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【いい国作ろう!「怒りのブログ」】のバックアップです

量的緩和策の政策効果

興味深い意見が出されていたので、ちょっと書いておく。

http://www.anlyznews.com/2012/03/blog-post_8799.html

当方の印象としては、量的緩和策のほぼ全否定と言ってもいいくらいに手厳しい意見が出されているな、と。
気持ちは分からないではないが(当方の過去の主張でも、効果が乏しかったかもしれない、と記事に書いたりしてきたので)、断定に過ぎるきらいがあるようにも思われる。

最も気になる点としては、2つの論文の内容を紹介しているのか、自分自身の意見なのかの区別がつきづらくなっている点である。自分の主張点の補強として用いたいのなら、それを明らかになるように書いた方がよいと思われた。論文の中で「言ってないこと」であるのに、あたかも「そう言っているor(論文の)結果から導き出せる」かのような記述及び主張がしつこく書かれているように思う。論文の紹介としては、邪道な感じがする。


論文の統計分析の手法について、その妥当性を当方には判断できないので何とも言えない。その他の部分で気になった記述を取り上げてみる。


3の『マネタリーベースが増えたら、金利が下がるはずだ。』という断定があるが、これが機械的に成立する話なのかどうかという疑問がある。
そもそも、中央銀行といえども、通常の政策金利変更くらいでは「長期金利」を意のままにコントロールできるわけでもないはずで、5,7,10年物というのであれば所謂「中長期金利」ということで、短期金利の変動とは若干異なるかもしれないと考えることもあり得るのでは。
短期的に量的緩和策実施後に中長期金利の低下という現象が観察されていたのなら、「マネタリーベースが増加した後に金利が低下した」ということは言えなくもない(*1)はずである。例えば英米における08年以降のマネタリーベース増加期間を見れば、中長期金利低下が観察されるかもしれない。その場合、「マネタリーベースを増加させると金利が低下する」と言い切ることにするのであろうか。
(*1):確か03年初頭頃に、10年債指標金利が0.5%台をつけるまで金利低下した時があったように記憶している。実際の数字は全てにおいて確認してない。

逆に、経済成長の好調な期間で、”マネタリーベースが増加している”のに金利が上昇しているケース(国、中央銀行)はあるはずだろう。この論者の言う、『マネタリーベースが増えたら、金利が下がるはずだ。』の法則が一律に成立するのか、という疑問があるわけである。
一般則ではないものを当然の法則のように扱い、それが起こっていなかったことをもって政策効果がない、という判定を下すのは、不適切であるように思う。

それと、ある時点から見て将来の金利が上昇するということであると、それはゼロ金利からの脱出を窺わせることかもしれない、ということがある。以前にも取り上げたことがあるが、スヴェンソン提案のモデルにおいても、デフレからの脱却前から「金利上昇」が起こってしまう、というのがあったわけである。あくまでモデルの中での話なので現実世界ではどうなのかというのは判らないが、考え方としては「デフレ脱却」とか「ゼロ金利制約からの脱出」(=金利上昇ということだ)を目指す政策であるなら、それが起こるというのであれば「政策効果が期待できるのではないか」と言えるのではないのかな、と。つまり、将来時点での金利上昇が期待(予想)されている、という点において、それが達成されるならゼロ金利からの脱出を意味するのではないかということである。

2002年4月時点で2012年4月の金利が、依然としてゼロ金利が継続している、などという予想をできた人はほぼ皆無に等しかったのではないか。まさか日本がそこまでデフレを継続しているなどという愚かなことをやっているとは、予想だにできなかったはずということである。むしろ「今ゼロ金利なのだから、数年後には何%かになっているに違いない」という予想をする人の方が、多かったであろうということである。そうした淡い期待は、悉く裏切られてきたわけであるが。


