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苦学生と教育者たち

現代でもありがちなテーマであり、最近でも教育改革がどうこうとか言われたりするが、本当に大事なことが忘れ去られているのではないかと危惧する。

先日、たまたま古本屋で発見した面白い本があった。
昭和32年発行の『苦学生』という本だった。サブタイトルに、『試験苦、生活苦、恋愛苦を克服せよ!!』とあり、今も昔も変わらないのだなと思い、手に取ったのだった。


その巻頭に、中央大学総長の林頼三郎法学博士の「推薦のことば」が書かれていた。以下に、その一部を紹介したい。


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 綾部健太郎さん宅に、毎朝、新聞紙を配達をする可憐な少年があった。綾部さんはある朝、その少年の身の上を聞いたところ、家は農家で、父は教育者であり、十人兄弟の五男であるため、家からの学資を得ることが出来ず、新聞配達をして、中央大学法学部に通っているとのことであった。綾部さんはそこで、痛く同情し、生来の親切心から、なにくれとなく目をかけてやり、大いに激励した。この少年もまた、余暇の寸陰を惜しんで、非常に勉強したのであるが、何分、労働のために疲れもするし、勉強の時間も少ないので、思うようにいかなかった。ところがちょうど、大切な試験に際会した時、綾部さんはその少年の、辞退するにもかかわらず、試験前より試験中にわたって、自ら少年の代わりに、新聞配達をし、少年をして専心、勉強せしめたのである。その後この少年は、綾部さんの親切心に泣いて感激し、飽く迄も労働をつづけながら、死にもの狂いで、日に夜についで勉強し、在学中、高等文官行政科試験に合格、卒業と同時に司法科試験にも、見事パスした。

 綾部さんは間もなく、実業界より政界にはいり、代議士となり、大いに活躍を続けたが、この少年も、また、綾部さんの後を追い、弁護士より若干三十五才で代議士となり、国務大臣秘書官を経て、文部参与官となった。

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田舎から出てきた苦労人の新聞配達少年に、見ず知らずの人が支援するという昔ながらの「暑苦しい人間関係」ということなのだが、驚くべきは試験勉強の為に、自らが配達を代わって行うという現代では殆ど考えられないようなことがあったのである。

教育とは、何なのか、若者を立派な大人にするのは、周囲にいる大人の支えと導きであって、若い者が役に立たない云々といった不満などは大人の責任ではないのかといったようなことがある。


この可憐な少年こそが、本書の著者である伊藤五郎という人であった。
後に、「大日本育英会」創設に尽力した人である。艱難辛苦の経験があればこそ、経済力のない学生にも、勉学を、教育を、と願った結果なのである。

私達は、こうした先人の思いを忘れてしまっているのではないか。


他にも、戦中ゆえに、軍部から私学は学部を廃止して専門学校に格下げせよ、というお達しが出されようとした時、大反対をしてこれを阻止したのだ。戦争中であるというのに、学問どころではない(非国民、などと罵られるようなこと、だったのでしょう)、という無謀な意見が軍部の言い分であり、閣議を通ってしまったらしいのである。これを心ある議員たちが撤回を求めて運動を行った結果、阻止できたとのことだ。


昨日あたりには、経済同友会が私学の「理事会権限を強化せよ」というような「経営者的視点」を持ち込もうと画策しているかのようであるが、自由な精神が私学の根本であるなら、危険な動きと見るべきであろう。


兎にも角にも、本書は、非常に面白いです。
昔も今も、学生さんたちの苦悩は似ているな、と。