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日米Legal War 〜TPPがもたらす災厄

もしも日本がTPPに参加してしまった場合、日本は非常に強大なリスクを負わされることになるだろう。アメリカが狙っているのは、非常に弱々しい日本の弁護士たちである。日本はほぼ一方的に負かされる可能性がある。


TPPに関する重要な情報は、政府側からも何一つ提示されていない。過去のNAFTAや米韓FTA等の条件・条項などから推測するよりない、という状況である。現時点で考えうる事態を想定する、ということ以外、TPPについて判断する材料はない。なので、あくまで当方の推測である、ということを御承知おき下さい。


TPPについては、かねてよりISDSの問題が指摘されてきたところである。にも関わらず、日本政府はこれによって招かれるかもしれない事態について検討しているようには思われない。もっと危険性について目を向けるべきである。


ISDSについての当方の理解を非常に簡単に示すと以下の通りである。

①かなり広範な投資家(主に企業)の権利保護が認められる
②投資家は日本政府を相手に訴訟を提起できる
③訴訟は世銀下部組織のICSID(国際投資紛争仲裁センター)に提起
④訴訟は全て英語で行われる
⑤ICSIDの裁定員(?裁判官のような立場の人)は主に外国法務の民間人
⑥政府の政策(法改正など)で受けた損害の賠償を求められる


ここで最大の問題となるのは、日本の国内法や判例などは効力を有しない、ということが考えられることである。

これまでであると、国内外を問わず、企業が国の施策や決定などによって受けた不利益は、行政を相手取って訴訟を起こさねばならなかった。その場合、日本国内法と判例に基づく判決になるのは当然であり、行政側に有利な判断は量産されてきたという側面もあったはずである。


しかし、TPP参加後には、そうはいかなくなるのだ。外国企業は、日本の裁判所になんぞ誰も訴えなくなる。日本の法律や裁判官に従うことなど、望んではいないからである。いきなりICSIDに提訴(以下、とても書き難いので、「世銀送り」と呼ぶ)することができるので、そちらを選択するのだ。


そうすると、どうなるか?
日本の法律はあまり重要ではなくなる。過去の判例も重視されない。世界の法律や解釈が重視されるであろう、ということだ。日本の弁護士や弁護士事務所も出る幕など不要となる。全て、アメリカの巨大ファームが巨額訴訟費用をまかない、勝った時の成功報酬が巨額なので、全部アメリカの弁護士が持って行くのだ。


おまけに弁論などは、全部英語。日本の実務不足の弁護士たちなど、足元にも及ばないことになるだろう。政府側代理人として、法務省官僚の法曹が訴訟を戦うつもりなのかもしれないが、実務に乏しいとしか思えず、海外の訴訟事例や判例をくまなく網羅することができなければならなくなる。これが果たして法務省の役人弁護士にできるだろうか?


お手伝いに、アメリカのローファームに巨額資金を払って依頼することになれば、どちらにしても得するのがアメリカの弁護士事務所ということになるわけである。日本の法曹など、本当に百戦錬磨のアメリカの巨大ファームと渡り合えるのか?向こうは、巨大な多国籍企業の依頼を受けたりして、日々実務をこなしているわけである。訴訟費用も桁違いに大きいはずだ。そういう海千山千の弁護士軍団相手に、日本の法務省官僚が対等に渡り合えるものなのだろうか?助っ人に日本の弁護士事務所を頼んだとして、それで本当に戦えるものなのか?


文献などは、全て英語などの外国語になってしまうのだ。これまでの集積(歴史)と物量―簡単に言えば頭数だ―において、一日の長があるのは、アメリカの弁護士たちだろう。彼らに、法務省の役人弁護士が弁論で勝てる、などという無謀な自信を私は到底持つことができない。日本の裁判所に提訴するか、世銀送りにするかの選択権は、外国投資家にあるのだ。彼らにとって有利な「決闘場」を選べるということだ。この不利は、日本政府にとってあまりにも大きい。


しかも、提訴する投資家側は、たとえ負けたとしても失うものが何もないのである。訴訟にかかる費用だけだ。勿論、それは巨額になってしまうかもしれないが、日本政府と折半ということにできるなら、アメリカの弁護士にとっては一方がゼロでもいい、ということになりかねないわけだ。つまり、原告である投資家と被告である日本政府が訴訟費用を折半するというだけで、日本の負け(金の持ち出し)と言っても過言ではない、ということだ。アメリカの巨大ファームは勝てば巨額の利益、負けたとしても手間賃が確実に稼げる、という、どっちに転んでもおいしいビジネスということになるであろうことが予想されるのだ。


