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【いい国作ろう!「怒りのブログ」】のバックアップです

浜岡原発停止は超法規的措置だったのか

池田信夫曰く、石川和男という人がそう言っている、ということのようだ。元の意見が判らないが、この石川氏というのはたまにテレビなどに出てくる元通産官僚らしく、経産省になってから退職したようなので、内部の人間ということのようだ。常識的に考えると、一般人よりも原発行政や法律に関しては専門家としての優位がある人であるはずだろう。そういう人が言うのだから、正しいと思えるのかもしれないが、本当なのだろうか?

当方は、自分で検討してみないと気が済まないので、石川氏がそう言ったからとて信用なんかしないわけだが。反論を考えてみたので、ご意見を広く拝聴したいですな。


①事業者に使用停止を求めることの違法性について

法にないのに命令なんかできない、というのは、その通りだろう。大臣権限がどんなことにでも及んでしまえば、統制国家みたいなことになりかねないから。

ただ、安全確保という点では、必ずしも禁止されないこともあり得るのではないかと考えられる。

また例で示そう。

航空機事故の場合、その同型式機の運航に制限が課されることがあり得る。
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha07/12/120912_2_.html

これは大臣が航空会社に対して、超法規的措置を求めたと言うのであろうか。
例えば日本の甲航空会社が運用している乙という飛行機は、何らの事故も起こさず安全に運航されているにも関わらず、他国において発生した他航空会社所有の同形式機の事故を受けて使用停止となる、ということである。

この飛行機の安全基準が法的に規定されているかというと、厳密にはそうではないであろう。細かい技術基準については、法で個別に規定できないはず、ということだ。一般則として法的に規制できる部分までは、条文上で表現でき得るだろうが、個別機の安全基準・状況まで条文上で全てを表現できるわけではない。

これを、「法に規定がないのだから、使用停止を求めるのは憲法違反」とか、「超法規的措置だ」といった批判をするのは全くの見当外れであるとしか思われない。

 a)事故機―所有航空会社
 b)安全運航の同形式機―甲航空会社 ← 国土交通大臣の運航停止指示

この関係は、原発事故に置き換えると次のようになる。

 a')事故原発(福島第一)―東京電力
 b')安全運転の同形式機―中部電力 ← 経済産業大臣の運転停止指示

厳密に言えば、完全同形式の原子炉ではないかもしれない。
けれども、設置時期の近い原子炉が存在すること、地震津波発生といった福島第一原発の事故条件に近い原発であること、などがあるのであれば、予防措置として運転停止指示をすることは、違法とまでは言えないのではないか。

航空機事故の場合であると、根拠法となるのは航空法である。

航空法 第112条  
国土交通大臣は、本邦航空運送事業者の事業について輸送の安全、利用者の利便その他公共の利益を阻害している事実があると認めるときは、当該本邦航空運送事業者に対し、次に掲げる事項を命ずることができる。
一  事業計画又は運航計画を変更すること。
二  安全管理規程又は運航規程若しくは整備規程を変更すること。
三  運賃若しくは料金(国際航空運送事業に係るものに限る。)又は運送約款を変更すること。
四  航空機又は運航管理施設等を改善すること。
五  第一号、第二号及び前号に掲げるもののほか、輸送の安全を確保するため必要な措置を講ずること。
六  航空事故により支払うことあるべき損害賠償のため保険契約を締結すること。

前記国交大臣の指示が、この112条に基づく改善命令であったかどうかは定かではない。指示となっていることから、大臣からのお願い、すなわち行政指導である可能性はあるかもしれない。が、5号規定により「輸送の安全を確保するため必要な措置を講ずる」ことを命令できるので、相手側航空会社が拒否した場合には、この命令を発動すればよい、ということになるであろう。

安全確保の為の必要な措置というのは、事故機と同型機の使用停止が社会通念上過剰な措置(具体的には航空会社の経済的損失を与えることになるので)として違法であると認定されるものでないならば、適用可能と考えるべきであろう。
事故原因の分析が十分でない時、原因解明までの期間において、これを使用停止とすることが違法とは考えにくい、ということである。これとほぼ同様の措置は、防衛省のF15の運用においても行われた。異常の発生機は日本の所有ではなく、米国における機体異常の報告を受けて、原因解明が進むまでの間、F15の飛行訓練などの運用停止となった。ユッケ問題の時にも、ほぼ似たような法律に基づく”命令”という構造になっていたのではないかと思う(食品衛生法などをきちんと検討してないので、あくまで印象ですが)。

