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【いい国作ろう!「怒りのブログ」】のバックアップです

イラン原油の禁輸措置の法的根拠とは何か

気になるので、もう少し書いておきたい。
まず米国の事情というのがあることは分かる。それは主として国内的な政治状況によるものである。議会を中心に、対イラン制裁を強めるべし、という声及び姿勢は顕著になっているであろう、と。オバマ大統領への圧力は増しているはずだ。
同時に、米国国内法によって、制裁対象の法的根拠が与えられているであろう、ということも分かる。制裁法の意義や是非は別として、そういう法律が米国内で作られているということは事実なのだから。議会と立法手続に基づいて制定されたのだから、そのことを当方があれこれ述べる立場にはない(抱くとしても個人的感想ということになる)。

そういう米国国内法が存在することと、日本(或いはEU諸国や韓国なども含めて)がイラン産原油を禁輸すべし、ということを求められる法的根拠は必ずしも一致しないのではないか。


http://www.mof.go.jp/public_relations/conference/my20120112.htm

ガイトナー財務長官発言
『また大臣と私は、日米協力のあり方ということでイラン中央銀行を国際金融システムから切り離し、石油収入を減らすといった方法を含め、イランの政府に国際義務遵守をどう働きかけていくかということについて、日米がどう協力できるか、その方策を検討しました。』
『まずイランですけれども、先程申し上げましたしご存知だと思いますけれども、ヨーロッパと日本、世界中の国々と緊密に協力することによってイランに対する圧力というのを大幅に高めています。イランの中央銀行を国際金融システムからどうやって切り離すか、そしてまたイランの石油輸出収入をどうやって削減出来るかについての方策を模索しています。』

このガイトナー発言からすると、やはりいくつかの疑問を生じるわけである。
・イランの負う”国際義務”とは何か?
・イランの石油収入削減の根拠とは何か?

国際的な約束を守らないので、「制裁を加える」(昔の変な学生運動みたいな言い草ではある)ということなら、イラン以外の国だって色々とあると思うが。どうして他の国には、制裁を加えないのだろうか。イランの違法性の理由とか、義務に反するので罰を与えることの正当性が全く見えない。
イランへの制裁法(CISADA)で対処するとして、その法律がどのように日本の原油輸入削減ということと結びつくのか、説明がないと判らない。単に「イランが憎たらしく、反抗的なのが気にくわない」ので、その嫌がらせとして「イランの商売を邪魔してやるぜ」というのと、違いがあるようには見えない。

それに、仮にCISADAを根拠とするなら、法律の解釈論か法適用の技術論のようなことになるだろうから、「どうやって削減できるか」というような話にはならないはずだ。ルール(法)を示して、これこれこうだから、この条項なり罰則が発動される、と説明できるはずなのだから。それは必然的にそうなる、ということであって、遮二無二「どうやってできるか」を考えることではないはずだ。恐らく現時点で、CISADAという法の枠組みではイラン産原油の輸入制限を課すことの正当性が見い出せない、ということなのではないか。そうじゃなければ、法の適用はほぼ自動的に発生するのだから、日米で集まって協議した挙句に「方法を考える」なんてことにはならないはずだ。


要するに、アメリカがご立腹(イスラエルも、だ)なので欧州に同調を求めて、もっと仲間を増やそうということで、日本や韓国にも「お前らも一緒にやるに決まってるよな?」と「イラン苛め」の仲間に加わることを求められているということなんじゃないの?