これに対抗するとすれば、法務省の役人弁護士が獅子奮迅の働きでアメリカ弁護士たちを薙ぎ倒すしかないわけであるが、そんなことが簡単にできるとは思えないのである。TPPは、ある意味、日本の法曹界への挑戦と言ってもいいかもしれない。アメリカの弁護士たちは、彼らの土俵に持ち込めれば勝てると考えているはずだ。この戦いは、日本にとってあまりに分が悪い。残念ながら、日本側が勝てる要素が、今のところ何一つ思い浮かばない。


ここで、具体的にどういう事態になるのかを書いてみよう。あくまで仮想ですので。


アメリカ本社の銀行Xがある。日本でノンバンク業務を行う為、子会社Yを設立し、貸金業を2000年に開始した。当時の貸出上限金利は当時の法令として30%であったものとする。その後、政府の政策変更が2007年に行われた。破産が社会問題となり、貸出金利の上限が20%に引き下げられた。
この引き下げ後、企業Yは利益減少という損失を蒙ることになった。2000年に参入した際の投資モデルが狂うこととなった。そして、2012年に日本がTPPに加盟したので、XとYは日本政府を相手取り世銀送り(ICSIDに提訴)とした。

・X及びYの主張:
日本政府による政策変更によって、ビジネスモデルを撹乱され多大な損失を蒙った。政策変更に伴う損失を賠償せよ。同時に、07年の変更直前まで業容拡大の為に準備していた別子会社Z設立に係る損失、同業他社Wの買収準備に係る損失も賠償せよ。


これまでであれば、日本政府が政策変更を行ったとしても、国内企業にも等しく適用する法令であれば、外国企業のみに賠償する必然性というものは存在しなかった。排他的法令変更などではないので、内国民待遇ということは満たされているからである。
しかし、TPPの加盟により状況は一変する。
日本国内としては、20%の上限金利がどんなに理に適っていると判断されるとしても(過去の判例等)、外国企業(投資家)の権利が侵害されたかどうか、投資家保護規定に反するかどうか、ということで判断されるからである。例えば20%とか30%という金利水準(或いは上限設定)の妥当性は、一切問われない。


更に、加盟年が2012年であったとしても、不利益の存在が立証されてしまうと、過去の投資分にまで遡及して請求されうる、ということがある。
上記例でいえば、2000年の参入時点で考えられていたであろうビジネスと、政策が変更されなければ実現していたであろう別会社Z設立と他社買収(W社)を断念せざるを得なくなったことへの賠償さえも請求されることになるのである。実際にどの程度の費用がかけられていたかは、必ずしも重要ではない。Yが「子会社Zの貸金業の免許取得の為の準備にかかった費用」として適当にコンサルや弁護士との面会とかその他費用を算出してきたり、W社買収準備と称してこれも適当な打ち合わせだの書類作成だの資料作成費用だの、いくらでもふっかけてくることが可能なのだ。
その事実が本当にあったかどうかなど、どうだっていいのである。それでも訴訟は可能だからだ。ちょっとでも「計画があった」ことを示せれば、その賠償請求は可能になってしまうのだ。


こうして、2012年に加盟したとしても、過去の投資事実があったということを証明してしまいさえすれば、遡って賠償義務を日本政府が負わされることになる、ということである。


さて、日本の法務省でも内閣法制局の人でもいいが、こうした外国企業の代理人として挑んでくる国際弁護士軍団と本気で戦うことになるのだぞ?

これまでは、日本国内の法令とか立法趣旨とか判例などという「日本側にとっての掩護材料」があって、有利な日本の土俵で戦えたわけだが、それは全部無効となるのだ。恐らく、今度は向こうにとって圧倒的有利な状況が生まれるだろう。それくらい日本の法曹は弱い、と当方は見ている。


上記例で、XとYの主張を引っくり返せるか?
そういうことを真剣に考えたことがあるか?
これはあくまで一例に過ぎず、他の企業買収とか政府調達参入とか、ありとあらゆる面での訴訟リスクを警戒しなければならなくなるのだ。


今みたいに、「日本郵政を買収されてしまう」といった寝言なんて、全く通用しなくなるってことがまるで分かってない。買収阻止なんてしようものなら、すぐ訴訟だろうよ。これは、どんな企業でも同じ。そういうのを跳ね返せる、という圧倒的な自信のある人であれば、どんと来い、と言うかもしれないが、まず無理だろうね。日本の財界なんかには、そういうことが理解できてない人が多いのではないかと思う。