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【いい国作ろう!「怒りのブログ」】のバックアップです

年金資金の運用に関する誤解

どうも若年層を中心に、過去の年寄りたちが年金積立金を流用(むしろ悪用か)した結果、何十兆円もの損失を出してしまい、若者たちへの年金給付額が激減してしまうことになってしまったんだ、というような誤解があるのではないかと思う。


先日の厚労省の年金漫画の記事(http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/747457645f15ebeb1edea461987c4854)でも少し触れたが、まだまだ誤解が深いように思う。思わぬ記事中で発見したので、ちょっとショックだった。


http://www.landerblue.co.jp/blog/?p=17461

(一部引用)

バブルや高度成長期を生きて、稼ぐチャンスがいくらでもあったいまのお年寄りと、生まれる前からずっと不況な若者。しかも厚生労働省がいろんなことに年金使い込んだり(年金福祉事業団は年金の積立金の1/4にあたる35兆9000億円もの資金を使って、グリーンピア事業やって大失敗して物凄い損失を出した)、記録無くしたりしてメタメタにしたあとの若者は違うでしょ。

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まず、記録がなくなっていたり、というのは、おっしゃるように事実です。けど、昔はパソコンもなかったし、紙台帳で管理してて、名前や生年月日検索とかもなかったし、難しい面があったのでは。
電算化に移行しても、入力1万件当たり1件の入力ミス(0.01%だ)があるとして、1億人の入力だと1万件エラーが発生するし、婚姻や転職回数で増えればその分だけ入力件数が増えるから、昔の時点ではミスがここまで大きくなるなんて思いもよらないことだったのでは。確かに対処がまずかったのは確かだが、そのエラーを完璧に防ぐ費用もばかにならなかったかもしれないし。
ミスがあることに気付いていた役所の人たちも存在してきただろうけど、多くは事なかれ主義的に担当者が変わってゆくだけで、誰も責任を取ることができなかったのではないかな。あと、記録の不備で一番多いのは、「受取手が見つからない」というものなんじゃないの?保険料納付記録があるけど、受け取る人が見つからない、ということでは。ある人が納めたはずの保険料分が記録にないので受け取れなくなって困る、というのは少数派では?
そうすると、記録ミスで積立金がむしろ増える効果をもたらすわけだな。それに、もらえてないケースだと、雇用主が給料から天引きしていても、実際には役所に納付してなかった場合もあるでしょう?税金(従業員の所得税や住民税)ですら滞納するのだから、徴収の甘い社会保険料を滞納していた雇用主はかなり存在していたのでは?


それから、象徴的な失敗事業と叩かれているグリーンピア事業ね、これって本当に「みのもんた」の影響力がマジ大きかったんだろうね、と思う。テレビで散々言ってたから。これも確かに損失は出しました、ごめんなさい、と言うしかないでしょうけど(当方は議員でも役人でもないので謝罪する理由はないのですが、若干の年長世代ということで代わってお詫び申し上げます)、そんなに何十兆円も穴をあけたわけではありません。小泉政権時代に年金改革でひと区切りつけたはずですが、処理費用として約5兆円超の資金投入が行われたはずです。累損解消と借入金を繰り上げ返済して、処理したということです。その後の清算過程でも、2〜3兆円くらいの純損失が確定してしまったかもしれませんが、それは主に年金住宅融資の損失ではなかったかなと思います。


損は確かに悪いですけど、全部を完璧にはできません。ゼロにはできなかった、ということです。以下、もう少し細かく説明を試みたいと思います。当方は、社労士のような人間でもなく、社会保険庁とかにも全く無関係ですので、詳しく全部が分かるわけではありませんので、あくまで概略とか基本的な説明に留まりますのでご了承下さい。


1)グリーンピア事業には1兆円も使ってない

前記記事中では、「35.9兆円も使ってグリーンピア事業大失敗」というふうに紹介されておりますが、これは不正確ではないかと思います。
そもそもグリーンピア事業にかかった費用の総額は取得費用で約2000億円、運営経費分で約1700億円くらいだったと記憶しております。総事業費3700億円で回収できたのは数十億円とかせいぜい百億円といったレベルではなかったかと記憶しています(売却でどれくらい回収できたかは知らないです)。13施設しかないので、これを何十兆円も使うというのは、極めて困難です。

ですので、総事業費も違いますし、損失額も何十兆円にもなるといったことはあり得ません。


2)年金資金は大蔵省が安定運用してきた

昔と最近では運用の仕組みが違います。大蔵解体に伴ってであろうと思いますが、かつては大蔵省の資金運用部が運用してきました。運用利回りは、当時の長期金利に準じるということで、長期運用を基本としていました。なので、マイナス運用になったことはありません。近年の「投資」とは全然違う、ということです。

