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田中文科大臣の大学不認可に対する法的手段の検討

本職の弁護士先生に挑戦したいというわけではありませんが。こちらの記事が目についたもので。

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20121106-00000304-agora-pol


何とも残念な話ではないですか。法律の専門家であるはずの弁護士が、行政の横暴に法で対抗するべく術を全く知らない、思いつかない、というわけですから。本来、弁護士ならば、一般国民に代わって戦いをすべきなのでは。
まったく、情けない、の一言に尽きますな。


山口弁護士は次のように述べている。

『そもそも「裁量権の濫用」というのは、法律上のどのような法的根拠をもって、さらに具体的にどのような事実により「裁量権の濫用」を基礎つける事実と構成できるのか、まったく明らかにされていませんので、大いに悩むところであります。』


『他にも、今回の大学設置不認可問題には、数えきれないほどの素朴な疑問が生じるわけですが、まずは「法的措置も辞さない」とされている当事者の気持ちを、法律家はどのように実現していけるのか、とても関心が高いところでありますので、「入口」のところの疑問を書いてみました。ホンネで申し上げれば、政治的配慮をもって「不認可撤回→認可」となれば一番良いのですが、かりに「門前払い」判決など出てしまったら、田中文科相の思うツボになってしまいそうで、せめて実体判断に至るまでの法律家のセンスはとても重要ではないかと。結局は大学設置認可という行政行為に、どこまで行政裁量が認められるのか、学校教育法の制度趣旨にまで遡って考えることが必要なのではないかと思う次第です。どなたかこのあたりをクリアーにご教示いただけますとありがたいのですが……。』


まあ、山口弁護士が専門家の意見を求めてはいても、当方のような完全ド素人の意見を求めているわけではないことは重々承知の上で、当方の見解を書いてみたい。



1)文部科学大臣の権限についての検討

まず、大学設置の根拠法であるところの、学校教育法の規定を見てみる。


○学校教育法 第三条  

学校を設置しようとする者は、学校の種類に応じ、文部科学大臣の定める設備、編制その他に関する設置基準に従い、これを設置しなければならない。


○学校教育法 第四条  

次の各号に掲げる学校の設置廃止、設置者の変更その他政令で定める事項(次条において「設置廃止等」という。)は、それぞれ当該各号に定める者の認可を受けなければならない。これらの学校のうち、高等学校(中等教育学校の後期課程を含む。)の通常の課程(以下「全日制の課程」という。)、夜間その他特別の時間又は時期において授業を行う課程(以下「定時制の課程」という。)及び通信による教育を行う課程(以下「通信制の課程」という。)、大学の学部、大学院及び大学院の研究科並びに第百八条第二項の大学の学科についても、同様とする。

一  公立又は私立の大学及び高等専門学校 文部科学大臣
(以下略)


3条と4条1項1号を非常に乱暴にまとめるなら、

①文科大臣の定める基準で設置せよ
②学校設置者は文科大臣の認可を受けなければならない

ということである。


具体的な設置基準というのは、次の法律で定められている。

・大学設置基準(昭和三十一年十月二十二日文部省令第二十八号)


また、設置の際の諮問と審議会の規定は次の通り。

○学校教育法 第九十五条  

大学の設置の認可を行う場合及び大学に対し第四条第三項若しくは第十五条第二項若しくは第三項の規定による命令又は同条第一項の規定による勧告を行う場合には、文部科学大臣は、審議会等で政令で定めるものに諮問しなければならない。

審議会規定は、施行令にある。

○第四十三条  
法第九十五条 (法第百二十三条 において準用する場合を含む。)の審議会等で政令で定めるものは、大学設置・学校法人審議会とする。


これらをまとめると、
③文科大臣は大学設置認可を行う場合、審議会に諮問しなければならない

ということである。


①、②は設置者に対して、「設置基準を満たすこと」「認可を受けること」という義務を課すものであり、③は文科大臣に対して「諮問する義務」を課しているものである。

ポイントして、認可・不認可という選択的権限行使を肯定しているものとは解することができない、ということである。条文上で、「文部科学大臣は〜認可することができる」といった規定にはなっていないからである。そこまで広い裁量権が与えられているものと考えるのは困難であろう。


具体的に示せば、文部科学大臣の権限の強いものとして、15条の勧告、命令、廃止命令、調査権(報告徴集、資料提出)がある。

○学校教育法 第十五条  

文部科学大臣は、公立又は私立の大学及び高等専門学校が、設備、授業その他の事項について、法令の規定に違反していると認めるときは、当該学校に対し、必要な措置をとるべきことを勧告することができる。