イラク戦争の時もそうだが、大量破壊兵器があると出鱈目を言って侵攻したじゃないの。そういうのは全部ウソだっただろう?
イランの核開発問題というのは容易ならざることではあるけれども、だからといってイランが何かの犯罪やテロをしでかしたかといえば、そうではないだろう。


CISADAの制裁発動条件というのがあるが、非常にかいつまんでいうと次のようになる。
①「イラン政府の大量破壊兵器、米国指定のテロ組織支援」への便宜供与
②「安保理決議等の金融制裁対象者」への便宜供与
③ ①及び②の為のマネーロンダリング
④イラン中央銀行か金融機関による①又は②の便宜供与
⑤IEEPAにより資産凍結されている組織(関係者)あるいは金融機関への取引幇助、金融サービス提供

ガイトナー長官は上記④に関連しての発言だと思うが、論理の飛躍があり過ぎるように思われる(というか、法的にはCISADAでは困難ではないか、という見解に立っているのであるからこそ、適用は難しい=禁輸措置実施は実現性が厳しいということではないのかな、と)。

適用を言うつもりだとして、次のようなことであろう。
あ)イラン政府が核開発(ウラン濃縮20%)
い)イラン政府にイラン中央銀行は金融サービスを提供
う)あ)が大量破壊兵器開発行為だから、い)は④に該当
従って、④の悪事を働いているイラン中央銀行と知りながら、そことの取引を行う非米国金融機関(例えば日本のメガバンク)の米国内活動は制裁対象=米国での金融活動はできなくなる、と。

そういう理屈であれば、あ)の前提が「大量破壊兵器開発」であると立証される必要があるわけである。IAEA査察に応じて監視下にあるのに、大量破壊兵器開発だと認定できるのか?
極秘に濃縮開始をしたのでもなく、そもそもIAEAが知っているわけだし、違法性をどのように認定できるのか?

イランの国際義務遵守を求める米国自身が、この疑問に答えていない。相手に義務遵守を求めるなら、まず義務違反の事実を立論するべきである。世界で一番国際法を無視ないし軽視しているのは、米国ではないか。イスラエルもそうだがな。


更にいうと、こうした何段論法的こじつけ論でもいいということなら、どんなことだって制裁対象にできるよ。
また例で書いてみるよ。
パリにテログループが存在するとしよう。テログループは偽名で銀行口座を使ったり、カードを作ったりして金融サービスをテロ活動に用いていた、とする。そうすると、そうしたテロ組織に対する支援行為だとか「テロ組織への便宜供与」「テロ組織のマネーロンダリング(幇助)」になってしまうので、この金融機関と取引のあるECBは「悪の中央銀行」ということになる。悪の中央銀行たるECBと取引している在欧金融機関は「制裁対象とできる」みたいなもんだな。
どんだけこじつけだよ、と。これでもいいということですね?(笑)

イラン中央銀行と取引のある金融機関を全て制裁対象とする、というのであれば、米国が法的見解の立論を行う義務を負うはずだ。
まあ、ありもしない大量破壊兵器を「あるある」と言って世界中を騙した挙句、国際法違反で自分勝手な論理でもってイラクに攻め込むことなど朝飯前の米国にとっては、どんな屁理屈でもいいということなのであろうがね。
そういう遵法精神のかけらも持ち合わせてはいない国家が、イラン相手に「国際義務遵守」を求めるとは、まさに笑止。

次は、制裁対象のことについて、だ。

まず、日本に制裁対象となるから、イラン制裁の為に権益を放棄しろ、と求めていた件だ。何度か取り上げた記事である。

2010年10月>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/5a43f209b0682e90c325a1d063de5006

INPEXはアザデガンからの撤退を決め、権益を失ったわけである。当初、経産省は適用除外を申し出ていたりしたかもしれないが、米国側の圧力に屈して押し切られたのだろう。日本の権益喪失は中国への権益拡大を意味しているのだから、日本の安全保障上の問題であったはずなのだ。けれども、米国側はこうした日本の安全保障という観点については無視したわけである。除外規定適用の可能性はあったはずなのだ。どうせ、ロイヤル・ダッチ・シェルあたりのメジャーになれば、実質的権益は確保したままでも許されたんじゃないのか、とは思いますわな。”協力国”であるはずだし。ま、日本は協力国ではない、ということなのだろうけどなw。

