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日本国憲法と第9条に関する論点整理〜12

いよいよ本丸の「戦争法」と呼び声の高い、新法を見てみよう。

まず、法律名が長く、法令検索用の略称を知らない(笑)。

国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律

である。
拙ブログとしては、例えば「外国軍隊協力法」(マジメ調)とか「外国軍隊下請法」と呼ぶに相応しいように思える。端的に言えば、軍事会社的な役割を自衛隊がやれ、ということである。以下では便宜的に前者を略称として用いるものとする。


1)『国際平和共同対処事態』とは何か?

本法1条に定義される。

国際社会の平和及び安全を脅かす事態であって、その脅威を除去するために国際社会が国際連合憲章の目的に従い共同して対処する活動を行い、かつ、我が国が国際社会の一員としてこれに主体的かつ積極的に寄与する必要があるもの

条件は、

・国際平和と安全を脅かす事態
・加盟国が共同対処活動を行う
・日本が参入する必要があるもの

日本語の意味合いがそのまま外国に説明が通用するかどうかが不明なのであるが、過去のPKO法の検討などでは、「参加」と「協力」は憲法解釈上で異なる、といった議論(政府答弁)があったやに記憶しており、ここでは言葉の選択が分からないので、とりあえず「参入する」としておく。

政府は具体的な答弁を避けているが、どんな事態かと言えば、平たく言えば、「イスラム国みたいな事態」ということである。


安保理決議2178(2014年9月24日)>http://www.unic.or.jp/files/s_res_2178.pdf

長々書かれているが、国際社会の安全と平和を脅かすこと、国際社会が共同して対処するべきこと、「国連憲章7章に基づいて行動して(P4)」と宣言されていること、等が示されている。
政府が「イスラム国問題は、国際平和共同対処事態です」と宣言してしまえば、条件に照らして「明白に違う」ということは難しい。政府の見解は、一見して違法であることが明白でなければ、そうそう簡単に否定できないらしいので。


2)具体的に何を行うのか?

大まかに言うと(3条1項2号及び3号)、

・協力支援活動(物品、役務の提供)
・捜索救助活動(戦闘参加者の捜索、救助)
・船舶検査活動

である。

船舶検査は、以前に他の法律により実施が可能になった部分があった。今回は、本法により更に拡張したのが、上の2つということになる。


3)誰に協力するのか?

『諸外国の軍隊等』(3条1項1号)=「外国の軍隊その他これに類する組織」である

その他類する組織、というのがクセもので、例えば米軍が雇った民間軍事会社の兵隊とか、何処かの国が雇った傭兵部隊や外人部隊とか、CIAの現地活動部隊とか、そういうのも全部含まれるだろう、と思われる。
除外規定にあるのは、PKOの地域にいる国連軍と日米安保条約の発動に関連して活動する米軍、であろう(まだ条文で確認してないが)。


外国軍隊協力法に基づく行動が許される条件というのは、1)に掲げた他に、国連総会か安保理の権威付けが必要となっている。その条件が2つある。

・イの 活動の「決定」「要請」「勧告」「認める」決議の存在
・ロの 平和への脅威か破壊の認識を示す+取組を求める決議の存在

特に問題なのは、ロの条件であり、安保理で不一致を見ることがあるけれども、具体的な軍事行動の中身を決定することをせずに、例えば「シリアでの民間人攻撃は平和への脅威であり、破壊だ、故に、人々の命を守り、国際平和維持の為にも何か手を打とう!」といったような取組を求める決議というのは、割と出やすいのである(過去にも類似の決議はいくつも出された)。
従って、当該国の活動について国連のauthorizeが欠けていてもよい(国際法に基づく正当性が確保されていなくてもよい)、ということになっているわけである。


4)行動の実施手続きはどうなっているか?

①基本計画の閣議決定
②国会報告・承認(各議院7日以内)
③原則2年間は国会承認を必要としない(変更の場合のみ)
④2年超の場合には再度国会承認必要
⑤閉会中は召集後30日以内に延長の承認を得


原則的は、大体14日以内に実施が決定される、ということになる。
問題は、開始後2年間は実施を止める有効な手段がない、ということである。もし内閣が自ら基本計画の変更をしない場合には、国会が打てる手というのが内閣不信任しかない、ということである。衆院解散などがあると、更に停止期日は遅れることとなる。
まさに、「走り出したら止められない」ということである。


5)他の問題点は何か?

