なので、ウンザリするのだがね。

東電資料『福島第一原子力発電所  東北地方太平洋沖地震に伴う原子力施設への影響について』である。


疑問点1:
各号機のチャート類が統一的ではなく、時間の起止も不一致であるのは不自然

基準点が例えば1号機で「14時45分33秒」、2号機だと「14時45分26秒」などと別々のデータを提出している。記録のスタート時刻が違うから、とか、元の印字だと見えにくいので分かりやすく再構成して表記した、ということがあるのかもしれないが、それならタイムスケールを統一しておけばいいだけであろう。
元の記録を出しているものと出していないものがある。安易に信じられるものではない。
また、水位、温度、圧力のグラフに関しては、ちょっと信じ難い。もっと変動が激しいのが普通だと思うのだが、何かの意図に基づいてデータが作り出されたかのような印象を受ける。この点に関しては、別項でも述べる。



疑問点2:
冷却操作での「55℃/hの基準」に拘るのは本当か?

拙ブログでは、当初からそれはヘンだと言ってきた。何故なら、巨大な金属塊の原子炉圧力容器数百トンと内部に数十〜百トン規模の水が入った「入れ物」が、本当にたったの8分程度の冷却で55℃も温度が低下してしまうのか、ということへの直感的な疑問があったから、だ。

2011年8月>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/188e9f2b836e7a07e749655e071edf90

同9月>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/da07b9d81e438daaf1bd3403b835c176


①原子炉全体の冷却はそんなに簡単ではない

全体の重量が大きいこと、圧力容器中の水量がかなりあること、内部は約270〜280℃の熱湯と蒸気であり簡単には冷えないこと、原子炉停止後の初期崩壊熱の発生量が最も大きいこと、などから、IC起動で圧力が一時的に急減したとしても、冷却材(燃料棒を満たしている水、ということ)温度急低下は困難である。


②東電資料の『TR-260-11』のグラフ、「再循環ポンプA、及びB」の入口温度の温度低下は不自然

第一に、内部の熱湯とICから戻した水を混ぜても温度低下は限定的である。
再循環ポンプというのであるから、内部の270℃以上の熱湯を汲み出して別の給水と混ぜて戻す、というものであろう。単純に270℃の熱湯と100℃の冷却水を等量混ぜたとしても、温度は185℃である。グラフは、それ以上に下がっている。
戻り冷却水の温度の方が優先的に反映される、ということがあるかもしれない。その場合には、内部熱湯を少しだけ混ぜて、IC戻り冷却水が大半であるかもしれない。それなら、温度が低いことがあるかもしれないが、矛盾点がある。それが第二の点であり、ポンプAもポンプBも大幅に温度が下がっていることだ。15時くらいでは、Aが140℃程度、Bは130℃以下だ。

しかし、ICの戻り冷却水は、再循環ポンプの両方には接続されていない。B系のみの接続であり、ポンプ直前にIC戻り水が混ざる仕組みなのだ。よって、再循環ポンプA系の温度がこんなに低下している理由は不明。1号機はスクラム直後に隔離されているので、給水ラインは全部止まっているから。従って、仮にICが頑張って冷却したとして、循環ポンプBの温度低下があったとしても、Aはそんなに下がることは考え難い。

両方が下がることがあるとすれば、それは、内部の熱湯温度自体が200℃以下とかに低下しており、戻り水が下に貯まって温度不均一となること、くらい?しかし、再循環ポンプ出口は燃料上部にあり、再循環ルートの出口ノズルは、入口の正反対側でかなり底部にある。冷たい戻り水が上から入れられるから、そもそも下に冷水が貯まる設計になどしてあるわけがない。崩壊熱で熱せられた水は底部付近の出口から出てゆく(この熱湯がポンプ入口に到達する)のだよ。その温度が150℃以下に低下しない限り、A系の再循環ポンプ入口温度が150℃以下に低下することなどほぼ不可能だろう。上から冷たい水注入、反対側の下から熱湯が流出、なのだよ。
現実にはほぼ考え難いのではないか。


③8分間のIC稼働で戻り水はどれくらい冷却効果を持つか?

ICの蒸気流量は「100.6t/h」ということである。従って、8分間だと約13.3tの蒸気が通過できただろう。一番最初に通過する蒸気は、ICの元々の温度(室温?)程度まで冷やされるだろう。しかしそれはごく僅かの量だ。次から次へと約280℃の蒸気が流入してくるからだ。そうすると、IC内部のタンク水はみるみる温度上昇することになり、沸騰する。沸騰したら蒸気が外に逃げてゆく。この気化で原子炉内部の蒸気を冷やすことができる。沸騰してしまえば、戻り水の温度は100℃以下には下がらない。いよいよになれば、280℃の蒸気が凝集するだけとなって、280℃の熱湯に戻るだけかもしれない。
仮にICで冷やされた結果、100℃の戻り水13.3tが戻されたとして、内部水が6倍量(約80t)の270℃熱湯だとしても、温度低下は約54℃でしかない。これは熱湯に100℃の水を混ぜたらどうか、という程度の簡単な試算なのですが。

条件として、
・実際の熱入力はもっとある
・蒸気は無視している
・容器温度も無視している
・内部水の量はもっと多いかもしれない
なので、
温度低下はずっとずっと限定的になることに疑いの余地はない。冷却材温度低下55℃/h基準に基づく説明は、極めて疑わしい。主復水器が動いている場合と全く違う、ということ。



疑問点3:
IC運転についての自動化部分が全くないのか?


普通は、警告信号などによってある程度の自動化がされているだろう。圧力や水位等のパラメータに沿って、運転したり止めたりといったことが自動的に行われるはず、ということだ。ICにはそれがないのはどうしてか?