大雑把に書くと次のような仕組みです。


金保険料→厚生省
       ↓
    全額を大蔵省資金運用部へ預託→年金福祉事業団へ貸付

かつては全額をまず大蔵に預け、そこから再度大蔵が配分しなおす、という形をとっていました。大蔵の何が何でも金の全てに紐をつけておく、みたいな感じでしょうか。

資金運用部から厚生省に戻されるのは、その一部ということで、これが大蔵からの「貸付金」という形をとっていたわけです(前記記事中の「4分の1=35.9兆円」は多分これでしょう)。
例えば大蔵は、3%の預託金利息を年金積立金に払うと約束し、これを上回る貸付金利で各省庁の事業に貸し出したということです。その利ザヤは大蔵が受け取ることで財源の自由度と権限を握りたかったということでしょう。

合計10兆円の年金積立金があると、10兆円の年金基金に3%利息、つまり3千億円の運用収益が加えられるのです。大蔵はこの10兆円のうち2.5兆円を厚生省へ(その一部から年金事業団へ配分)、他を財政投融資特殊法人等への貸付金や出資金として長期貸出金として貸したのです。この貸出金利が4%であると、1%分の鞘が取れるので、1千億円分の資金分配権を握るということになるのです。
厚生省から見ると、3%分の利息を受け取るのですが、その原資の一部が自分たちが運営しているグリーンピア事業で捻出しなければならない、ということを意味するわけです。だって、3%で自分が貸したお金に4%の利息を付けて大蔵に納付するということですので。それから、厚生省だって、保険料を誰かに「あげた」のではなく、あくまで「貸した」だけですので。利息を付けて返してもらってきたわけで、相手が特殊法人でもそうでした。(その団体が)税金投入先じゃないか、という批判はあるでしょうけど、全部が泡と消えたのではなく返済があれば利息分は増えて返ってきていたのだ、ということです。
30兆円とか40兆円という資金を全部が全部、無駄な公共事業につぎ込んできた、というだけではないということです。



こうした仕組みは郵便貯金でも同じようなものでした。
郵便貯金の貯金者に対し利息を払うわけですから、これを捻出してきたのは資金運用部だった、というわけです。それら利息は財投等の貸付金の利息から生まれたものだった、ということです。


確かにグリーンピアは失敗しましたが、こうした事業の恩恵を受けてきたのは年金積立金、すなわち受給者ということなのです。資金運用部は全ての運用リスクを引き受ける代わりに、年金基金郵貯貯金者に利息が払えない、ということがないようにしたわけです。リスクの遮断効果は確実にあったものと思います。
だからこそ、マイナス運用になることもなく、安定的な収益をあげることが可能だったのです。


3)損失だけではなく収益も見よう

グリーンピア事業や年金住宅融資事業の清算に伴い、損失が出たのは確かです。それは悪いのかもしれない。では、資金運用部が運用していた時代から通算して、どれくらいの運用収益があったかご存知でしょうか?

昭和61年から平成25年までの、旧年金事業団時代からの累積運用収益は約44兆8700億円だそうです。平成17年以前(小泉時代の年金改革前)だけでも、大幅なプラスになっていたはずです。公定歩合がデフレ期より高かった時代ですし、長期複利効果もあるでしょうからね。その運用収益の原資は、根本的には特殊法人等の公益事業ということになるわけです。或いは補助金事業、といったことですね。

国債を買えばいい、という意見もあるかもしれませんが、国債発行残高は2000年頃ですと300兆円くらいしかなくて、銀行や生保などの金融機関も買うわけですので国の基金がバカバカ買うというのもできなかったでしょう。それに、郵貯の200兆円以上の資金も生じてきていましたから、国債投資だけというのは難しかったのでは。


いずれにせよ、運用損失額よりも何倍か多い運用収益額があった、という事実を認識するべきでしょう。その恩恵は年金受給者全体に(将来世代も)及ぶのです。


4)年金貸付を利用していたのは一般国民

グリーンピア事業と並んで損失が出てしまったのは、住宅ローン部門でした。年金住宅融資と呼ばれた住宅ローンは、住宅金融公庫と並ぶ公的貸付だったのです。
メリットは、一般の銀行住宅ローンよりも金利が低いこと、審査基準(自己資金比率)とかが比較的緩やかなこと、加算などで借入総額をそれなりの確保しやすかったこと、などがあるかと思います(因みに、当方が住宅取得に際して借りた先は、公庫と年金でした。金利の低い順から選ぶとそうなったのです。しかし借入後に民間ローンに借換ました。金利がデフレ期で下がったからです)。