元々のイラン制裁法というのは、油田開発関連の制限という性格のものだった。これに金融取引とか投資なんかも加わった、ということかな、と。なので、仮に中国企業が制裁対象となるのであれば、開発関連の企業は軒並み制裁対象となるはずであろう(アザデガン油田の権益を獲得したCNPCが制裁対象企業となっていないのは、どうしてなのか)。

ところが、である。意外な企業が制裁対象とされたわけである。


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120113-00000039-jij-int

【ワシントン時事】米国務省は12日、イランと石油精製品の取引を行った中国国営石油商社の珠海振戎公司など3社に対し、イラン制裁法に基づく処分を科したと発表した。
 国務省によると、同社はイランへの石油精製品の最大の供給源。2010年7月から11年1月の間、5億ドル相当のガソリンをイランに売却する契約を仲介した。
 他の2社はシンガポールのクオ石油と、アラブ首長国連邦UAE)のファール石油。クオ石油は10年から11年にかけ、2500万ドルの石油精製品をイランに供給し、ファール石油は10年に7000万ドルの石油精製品を売り渡した。
 イラン制裁法では、1回で100万ドル以上か12カ月間の累計で500万ドル以上の石油精製品をイランに売却した外国企業が制裁対象。米銀に一定額以上の融資を禁じるなどの措置が取られる。

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油田開発投資の会社ではなく、全然知らない弱小企業が制裁対象となったということである。石油精製品の輸出条項に引っ掛かったということらしい。


けれども、中国企業は「ハア?」と疑問を呈したようだ。
さすが何でも証拠捏造国家たる米国らしい。


米制裁の中国国有企業「理由は捏造」 対イラン輸出巡り  :日本経済新聞

イランに石油精製品の輸出をしているとして、米政府が制裁対象に加えた中国国有企業、珠海振戎公司は13日、「これまでイランに石油精製品を輸出したことはなく、制裁理由は捏造(ねつぞう)だ」と反発した。中国紙、法制晩報などが伝えた。

 制裁の結果、米国への輸出許可証が得られなくなるが、同社の広報担当者は「米企業と取引したことがないため、何の影響もない」としている。また「イランからの原油輸入はこれまでのところ、通常通り行っている」と説明。「制裁は不可解だ」と話したという。

 米国務省は12日、珠海振戎を制裁対象に加えた理由として、同社が「イランに対する石油精製品の最大の供給元だ」と発表している。(北京=共同)

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だそうで。
仮に国務省の言うように、輸出条項に抵触していたとして、当該企業は米国での活動実績がないわけだから、「何らの影響も受けない」ということは明白だわな(笑)。つまり、中国企業が制裁対象から漏れてるのは、ズルいんじゃないか、変じゃないか、という指摘を受けたので、その言い訳として「当たり障りのない企業を選んで制裁対象としてみつくろいました」というようにしか見えない、ということだ。

油田開発は巨額投資を必要とするので、こんなちっぽけな会社なんか開発できるわけがない。要するに、米国のやり口は出鱈目、捏造、見せかけだけ、ということだわな。それなのに、日本だけは真に受けて、権益も放棄、輸入量も大幅削減、と。どんだけお人よしなんだよ。どこまで騙されれば気が済むんだ。

米国は常々言う。
「中国が危ない、軍拡路線だ、世界制覇を狙っているに違いない」と。
だったら、中国の核兵器は危険じゃないのか?
イランの「まだ核兵器にもなっていない、ウラン濃縮」と、中国が保有する何百発か何千発かの核弾頭と、どっちが危ないわけ?
危険度によるというのなら、制裁を受けるべきは中国かイランか?(笑)


結局は、ご都合主義ということさ。中国の貿易制限とか経済制裁とか、どうして言わないわけ?
米中関係が大事だから、かな?(笑)

日本のバカさ加減は本当にどうしようもないわ。