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日本のTPP参加拒否でASEAN諸国を救う

野田総理オバマ大統領との会談後、TPPについて「協議加速で一致」という新聞の見出しが躍った。安倍総裁はTPP参加を公約とはしていないものの、財界の希望を無碍にできない事情は自民党でも変わらないだろう。更には、維新やみんなの党などといった新興勢力も協議参加を掲げている。彼らに共通するのは、目先の成功と一部特定企業群が儲けられる、という、極めて短絡的思考である。これまでの経験が活かされてはいないのでは、と思わせる。


1)孤立化から逃れたい米国

米国がアジア・太平洋への回帰を謳って、外交面でも軸足をアジアに置いていると言われている。このことに関する見解としては、中東での失敗がまずあるだろう。GCC諸国は米国との関係を維持してきたが、外交面では米国との「共同歩調」という点において、あまり強力な援軍とはなっていないように見える。エネルギー戦略という点においても、原油産油国という「世界経済の中心的役割」は現在でも色褪せてまではいないものの、ロシアや北海油田などの代替があるし、何よりも米国にとって痛いのがイランやベネズエラといった反米国家が産油国である、ということだ。

イラクでの傷が深かったが故に、米国は積極的に中東政策に乗り出していくことは難しいだろう。更に問題を複雑にするのは、イスラエルの存在である。地域における突出した軍事国家となったイスラエルは、最も凶暴な国家としての地位を築きあげた。リビアやシリアの混乱はあるが、純粋な軍事力という点では、対外的に危険度の高い国はイスラエルをおいて他にはない。従って、米国の国家的庇護が必要ということは想定し難く、イスラエルが単独で問題を処理する能力を持ち、むしろ好戦的―「ガザ侵攻」のような姿勢ということ―な対応に巻き込まれることを怖れているのは米国の方であろう。よって、米国の中東政策は昔とは違っており、現在では「近づきたくない」という方が強くなっているだろう。


では、裏庭たるメキシコ湾岸とか中南米地域での影響力はどうなのだろうか。この点においても、以前に指摘してきた(締め出された米国―TPPは唯一の逃避先)通り、爪弾きに遭ったのが米国であった。南北アメリカ大陸には、米国と経済圏を築き上げたいという機運はなく、むしろあからさまな「米国外し」が行われた。まさしく、”脱米国”である。

米国にとっては、NAFTAが元々存在してきており、特にカナダはG7でも一緒ということもあって、共同歩調をとることは少なくなかったであろう。ただ、カナダは商売の場としては限定的であり、当初TPP参加を断っていた。米国が期待していたのは、既にNAFTAのあるカナダやメキシコなんかではなかった、ということである。


要するに、ユーラシア大陸、中東、中南米、いずれにおいても、米国の居場所などどこにもなかった、ということである。そこで、すがりついたのがアジアだったというだけに過ぎない。特に、関係の良好であった韓国とオーストラリアに期待をかけ、オセアニアとアジアに米国が一番上に立てる経済ブロックを構築したい、ということになったわけである。端的に言えば、嫌われ者がどこのグループからも排除されてしまったので、頼みもしないのに「こちらのグループ」に割り込んできたようなものである。そうして、TPPを無理矢理推進する米国の、いつもの横暴がはじまったのであった。


2)米国に踏み絵を迫られるASEAN諸国

中国の経済規模が世界最大になるであろうことは、以前から推測されてきた通りである。人口規模からみても、それは不思議なことでもないであろう。これは、米国から見れば、中国の存在が巨大化するということであり、覇権を競う相手となってきたことを意味する。米国が警戒を怠らないのは当然だが、その中国の経済規模を「儲け話」につなげたい、ということがあるのと、ずっと以前から続いてきた「親中派」の戦略といったことがあるだろう。

それは、単純な敵対関係を意味するものではない、ということである。米中関係というのは、競合する面と共同体的な面があって、ビジネス面では協調していきたい、大儲けしたい、ということがあるわけだ。なので、米国が中国を危険だ危険だと連呼する割には、米国系企業の進出は当然行われているし、生産活動の拠点としても利用され続けている。政治的には、かつての冷戦時代のような、徹底的な対立の米ソといった構図は存在しない。むしろ、大きな問題に対処するには、米中関係を重視する必要性に迫られてきたといってよいだろう。