悪用可能なのは、次の条文である。

○第十三条 防衛大臣は、前章の規定による措置のみによっては対応措置を十分に実施することができないと認めるときは、関係行政機関の長の協力を得て、物品の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供について国以外の者に協力を依頼することができる。

2 政府は、前項の規定により協力を依頼された国以外の者に対し適正な対価を支払うとともに、その者が当該協力により損失を受けた場合には、その損失に関し、必要な財政上の措置を講ずるものとする。


「国以外の者」というのが曖昧で、早い話が、戦争屋、軍事屋さん、ということが十分にある。
現地での物品(武器弾薬、その他物資)調達は、日本での流通系というのと同じというわけにはいかない。運搬手段もそうだし、ヘリの部品だの戦車の車軸だのエンジンパーツだの、どこから調達するか、というのを、そう簡単には防衛省が管理できないだろう。誰がどうやって運ぶのか?
そういう問題も含めて、調達計画は「戦争のプロ」という方々を雇って(まさしく戦争コンサルだな)、実施するという目論見があるだろう、ということ。物品の提供って、外国軍が装備する兵器が日本国内と同条件であるはずもなく、当然軍需会社(製造だけでなく流通販売の仲介業者)に話をつけなければならないだろう。

燃料、食糧調達にしたって、簡単にはいかない。それらの雑務を自衛隊がやれ、ということできる法律なのだ、ということ。そして、その際には、兵器ブローカーらの、戦争屋たちに手数料を払うという、システムに加担することになるのだよ。


6)大義名分と現実は全く違う

協力支援活動は、「武力の行使」でいう武力攻撃以外の部分と共通である。交戦(紛争当事)国と同等の立場になることを意味する。
また、捜索救助活動とは聞こえがいいが、実質的には哨戒、偵察、索敵行為、というのと同じである。
「今、何をしているのですか?」
「はい、戦闘で負傷した将兵を探し出して、救助する予定です」
と答えようとも、現実に行う行為は索敵に他ならないわけである。救助する兵士を探している途上で、偶然敵の部隊を発見し通報しました、って形式的には言うかもしれないが、事実上の戦争行為なのだ。

同じく、船舶検査活動という名の、臨検である。
海上を警戒しておりました、不審な船舶が通過しないか見ていただけです、という大義名分で、現実には紛争当事国(者)の関与する船舶を発見し、物流を止めろということですので。
発表自体は、「凶悪なテロリストが船で化学兵器核兵器を運んでいた、とんでもない!」って言うけど、そんなことは米軍なら毎日やってることである。けど、米軍側にいる人間は正義、米軍と対立する側にいる人間は「テロリスト」と称して、「敵の兵器は没収する」のだよ。何故なら、軍需産業界のブローカー達への挑戦だからだ。
麻薬抗争と全く同じ。
販路を侵すギャングは、もっと大きなボスが率いるマフィアに潰される、みたいなものだ。縄張りを荒らすような、麻薬売買は許されないのさ。大ボスの許しを得てから密売しろ、と。


7)憲法上、どうなるのか?


3条(第2項及び3項)の行為が具体的にどういうものか、別表の中身を以下に示す。


協力支援活動(別表1)

・補給:給水、給油、食事の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供

・輸送:人員及び物品の輸送、輸送用資材の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供

・修理及び整備:修理及び整備、修理及び整備用機器並びに部品及び構成品の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供

・医療:傷病者に対する医療、衛生機具の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供

・通信:通信設備の利用、通信機器の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供

・空港及び港湾業務:航空機の離発着及び船舶の出入港に対する支援、積卸作業並びにこれらに類する物品及び役務の提供

・基地業務:廃棄物の収集及び処理、給電並びにこれらに類する物品及び役務の提供

・宿泊:宿泊設備の利用、寝具の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供

・保管:倉庫における一時保管、保管容器の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供

・施設の利用:土地又は建物の一時的な利用並びにこれらに類する物品及び役務の提供

・訓練業務:訓練に必要な指導員の派遣、訓練用器材の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供

・建設:建築物の建設、建設機械及び建設資材の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供

 備考 物品の提供には、武器の提供を含まないものとする。


前の記事の例で説明しよう。
(再掲)

例えば、イラク領内に「イスラム軍事攻撃団」がいるとしよう。
これが我が国の存立危機事態であると宣言する。湾岸地域が危なくなれば、それで我が国が倒れてしまう、と。よって、米軍、豪州軍、韓国軍、日本軍(自衛隊などと呼ばず軍でいい。それが安倍自民の悲願なのだから)が有志連合となり、イラクを救いに行くぞ、となる。イラクは救援を頼み、同意した、と(さしずめ米国が桃太郎、日本はキジで、残りが豪韓が犬猿となろうか)。