RCICならば、自動起動した後、冷却能が効き過ぎれば「水位高」で停止信号が出て自動的に止まる。すなわり、仮に人間がうまく操作できない場合があったとしても、自動化でそこそこは事故回避が可能なようにできている、ということだ。
なのに、ICには停止条件というのが存在しないのは、何故なのか?
東電が明らかにしたのは、圧力条件だけであり、「7.13MPa以上」が自動起動条件となっている。

自動停止が存在しないのか?
もしそうなら、どうしてか?
また、水位条件が不明なのはどうしてか?
通常、RCICや高圧注水系のHPCIなどでは「水位低」信号で自動起動するのに、どうしてかIC起動にはそれがないのだ。

仮に、ICを運転したまま一切放置したらどうなるか?
SRVと違う点は、隔離された原子炉内部の水の絶対量が減らない、という点である。
SRVが作動したら、蒸気が圧力抑制室のプール水に戻されるので、内部水の絶対量は確実に減る。外部から注水しないと、いずれ水が枯渇する。しかしICの場合には「蒸気を水に戻すだけ」なので、圧力減少と伴に水位が上昇するのだ。しかも、駆動源がいらない、というのも重要。ICの信頼性が高い、というのは、そういう意味なのだ。

よって、完全放置すると、ICの水がなくなるまで冷却能は保たれる。水位が上まで行ったらどうなるか?自動停止能がない場合、ICの蒸気取り込み口まで満水になるだろう。そうすると、ICには熱湯が流れ込むことになる。ただ、そこまで冷やせるのか、というのは分からない。
少なくとも、弁が開いており、銅側の冷却水を補給できるなら、いつかは冷温停止に至るだろう。隔離された原子炉の内部水の絶対量は変化しないから、だ。もしも自動停止の条件が設計思想に存在しないなら、それは止めない(という前提だ)から、ではないのか。



疑問点4:
1号機のHPCI自動起動の水位条件は「L-2」ではないのか?


2号機以降のものだと、冷却材喪失事故等に備えて「水位低信号L-2」でHPCIが自動起動する。しかし、1号機では「L-2水位」の基準が示されていないのである。どうしてか?
東電資料によれば、L-3まではあるけれど、それ以下は「L-L」という基準しか存在しない、ということらしい。冷却材喪失事故への備えが、1号機だけはとてもユルい、という理由が全く分からない。

他号機だと、水位低L-2信号で、RCIC、HPCI自動起動、MSIV閉、といった、いわゆるLOCA対応の措置が多重で採られる。さらに水位低下L-1だと低圧系のECCSが作動することになっている。それに、RCICもHPCIも直流電源(バッテリー)があれば動くので、交流電源喪失時には欠かせないはずである。

仮に水位信号が全て「L-L」で発動したら、どうなると思うか?
アラートが止まらない、のではないか?
MSIV閉、D/G起動、HPCI、炉心スプレイ系、格納容器冷却系、RHR、ADS、全部がいっぺんに動くのか?
設計思想として、そんな処理システムになっているとは到底思えないわけだが。


でも、SRVより低圧設定となっているICだけが「圧力高7.13MPa」信号で一番最初に機能する、と?
それなら、他の冷却システムより一番先に利用される可能性と頻度からすれば、ICは最重要機器に他ならないだろうに。単純操作かつ運転は自動化されておらず、停止信号も存在しなければ、どの冷却機構よりも精通してて当然だろうに。
なのに、その運転マニュアルが存在せず、緊急時用のマニュアルを誰も作ろうとしたことさえない、だと?


疑問点5:
1号機の原子炉圧力や水位のチャート類のグラフが、キレイすぎるのはどうして?


恐らく、生データを見たことがある人間ならば、スクラム後でかつMSIV全閉となっている原子炉がどういう変動を見せるのか、というのは分かるのかもしれない。

1秒毎のデータとか、5秒毎のデータなんかであると、振幅が非常に大きく、刻一刻と数字が変動するから、「今どれくらいだ?」と聞かれても、答えようがないくらいに、もの凄く変化するよ、ということのはずだ。喩えて言えば、日々の株価変動(高値-安値)のギザギザを見るようなもの。でも週単位や月単位で見れば、もうちょっと大雑把なグラフ描記となる、みたいな。

東電資料の1号機データが分単位とかだとしても、もっと振れ幅が大きいはず。通常の停止過程での蒸気ラインも給排水ポンプも生きている時の自動制御時のグラフとは、全く異なるものだ、ということ。

人間が判断できるとしても、日々の株価変動とかではなく、一連で眺めてみた時には上昇トレンドとか下降トレンドが認識できるのに似ていて、大きな変動方向を見極める、ということだろう。トレンドと言うのか、モメンタムと言うのか、分からないけれど、変動の方向性、ということである。秒単位のギザギザを見ても難し過ぎて分からないだろう、と。

1号機の原子炉水位や圧力は、変化があまりに乏し過ぎる。まるで理想モデルの計算結果から導出したみたいなグラフではないか、ということ。移動平均みたいな平均値の描記だとしても、水位変動幅はかなり大きいはず。特に、スクラム後(MSIV閉)からの30分や1時間以内だと、もっとぐわんぐわんという変動があっても普通だということ。なのに、IC起動前の14時52分頃で、既にかなり落ち着いており、冷やしてもいないのに安定的なんてことはあり得ない。

手術中の人間の循環変動だって、収縮期-拡張期の動脈圧と心拍数とを描記したら、ギザギザグラフで変動幅が出るだろう。


(続く)