次に行こう。
2つ目の3の、『マネタリーベースが増えたら、融資が拡大するはずだ。』という記述があるが、これも当然の法則でも何でもないはずなのに、断定されている。
本当にそうなのだろうか?
融資拡大は日本では起こらなかった、というのは、その通りであろう。これも過去に書いてきたことだから。
けれど、何らの問題も抱えない社会で試しにマネタリーベースを増やしてみると、融資は拡大するかもしれない。つまり、コントロールとなるべき正常「経済社会」で起こる現象と、日本のような病的「経済社会」で観察される現象では、必ずしも一致しないことがあっても不思議ではない、という話である。

前記、金利が下がるはずだという断言にも似ているが、観察する時期によるということもあるのではないか。例えば、マネタリーベースを増加させた英米においても、2010年くらいまでであるとやはり融資は減少してきている可能性は高いものと思う(数字を調べてないので定かではないです)。

量的緩和開始から暫くの間は、例えば
不良債権処理
・リスク資産削減や組み替え
公的資金返済
社債、株式、外貨建て資産(債券や株式)投資
などに資金が振り向けられた、といったことがあったのでは。

02年頃であると、不良債権処理に関して政策的にも政治的にも強権が発動されていた時期であり、新規貸出増加の為には、まず引当を消化する必要があったはずで、そうなると貸出余力がそんなにあったとは思えないということだ。バランスシート調整に時間が必要であった、といったようなことである。
利益が出てからでも、配当を復活して、公的資金を返済して、ということになれば、貸出余力がそんなに回復してなかったのかもしれない。ようやく収益環境が整ってきても、新規起業家(自営業者)たちは減る傾向にあったり、融資より直接金融を指向するようになっていたり(所謂上場バブル、IPO長者というような傾向)と、かつての融資市場環境とは異なっていたかもしれない。または、新株発行が相次ぐ中で、旧来からの大株主としての立場もあったりするのか、新株引受(第三者割当増資等です)を行えば、それだけ貸出余力は削減されることになる(新規資金流入があれば別だとは思うが)。他にも、外貨建て資産への投資なども増えていったのかもしれない。ゆうちょ銀行の行動に見られるようなのがその代表例といえるかも。

何が、というのは判らないけれども、銀行融資が減ったのは現象としてはそうかもしれないが、それは量的緩和策を行ったせいである、とまでは言えないのではないか、ということである。
量的緩和策を実施すると、銀行貸出量を削減する」
と言うのは、行き過ぎではないかということである。

貸出減少は、量的緩和策実施によって起こるものではなく、デレバレッジとか不良債権処理とか公的資金返済などの複数要因によるもので、主にバランスシート調整などに起因するのではないか、ということである。緩和策はこの過程を比較的スムースにいくようにアシストするものであり、急激・過度な変動やショックが実体経済に広く波及するのを”緩和する”ものであるはずだ。
貸出が急速に減少し、バランスシートが急激に収縮してゆくような時期であるからこそ、「量的緩和策」を行う意味があるのであり、この政策効果によって貸出減少を惹起するというものではないはずだろう。


他にも、マネーサプライ(マネーストック)、為替、インフレ率、等々への言及はあるが、論文の元の内容からは言えないようなことまで扱っているのは大いに疑問である。「書いてないから、効果がない」という決めつけも危険である。殆どの論文では、「論文内容から言えること」よりも「書いてないこと」の方が圧倒的に多い。
日本の例だけを見るのではなく、できれば、米英など諸外国の例も含めて、比較検討するのが望ましいと思う。日本の緩和策が効果が不十分であったとしても、それは「無効である」ということの証明にはならないように思えるからである。たった1例だけの検討で、全てが判ると考える方がむしろ不思議である。


当方も記事に書くときよくやりがちなことなのですが、自分の主張に合う部分だけつまみ食いして尊重し、不都合な部分はダメ出しする、といったような手法は避けるべきでしょう。当方も反省すべき点であり、自戒を込めて過去の記事を出しておきたいと思います。

参考記事:

http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/e2df55d575f6f4afba3adccbc26aab48
http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/dbde02567bdebbe3892934be9b6c205b
http://blog.goo.ne.jp/critic11110/s/%CD%AD%B8%FA%B7%EC%C3%E6%C7%BB%C5%D9