そこで、米国を中心とする有志連合軍は、安保理に「イラク領内の平和を守り、各国が行動をすることを求める決議」案を提出、これは可決される。具体的にどのような行動を実施するかは、これから決めればよいだけなので、とりあえず「行動しよう」と宣言する為の形づくりの決議さえあればよいからだ。

で、決議があるから、米軍はイラクへ攻め込む。
日本軍は、地域制限がないのでイラクでもOK、安全と平和に資する活動だからOK、という解釈で押し通すわけだ。これはあくまで「我が国の安全と平和の確保の活動」なのであり、有志連合軍に協力するべきだ、と。
イラク領内での戦闘には直接参加しないが、基地や米軍の配備している兵器を守備する為、基地を襲撃しに来る悪の組織たる「イスラム軍事攻撃団」を排除するべく、日本軍が戦う、というストーリーになっているわけだ。そして、基地運営経費や補給物資関係は、日本軍が「自ら負担します」ということが合法的に認められているので、戦費も出すということになるわけである。航空機の整備も勿論全部日本軍がやることになっているのである(国際法上でいう、中立国を超えるもので、戦争への加担と見做されるのと同等である。広く言えば、交戦権で規律される範囲の諸権利が含まれる)。


外国軍隊協力法によれば、イラクの同意があるので、イラクのある領域に、普天間基地みたいなのを、現地に作るということだ。

・即席の空軍基地を建設
・付随する軍事基地を建設
・付随するレーダー基地+通信設備設置
・兵舎建設、管理
・民生部分も担当
・武器、弾薬、燃料調達
・航空機整備全部(機材、部品等)
イラク人の警備兵を雇用し武器装備一式支給、訓練+賃金支払
イラク政府に土地の賃借料支払

これらを全部、日本の金を巻き上げて(税金で)やる、自衛隊を使って実現させる、ということに他ならない。
日本が国際社会に協力すべき、という見せかけに基づき、実質は、戦争ビジネスに加担するということだ。通信設備は日本企業のものでもよい、レーダーもいいよ、だけどイラク兵に配給する武器装備一式は米軍方式にしろよ(=米軍需産業への上納金と同じ)、ということだ。

まさに、戦争を長期間遂行しやすいように、ベースを作っているということである。ベースは基礎という面と、基地という面の両方と言えよう。


日本と自衛隊は、戦争ビジネスの歯車にガッチリ組み込まれ、下働き専門要員として差し出すことを実現したのが、この法律である。


従って、

・協力支援活動は、紛争当事者の一方にのみ特別の利益供与にあたる
・「武力の行使」に該当する行為(基地業務、兵站一般、整備業務等)
・基地や保管する外国軍隊の武器防護は、交戦者への敵対行為

これらは、日本が紛争当事国となり、軍事的紛争への介入である。しかも、日本への直接の武力攻撃が発生していないにも関わらず実施される行為であることから、一般にいう個別的自衛権の行使ではない。


憲法上交戦権を有しない日本が、軍事的紛争に際して、自衛(力)の範囲を超えて「武力の行使」を実行することは、憲法9条に違反する。

唯一例外的に認められていると解されるのが、急迫不正の侵害に対する自衛としての「武力の行使」であって、日本が侵害を受けていないのにこれを行うことは許されない。
また、緊急に防衛する必要があって自衛力を行使するのであって、他国領域(周辺地域の限定も何ら存在せず)において、行為の期間が2年にも及ぶ長期となるのは、やむを得ない状況であるとか他の取り得る手段がないということは、殆ど想定できない。


日本が憲法上で例外的に許容される「武力の行使」はあくまで臨時の措置であって、国連が正式な対処や必要な措置を取るまでの間、暫間的に自衛権の行使に至るものである。
年単位以上の長期、ましてや2年以上の更なる延長期間に渡る行為は、例えば正当防衛や緊急避難において想定されているものとは考えられず、軍事的紛争に自ら進んで介入するのと同じで、違法な「武力の行使」である。


いくら大事な友人であるとして、友人宅の庭先に2年とかテントを張って泊り込み、毎日警護してました、襲撃している悪者に猟銃を撃って撃退していました、という行為を、本当に正当防衛とか緊急避難を言えるのか、というようなことである。



捜索救助活動(別表2)は長くなったので、省略。協力支援活動と大差ない。論点もほぼ同じですので。


時間があまりなかったので、とりあえず。