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【いい国作ろう!「怒りのブログ」】のバックアップです

FRBのインフレ目標公表の意義

見出し的には、インパクトのあるものとなった。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE80O00W20120125?sp=true

オバマ大統領の演説は注目に値するものだった(*1)が、日銀あたりにとってみればこちらの方がより重大事だったのではないだろうか。

(*1):参考までに、今年の大統領選の結果は、オバマ再選ではないかな。未来を予言できるわけではないが、今上がっている共和党候補者たちに勝てそうな要素が見い出せない、という感触だからである。大統領選の候補者選びというのは不思議だな、と思う。だって、あんなに互いを罵倒し貶めているのに、その中で誰か一人が残ったとしても、その人物に投票したいなどとは到底考えることができないから。まるで、共和党候補の「嫌なところ広報キャンペーン」みたい。優れた人物かどうかが分かるというよりも、欠点やあくどい部分だけが強く印象づけられ、記憶されるからだ(笑)。○○さんは外交に強いな、とか△△さんは財政や雇用政策に強いな、といった長所の部分を、ぼくは殆ど知らないもん。けど、悪い点だけなら、思い出せる。


今回のFRBが示した金融政策の考え方などについて、私見を述べておきたい。


①説明責任

米国の政治システムの背景としてあるのが、業界、政治ポストや学界の垣根が低い、というものだ。回転ドアと呼ばれるように、金融界にいた人が政治的に重要なポジションに就くことは普通にあるということだ。そういう「仲間内」の世界で好き勝手にやってるんじゃないか、というような疑念を抱かれることを危惧したのかもしれない。そのような疑念を払拭しておかねばなるまい、ということを意識したのではないかということである。
米国金融業界の都合のいいように金融政策を実行している、と看做されれば、(FRBや政策に対する)国際的な信頼を毀損しかねないから、ということでもある。これは同時に、「ドルという通貨への信認」問題ということでもある。基軸通貨としての地位を維持するには、透明性の信頼というものが欠かせない、ということであろう。その為の責任を果たすべく、外見的に分かりやすいものを示すことにしたものと思われる。


②判断基準となる指標

学問の世界で定義される、所謂「インフレ・ターゲット政策」なのかどうかはとりあえず措いておく。
日銀ではCPIと明示しているが、FRBでは”PCE価格指数”(以下、単にPCEと呼ぶ)ということであるようだ。薬物でいうところの「血中濃度」に匹敵する指標が、このPCEである、としている。CPI(コアCPI)はターゲットの指標としては選択されなかったが、これには若干の理由があるものと思われる。

CPIは以前から言われてきたように、「上方バイアス問題」というものがあった。ボスキン・バイアスとして日本でも話題に上ったが、1.1%の乖離があるというものであった。日銀では、日本の統計指標の算出方法等から「バイアス幅は小さい、0.5%より小さいかもしれない(=バイアスは殆ど存在してないかもしれない)」といった見解をレポートで公表していた。なので、今でもCPIに基づく数値を公表しているわけである。ラスパレイス指数としてのCPIは5年毎の基準改定があり、GDPデフレータとの乖離幅は無視できない程度に大きいという面もある。

参考:
05年11月>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/e9ad82833300f7065952a5e90d19cb97
06年3月>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/572ba9af73c0f877ee87d5c6f224f964

BOJの採用している指数の正確性や妥当性については別として、バイアス問題とラスパレイス指数の弱点といったものを考慮してということなのか、PCEを基準として明示した、ということである。
判断する側の立場になって考えるなら、指標としては基準改定の影響を受けにくく(毎年見直しだから)、変化及びその観察という点において「連続性」が保たれていることにメリットがあると思える。
また、PCEはラスパレイス指数とパーシェ指数の幾何平均で算出されることから、喩えて言えば日本でのCPIとGDPデフレータの中間的な数字、といった性格を持つであろうと考えられ、見る指標としては偏りが是正されているとみなせるかもしれない。


③デュアルマンデート、失業率と金融政策との関係

FRBはインフレ率に対して責任を持つ、というのと同じく、雇用についても政策目的としているわけである。ただし、失業率という「単純な数字」についての具体的数値目標のようなものを設定するのは、「容易ではない」ということを明らかにしている。失業率という数字だけを見ても、金融政策での対応には「限界があるから」という面と、金融政策が直接的に失業率をコントロールさせうるものでもない、という面があるからである。

先日の二正面作戦放棄の話(*2)ではないが、FRBとしてはインフレ率と雇用を政策目標には置いているものの、主たる正面(敵)はインフレであり、金融政策の主眼的な部分はここに置くということになるだろう、ということだと受け止めた。もう一方の雇用(失業率)に関しては、目標から放棄はしないものの、数値目標のような形では明示しない、という意味合いである。

(*2):2つの大規模紛争(国家間戦争)対処の戦力を維持してきたのを変更し、一つの大規模紛争対処戦力を維持(1正面)と別な脅威(低強度紛争)についての処理能力(特殊部隊や海空統合戦力活用等)を維持するというもの。

従って、デュアルマンデートを維持しつつも、主たる目標はインフレ率とし、雇用に関しては局面ごとで柔軟に対応、ということであろう。

たとえインフレ率に関して明示的な数値目標を掲げたとしても、その数字だけで全てを判断することは難しいことに変わりはない。ターゲットがあれば外見的に判断し易いか、後付けの言い訳などではなく、説明が整合的かどうかを示し易い、といったことがあるだろう。
例えば、アルコールの血中濃度という数字には意味があっても、観察される「酔っ払っている様子」というものが、必ずしも正確に対応しているわけではないといったことがある。その日の体調とか、個人差とか、他の要因とか、色々とあるわけであり、酔いの程度を判定する外見上の評価(経済であれば、各種経済指標とか景気判断とか)が「アルコール血中濃度」と一意的に対応しているとは限らない、ということである。

なので、インフレ目標を明示することと、デュアルマンデートを維持することには矛盾はないし、金融政策が必ずしもPCEという特定の数値だけに完全拘束されるというものでもない。周囲(政策担当以外の全ての人たち)からみて、説明や選択された政策が整合的かどうか、というのが、「より判り易くなる」という効果が最も大きいだろう、ということである。不整合な言い訳など通用し難くなるし、失敗の存在も明らかになり易いですね、という話である。

どうりで日銀がこの採用を拒否するわけだ(笑)。