2  文部科学大臣は、前項の規定による勧告によつてもなお当該勧告に係る事項(次項において「勧告事項」という。)が改善されない場合には、当該学校に対し、その変更を命ずることができる。

3  文部科学大臣は、前項の規定による命令によつてもなお勧告事項が改善されない場合には、当該学校に対し、当該勧告事項に係る組織の廃止を命ずることができる。

4  文部科学大臣は、第一項の規定による勧告又は第二項若しくは前項の規定による命令を行うために必要があると認めるときは、当該学校に対し、報告又は資料の提出を求めることができる。


ここでのポイントは、まず勧告して「改善すべし」と促すというところからしか権限行使はできない、ということである。何を勧告するかは、大臣の裁量権になっている(明文規定がない)。少なくとも法令違反の存在があれば、可能ということである。解釈権と勧告するかどうかは、大臣側に決める権限がある。
勧告をしてもなお、改める気がなくダメだね、という場合のみ、更なる強権発動となり、それでも効果がなくて改善されないなら「廃止せよ」と命ずることができる、ということであって、いきなり「ハイ、お宅はダメだから廃止ね」などという権限行使は認容されてはいない、ということである。

大臣権限が選択的に権限行使を許されている場合、15条のように「大臣は〜できる」という形式になっているだろう、ということである。しかも、上の95条の規定で見たように、勧告、命令の場合には審議会に諮問しなければならない、ということになっているのであり、何でもかんでも大臣の思い通りにできる、ということではない、ということだ。

④大臣には、いきなり命令(改善命令、廃止命令)等の強権発動が認められていない


これは、学校教育というのは非常に大事なものだから、政治的な圧力とか不当な介入などから「学校(教育)が守られる」という法的な構造になっていると考えられ、審議会での諮問を経たものでなければ、「安易には権限発動ができない」ということになっているわけである。


2)文部科学大臣の不認可表明の違法性について

前項で見たように、文部科学大臣の権限行使は審議会での諮問を経たものでなければならず、その答申を覆すということになれば、それ相応の合理的理由の提示が必要になる。

そもそも審議会の諮問が前置されているということは、凡そその結論に準じることを前提としているのであって、認可権があくまで大臣に存するからといって審議会答申を顧慮しなくてよい、ということまで法的に認められているものではないことは明白である。
審議会は専門的見地からの適正な判断を行うものとして想定されているはずであり、大臣がそれと同じだけの専門知識等を欠いているとしても、正しい判断が下せるように制度的に担保しようというものであるはずである。これを全く無視できるというのであれば、存在意義はない。


また、行政庁の行う許認可拒否処分は、行政手続法で規制される。


○行政手続法 第八条  

行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない。ただし、法令に定められた許認可等の要件又は公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって、当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載又は添付書類その他の申請の内容から明らかであるときは、申請者の求めがあったときにこれを示せば足りる。

2  前項本文に規定する処分を書面でするときは、同項の理由は、書面により示さなければならない。


1項から、申請者が満たすべき基準に適合していないことを示す必要があるはずだが、本件では審議会答申が認可で通っているのであるから、1)で示した「大学設置基準」を満たしていたはずである。よって、審査基準不適合は言うことができないだろう。

少なくとも、田中大臣が不認可と判断する根拠について、処分理由を示す必要がある。
また、申請者側は途中経過時点でも行政庁と相談しながら作業を進めてきたはずであり、行政が途中までは「書類は問題ありません、基準も満たしています、この分ですと認可となるだろうと思います」といったような、内諾の感触を得ていたはずで、そうすると信義則違反の存在は明らかであろう。


○行政手続法 第九条  

行政庁は、申請者の求めに応じ、当該申請に係る審査の進行状況及び当該申請に対する処分の時期の見通しを示すよう努めなければならない。

2  行政庁は、申請をしようとする者又は申請者の求めに応じ、申請書の記載及び添付書類に関する事項その他の申請に必要な情報の提供に努めなければならない。


報道からすると、田中大臣の指摘していた理由というのは、例えば
・一般論として大学教育の低レベル化
少子化進展で入学者数減少だから、大学数の必要性が乏しい
・審議会委員は大学関係者たちが圧倒的に多いから判断に偏りがある
といったようなものだったろう。