米国は表向き「中国は危険だ」と言い、軍事力増強などを日本やその他アジア諸国にも求めてきている。その対決姿勢を確かめる為に、日本のみならず、ASEAN諸国にも「米国を取るか、中国を取るか」という選択を迫っているように見える。ベトナムがTPPへの参加表明をしたように、タイでも「事前協議参加」が示唆されていた(たとえそうではあっても、韓国の参加は一切報じられていないが)。


今後にも、こうした「アメリカの下に入って従うか、中国との関係を重視するのか」という踏み絵を迫られる可能性がある。米国としては、中国の勢力圏が大きくなる前に、できるだけ先に「ブロック」構築をやっておきたい、ということであろう。そのとばっちりが日本にも及んだのが、あのTPP騒動であったと言ってよい。日本では、何人かの親米派の議員や識者が「アメリカをとるのか、中国をとるのか」といった選択なのだという趣旨の発言をしていたが、これと同じようなことをASEAN諸国をはじめとするアジア圏の国々に求めているのが米国なのだ。


3)日本はアジア諸国を救うべくTPP参加を拒否すべき

現実問題としては、多くのアジア諸国で無理な選択を迫られることで、困惑することになってしまうだろう。それは、ビジネス相手としての中国は、十分魅力的であったからである。だが米国からすると、日本やASEAN諸国などが中国と仲良くすることを快く思わない。「こっちの手下に入った者だけ可愛がり」というのが米国の姿勢だ。米国は、「どっちだ、態度をはっきりしろ」と性急な答えを再三再四求めてくるわけである。まったく、しつこいったらありゃしない。多くの国々がそれで答えに困るわけである。

なので、日本は「どっちだ」と問われても、「答えません」ということに徹するのがベストである。態度を明らかにせよ、とか、どっちを取るか言え、と求められても、頑として「どっちでもない、答えない」ということを明確にしておくべきである。これによって、多くのアジア諸国が「日本に従っています」と言うことができるようになるからである。

米国の求めに対して、「中国か、米国か」の答えを言わなくてもよくなります、ということだ。日本の背中の陰に隠れていいよ、と言ってあげればいい。日本の背中を貸してあげればいい、ということだ。日本が中立を貫けば、他のASEAN諸国なんかも日本の立場に賛同します、ということで、回答を回避できる。ASEAN諸国は日本を通じて、中国とも米国とも繋がりを保てるし、関係を悪化させることもない。日本が本当に責任ある立場をとるということであるなら、アジア諸国を助けるべきである。


4)対応策をどうするか

その上、米国の経済ブロックをアジアに設置させることは、自由貿易推進の標榜に反するし、中国、インド、韓国などの加入がない点においてもメリットは極めて乏しい。TPP推進派の主要論点として、彼らが「農業問題」と「関税率」というところに焦点化してくるという戦術を用いているのであるから、それに乗ってみるのも一策である。

すなわち、TPPのごとく広範な分野を対象とはせずに、日米間の「関税率」だけを自由化するのである。一部例外品目が設置されるのは、当然容認する。「自由貿易だ、消費者余剰だ」などといった目先の誤魔化しを言うのであるから、それを尊重してやればいい。物品の関税率をゼロに引き下げても、日本が日本でなくなるということはない。彼らの言う「関税率がゼロ」が達成される、というだけ。それでいいはずだろう。

もしも日米間の関税率ゼロを達成させようとした場合には、逆にアメリカ側から反対が強まるであろうことは想像に難くない。彼らの目的が単なる関税率引き下げなんかではないから、である。
日本の米国からの輸入金額は、そんなに多いというほどではないだろう(小麦や米の輸入が増加したとしても、たかが知れているだろう)。逆に、日本の対米輸出超過額が多ければ多い程、得することになる。アメリカ側が「自らわざわざ損をする」ということを、やりたい、などと言うはずがない。もっと「大きな宝の山」が隠されているはずだ、ということ。

いずれにせよ、TPP推進派の言う理屈というのは、関税率をゼロにすることでしかないのだから、それ用の対米交渉を二国間で行えばいいだけだ。農業問題は、TPPには無関係である。農業問題は個別の政策として、対策を考えるべき。


以上のことから、日本がTPP参加を拒否することで、多くのアジア諸国を助けることになるはずであり、外交上の成果を求めるのであれば、「参加拒否」がベストであると考える。一方、RCEPが軌道に乗り始める可能性があり、これを推進することが日本やASEAN諸国にメリットとなるだろう。