怒りのブログ別館

【いい国作ろう!「怒りのブログ」】のバックアップです

「金融緩和を複式簿記で表してみる。」で抜け落ちてる視点

一見すると、なるほどそうなんだ、と思える記事ではある。

http://d.hatena.ne.jp/sura_taro/20120321/1332323432

細かい部分の当否は、ちょっとどうなのか分かりません。
(例えば日銀の仕訳がその通りなのかが分からないので)

が、全体を通して抱いた印象というのが、金融緩和したのに銀行は資金の貸出先がないので、再び国債を買う資金に回り、結局は元の状態と同じじゃないか、というような説明であると思いました。

架空の設定なので、説明自体が根本的に間違いということではないと思いますけれども、現実世界での行動をあまり考えていないのではないかな、と思えます。つまりは、ビジネスとして考える、という点を無視しているかのようにも思えます。

銀行が保有してる国債を買入たって、資金の持って行き場がないのだから、また国債投資に金を回すしかなく、そうであれば、初期状態と大して変わってない、よって緩和効果があるとも思えない、というような主張であろうと思います。ここには、決定的に重要な視点、それは「何故国債を売るのか」ということの理由が抜けていると思います。

もしも当初と何ら変わらないのなら、銀行が日銀に国債を売る理由なんてあると思うでしょうか?
手数料分損するとか、事務コストの方がマイナスになるので、誰も売ったりはしないんじゃないでしょうか?

つまり、最初から「銀行が日銀に国債を売る」という設定が間違っているか、その後の「貸出先が見つけられないので国債に再投資」でスタート地点に戻る、という設定が間違っているのではないかな、と。
銀行が国債売りに応じるのは、「儲ける為」です。

基本的にこうした「商売する側の視点」というものが欠落しているとしか思えません。実際の投資行動でもいいですし、商売でもいいですが、儲けを出す為の行動であるということが、理解されていないように思えます。

勿論、売ってはみたものの、運用に失敗して仕方なく買い戻すということがないわけではないとは思いますが、普通の銀行なんかが無駄に売買するとも思えないわけです。


以下に当方の見解について、簡単に書いてみたいと思います。

まず、国債を売る場合には、それで儲けると考えるから、だということです。例えば、100万円で売って、同じ国債を95万円で買い戻せるなら、5万円得するのではありませんか?複式簿記で同じ状態を書いたとしても、売買の前後での損益は違いがあるのではないかということです。

理由は色々とあるんだろうと思いますが(当方は国債売買の実情など全く知らない素人ですので、詳しくは分かりません)、金利先高見通しがあって今保有している国債を一旦売却し、国債価格下落後に買い戻せば、価格差分のキャッシュが手元に残ることになります。このお金は銀行の利益になったり業務経費をまかなったり、銀行員のボーナスになったり、そういう何かに使われるだろう、ということです。

なので、銀行が資金移動先について何の考えもなしに売却し、資金投入先がないからまた買ってしまう、というような非効率な運用はしないのではないか、ということです。

自分の投資を考えてみて下さい。
今、A社の株式1000株を保有しているとして、これを売ろうという時には、何か理由があるのではないでしょうか?
売却代金で海外旅行に行く、それとも”もっと儲かる投資先がある”から、そちらに資金を振り向けたい、といったようなことです。

通常は、別な投資先に回そうとする時には、今の想定される投資利回りよりも効率の良い、もっと高い利回りの投資先があるからこそ、売却してまで資金を振り向けようとするのではないでしょうか。資金移動先を全く決めてないのに売る、ということは、少ないかもしれません、ということです。

場合によっては、今が高値のピークに付けていると判断して、売却して現金化し、様子を見て他の新たな投資先に振り向ける、ということもあるかもしれませんが、常時運用利益を生み出さねばならない銀行としては、資金を長期間遊ばせておくことはあまりできないので、投資先がないというのは考え難いのではないかと思えます。この場合であってでさえ、ピークで売り抜けて、最悪買い戻しができるということになりますので、少しではあろうともキャッシュアウトができた、ということになるかと思います(失敗して見通しが外れ、ピークになっていなかったら安く売って高値で買い戻すことになり損失となります)。


保有する国債利回りが3%であれば、銀行がこの国債を売る時にはこれよりも高い利回りが期待できる時、ということになります。新発国債が1%でしかないなら、買い替えません。
金融緩和によって日銀が国債買入を進めると、国債価格が上昇(=利回り低下)するので新発国債の利回りが以前の3%から1%に下がったとします。すると、銀行が1%の国債を買うか、これよりも高い利回りの投資先を探せばよいということになります。3%よりも高い投資先を探すのと、1%よりも高い投資先を探すのでは、どちらが容易と考えられるか?
当然、1%の方がハードルは低いであろう、ということです。

銀行が3%の利回りの時に買った国債が、日銀が買入を進めることで1%まで金利低下(国債価格上昇)してきたので、日銀に売却して利益を出し、更にこの売却代金を2.5%で貸出せば十分儲かる、という話になるわけです。3%の国債金利時代であると2.5%のリターンしか期待できない事業には貸し出せなかった(2.5%で貸すより3%の国債を買った方がお得だから)のですが、1%金利時代だと2.5%であっても儲かるのです。

国債金利が5%であると、これより高い利益率の事業にしか貸し出せないということになりますので、対象は段々と限定的になってゆくということです。1%の国債金利ならば、2%とか3%であってでさえ利益になる、ということです。借りる側からすると、過去の5%借入金利の早期返済は、5%の事業への投資とほぼ同じような効果を持つ為(短期的に考えればそうです、事業の将来などは分かりません)、多くの企業が借入を増やすのではなく、過去の債務返済に勤しんできたのだ、ということになります(これがデフレ要因ともなってきたのかもしれません)。


日銀の金融緩和効果というのは、複式簿記の視点で考えることは必要だと思いますが、その前提となる「どうして売る(買う)のか」という動機の部分についてもよく考えてみるべきなのではないかなと思います。
前後の状態が同じように書けたとしても、その意味合いとか途中経過に目を向けることが必要になるんじゃないでしょうか。