これらが不認可理由となり得るか、といえば、全く根拠足りえない。
幾多の大学の学力レベルが低いとか大学教育レベルが低い、いったことは申請者の責任ではない。全く無関係。もし本当にダメ大学ばかりなら、過去の認可した判断が間違っていた、ということが言えるだけであって、今申請している人たちにそれを言うのはお門違い。

少子化だから、という理由も正当事由とはならない。そもそも大学に入学するのが新卒者だけ、といった決まりなどないから。また、定員割れの学校は、その学校個別の原因があるのであって、それを申請者の責に帰することなどできない。

審議会の構成に問題があるとしても、申請者の審査をする前に構成者を入れ替えておけばよいだけであり、それは行政庁側の問題。どうしてそれを申請者のせいにできようか。


従って、
・審議会答申を覆せるだけの合理的理由の明示がない
・行政庁の信義則違反がある
ということなら、違法の存在を言えるはずである。


少なくとも、不認可の処分をする前に、認可となるにはどうしたらよいのかを指導したりするのが本来の行政手続であり、それでもなお改善の見込みがなく、不認可とならざるを得ない、といった特別の事情でもない限り、審議会答申で認可だったものを唐突に結論だけ不認可とするのは、違法としか言いようがない。



3)法的手段はどうするか


山口弁護士のご指摘によれば、不認可取り消し訴訟なんかだと、また一から出直しになってしまう、というようなことがあるようだ。


田中大臣の不認可決定が既に申請者へ文書で行われてしまっている場合には、ちょっと難しくなるかもしれない。が、恐らく、まだ「正式決定」ということではないのではないかと思う。それは、文書での通知が申請者側に届いていないのではないかな、と思うからである。

これを前提として考えると、抗告訴訟ではどうかと思う。
行政事件訴訟法第3条7項(←ここ間違って、1項7号としていましたが、さっき気づきました)の適用である。


行政事件訴訟法 第三条(抗告訴訟

7  この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。


これにより、文部科学大臣の不認可処分の差し止めを行う、ということである。この場合であると、審議会答申などの諸手続きは生きていることになると思われ、そこから先の行政庁の処分、すなわち「大臣の不認可」を止めればよいのではないかな、と。


○第三十七条の四  

差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。

2  裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分又は裁決の内容及び性質をも勘案するものとする。

3  差止めの訴えは、行政庁が一定の処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる。

4  前項に規定する法律上の利益の有無の判断については、第九条第二項の規定を準用する。

5  差止めの訴えが第一項及び第三項に規定する要件に該当する場合において、その差止めの訴えに係る処分又は裁決につき、行政庁がその処分若しくは裁決をすべきでないことがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分若しくは裁決をすることがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、裁判所は、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずる判決をする。


1項の「重大な損害」は該当、3項の原告適格も問題なし(申請者=当事者なので)、5項でいう「不認可処分が裁量権逸脱or裁量権濫用」を示すことは前項2)で述べたように、可能であると判断する。


①〜④で検討したように、申請者には設置基準達成義務と認可を受ける義務はあるが、大臣には「自由な認可、不認可」権限が付与されているとは言えない。なぜなら、諮問を経ないと認可できないから、である。

同時に、大臣の強力な権限発動(勧告、改善命令、廃止命令)についても同様に、審議会の諮問義務が存在しているのであるから、学校教育法上の大臣権限は法的制限を受けている(事実大臣の独断ではできない)ものと解するのが妥当である。完全に自由な判断が認められているわけではなく、審議会答申を前提とした裁量権があるものと考えるべきである。不当な政治的介入を防ぐという学校教育法の趣旨に照らしても、そう考える。


法で規定するところの「大学設置基準」が客観的に満たされており、なおかつ審議会において認可の答申を得たものについて、文部科学大臣が不認可とする為には、相応の合理的理由がなければならないことは明らかであり、これを示せない場合には行政手続法8条に反し、学校教育法4条1項1号に規定する文部科学大臣の認可に関する裁量権濫用と言わざるを得ない。

少なくとも、審議会が答申した認可の判断のうち、どの部分がどのように間違っているのかという、大臣が不認可の判断の根拠となした理由を具体的に示す必要がある。これができていない以上、不認可処分は違法であり、この処分を差し止めるよう裁判所に求める。



以上が当方の独断による見解です。


山口弁護士が求める「詳しい人」でないので、ご期待には添えませんが、書いてみました。