年金住宅融資は貸出先が破綻せずに返済してくれると、損失は出ない仕組みになっていますが、多くの借り手が返済できなくなってデフォルト率が上がると損失が出るわけです。つまり、この事業の本当の損失原因は大勢の借り手です。そういう方々の年金を全額カットしろ、とか、生活保護も受けさせるな、とかで、損失を穴埋めせよと求めるなら、そういう運動をしてみたらよいでしょう。

清算時の損失原因を生み出したのは、普通の国民です。国が住宅ローンなんてやるからだ、という意見があることは承知しておりますが、財産のない所得もそこそこしかない人が不動産を取得するということがどれほど難しいか、ということはお考えいただければと思います。
住宅取得が困難だ、ということで、政治家への批判は少なくありませんでした。例えば都内に住むというのは夢のまた夢、みたいな時代でしたから。土地が高すぎる、銀行貸出金利が高い、等は非難の的だったはず。

なので、公的貸付は一般庶民にしてみれば大変「ありがたい」ものだったはずでしょう。この事業を事後的に批判するのは簡単ですが、やらない方がよかったとは当方からすると到底言えるものではありません。


これと似たような構造なのが、奨学金でしょうか。
近年の若者が大学卒業後に定職に就けず、奨学金を返済できない、と言って、社会や年長世代を非難している姿をネット上などで見かける。
返さない人がいると、日本育英会は困るわけだ。資金難になる。次の借りたい人に貸せなくなる。運営費用も乏しくなる。何故、返さないのか?


当方が借りた頃だと無利子というものだったので、現代では有利子で金利が高くて返済できないのかと思ったのだが、実はそうでもないみたいではないですか。
無利子の奨学金はあるようだし、有利子でもそんな暴利みたいな金利ではないでしょう。年間十数万円が返済できない、なんてことがあるのかなと不思議に思うわけです。本当に返済できない状態って、どうなんだろうな、と。

オヤジどもが楽して、若者の金や仕事を奪っており、そのせいで自分は奨学金返済ができなくて困っている、とか思う前に、まず払うべきものは払えよ、とは思うわな。払わないヤツが一番悪いのではないのか?


そもそも、その借入は妥当だったか?
金利負担が重荷だ、というのなら、何故無利子の奨学金を申し込まなかったんだ?
無利子に該当しないのは、学業成績に問題があっ
たからではないのか?それとも世帯収入が高額だったから?
借りた金額は適正だったか?
借入総額と返済のバランスの問題だろう?

定職の話以前に、自分の見通しの甘さや事業計画(奨学金借入〜返済という一種の事業だ)に問題があったのではないのか?資金計画に無理があったのでは?


公的融資である年金住宅融資も奨学金も同じだ。病気や事故とか、不測の事態で返済困難になることはあるだろう。だけど、当初からの計画失敗とかがあるのでは?それは自分のせいではないか?

奨学金を返済する為に、日雇いだろうと夜間の土方だろうと警備だろうと、辺境地の住み込みだろうと、死に物狂いでやって、それでも返せないのか?
まずは、返すのが筋ってもんだろう。3食のところ、1食に削って水を飲んででも返済するのが借りた者の務めではないのか?
返せないなら、そもそも借りるべきではない。返済計画が実行できてない時点で、仕事の能力に疑義を生じるだろうね。スマホもやめて、バイトを掛け持ちしてでも返済するべきだろう。それくらいできないなら、借りるべきではない。損失を与えているのは、何も役人ばかりではないということだ。オヤジや社会を怨む前に、自分の能力不足・計画不備を反省すべきでは。


無駄なハコモノは損失をもたらしたかもしれないが、例えばグリーンピアの作られた当時では、今で言う国の「成長戦略」というものが、レジャーだったはずだ。TDLだって、そういう流れの中で登場してきたんだろうよ。全国各地に作られたレジャー施設の数々も似たようなものだろう。
最近の議員さんたちが「観光立国」だの「カジノ」が成長戦略だ、とか言うのと何が違うと思う?大して変っちゃいないってことだ。
バカな成長戦略としてカジノを作ろうっていうのが、何年かしてからダメな事業だった、どうしてこんな損失の分かり切ったものを作ったんだ、って若年層から批判されるのと一緒さ。


当時レジャーは経済発展、地域発展の目玉産業として考えられていただろう、と。そうした考え方は珍しいものではなかった、ということである。ビジネスや投資でも同じだが、事後的に失敗だったと言うのは簡単だが……どうなんだろう。



最後は、話が大きく飛んでしまったが、そんなに昔の人が悪事に勤しんでいた結果、年金財政が酷くなったものではない、ということです。