つまり、事故発生の予防を原則と考えるなら、事故発生が十分予想されうる状況で使用・運航・運用停止といった予防措置を講じることは必要である、ということである。


浜岡原発停止要請に法的根拠は存在しないのか

ここで、航空機運用は航空法に規定があるじゃないか、原発には規定がないぞ、と反論してくる向きもあるかもしれない。そうであるが故に、本職ともいうべき元通産官僚の石川氏が「超法規的」などと喧伝するのであろう。菅総理も現行法では止める法律がなかった旨、インタビューで答えたりしていたわけだ。

しかし、拙ブログでは異なる見解を持っている。
そもそも霞が関官僚たちが、業法関連で「規制できない」などという法律体系・条文を作成したりするだろうか、ということがあるからである。いかに原子力ムラや業界の権力が強くて、できるだけ法規制をされないようにという配慮がなされているとしても、何らの制限も課せないということは考え難いからだ。通常であると、法の解釈及び適用する官僚側が「どうとでも解釈可能」な曖昧な条文を置いて、いざとなればそれを適用できる、という構造にしているように感じるのだから。

で、原発停止を求める条文としては、既に述べた原子炉等規制法に基づく36条発動(35条1項違反の存在)というのがあったわけだが、他でも適用可能と思う。

電気事業法 107条の三
経済産業大臣は、四半期ごとに、第四十七条第一項及び第二項、第四十九条第一項、第五十条の二第三項、第五十一条第一項及び第三項、第五十二条第三項、第五十四条第一項並びに第五十五条第四項の規定による原子力発電工作物に係る認可、検査及び審査の当該四半期の前四半期の実施状況について原子力安全委員会に報告し、必要があると認めるときは、その意見を聴いて、原子力発電工作物に係る保安の確保のために必要な措置を講ずるものとする。
2  略

この条文を大雑把に言うと、経産大臣は
◎4半期ごとに認可・検査・審査実施状況について原子力安全委員会に報告義務がある
◎必要があれば原子力安全委員会の意見を聴き原子力発電工作物の保安確保の為に必要な措置を講ずる
ということである。
後段の経産大臣は「保安確保の為に必要な措置を講ずる」ことができる、という部分は、上述した航空法における国交大臣の112条権限と、条文上の構造は極めて似ているということだ。

さて、例示した「事故機ではない航空機の運航停止を別の航空会社に求める」のと、原発の運転停止を求めるのでは、法的に大きく異なることがあるのだろうか?
元通産(経産)官僚たる石川和男氏は明確に答えることができるでしょう。あくまで超法規的措置だ、と言うつもりでしょうか(笑)。


もうちょっと書いておきますね。
オマケです。

池田信夫は、橋下市長や京都府知事や滋賀県知事が意見を言うのは、法的根拠は何もない、と断言したな。
でもね、誰でも言っていい、っていう決まりになっているみたいですよ。

電気事業法 第111条 
一般電気事業者若しくは特定電気事業者の電気の供給又は登録調査機関の調査業務に関し苦情のある者は、経済産業大臣に対し、理由を記載した文書を提出して苦情の申出をすることができる。
2  経済産業大臣は、前項の申出があつたときは、これを誠実に処理し、処理の結果を申出者に通知しなければならない。

何て素晴らしい条文なんだ!
苦情申出は、資格制限はないようですけど。つまり、オレが文句を言ってもいい、ってことなんですわ。例えば「電気の供給」に関して苦情があるなら、文書で経産大臣に提出することが法的に認められている、ということです。内容については、苦情なのですから、それなりのことを書くべきなのでしょうが、条文上では苦情の要件は規定されてないでしょうな。だから、橋下市長が言ってるような内容であっても、それは法的に認められる、ということです。
そして、2項規定により、誠実に処理する義務、及び処理結果の通知義務が経産大臣には課せられている、ということですわ。

ですので、東電や関電に文句のある人たちは、皆さんで苦情申出を行うといいですよ。折角条文で規定されているんですから、どしどし利用した方がよいでしょう。
ですよね?≫枝野大臣殿


池田信夫も、石川和男も、法律の条文をよく読んでおくべきだな。
どうせ読まずに「超法規的措置だ」なんて豪語したんだろうけど。これで元官僚ですか。しかも、当の経産省の。霞が関も人材払底ですかな。

哀れなり。日本の低落理由が垣間見えましたな。


一般人を責めたり、情報や法律なんかをよく知る由もない国民を非難する前に、まずあなた方のような分かったような口を叩く妄言吐きをどうにかしたらどうか。


因みに、水戸黄門をいくら責めても、超法規的であることの立論にはならんぞ(爆)。