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医薬品のネット販売に関する最高裁判決〜最高裁判決文に見る劣化2

判決から時間が経っておりますが、少し気になったので書いてみたいと思います。


”くそ判決支持者”さんという方から、別館の方に次のようなコメントがありました。

「需要があるなら違法ではない」
最高裁が言ってると思ってるのなら、あなたは日本語を学び直したほうがいいよ


http://d.hatena.ne.jp/trapds/20130113/1358038251#c


うーん、当方の記事を読んでそのような感想を持たれてしまったというのは、当方の落ち度ですね。日本語が拙いというのも、そうだろうと思います。
ただ、「需要があるなら違法ではない」などと最高裁が言ったとは思っていません。行政の裁量権を判断する上で、法規制の是非ということを見るのに「需要があった」ということを判決文中の理由の一部に挙げているのは、明らかにおかしい、と言っているわけです。
省令の制定権限として違法かどうかを考えるのに、旧法下で実態として取引が行われており需要があったのだから「省令を制定する前にもっとよく考えてから決めよ」と最高裁が言っているに等しい、ということです。

だったら、貸金業法改正の時にも、旧法下で「実態として利息制限法を超える金利が適用され続けてきており、借入需要も存在していた」と同じ理由を適用するべきである、ということです。

政府内にさえ「金利規制はおかしい」とする意見が存在していたわけだし、国会議員の中でも反対意見は多数あったわけです。そういうのと何がどう違うのか、ということを最高裁判事はきちんと考えるべきです。すなわち、最高裁の判決文中に見られた検討の理由としては、不適切なものが多数羅列されている、ということを当方は記事中で指摘したのです。

国会議論の中身や国会議員の意思を考えろ、みたいな理由は、全くの意味不明です。


判決文中の終わりの方には、以下のような文言があります。

そもそも国会が新薬事法を可決するに際して第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を禁止すべきであるとの意思を有していたとはいい難い。そうすると,新薬事法の授権の趣旨が,第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する旨の省令の制定までをも委任するものとして,上記規制の範囲や程度等に応じて明確であると解するのは困難であるというべきである。


このような愚かな理由づけをもって、省令制定に関する行政の裁量権逸脱がある、などと言うのは、根本的におかしい、と言っているわけです。


具体的に例示しましょう。
例えば、「悪臭防止法」という法規制があります。


根拠法としての第四条第一項第二号は、次の条文になっています。 

二  事業場における事業活動に伴つて発生する特定悪臭物質を含む気体で当該事業場の煙突その他の気体排出施設から排出されるものの当該施設の排出口における規制基準 前号の許容限度を基礎として、環境省令で定める方法により、排出口の高さに応じて、特定悪臭物質の流量又は排出気体中の特定悪臭物質の濃度の許容限度として定めること。


最高裁曰く、この条文から、規制根拠が具体的に読み取れるらしいです。国会議員の理解レベルも国会の制定意思も汲み取れるということでしょうな。

で、実質的な規制としては、条文中の「環境省令で定める方法」ということになりますが、それは、環境省令である施行規則第三条に規定されています。以下が条文です。


○第三条  

法第四条第一項第二号 の環境省令で定める方法は、特定悪臭物質(メチルメルカプタン、硫化メチル、二硫化メチル、アセトアルデヒド、スチレン、プロピオン酸、ノルマル酪酸、ノルマル吉草酸及びイソ吉草酸を除く。)の種類ごとに次の式により流量を算出する方法とする。
q=0.108×He2・Cm

  (この式において、q、He及びCmは、それぞれ次の値を表すものとする。
q 流量(単位 温度零度、圧力一気圧の状態に換算した立方メートル毎時)
He 次項に規定する方法により補正された排出口の高さ(単位 メートル)
Cm 法第四条第一項第一号の規制基準として定められた値(単位 百万分率))
(次項に規定する方法により補正された排出口の高さが五メートル未満となる場合については、この式は、適用しないものとする。)

2  排出口の高さの補正は、次の算式により行うものとする。
He=Ho+0.65(Hm+Ht)
Hm=(0.795√(Q・V))÷(1+(2.58÷V))
Ht=2.01×10−3・Q・(T−288)・{2.30logJ+(1÷J)−1}
J=(1÷√(Q・V))×{1460−296×(V÷(T−288))}+1
(これらの式において、He、Ho、Q、V及びTは、それぞれ次の値を表すものとする。
He 補正された排出口の高さ(単位 メートル)
Ho 排出口の実高さ(単位 メートル)
Q 温度十五度における排出ガスの流量(単位 立方メートル毎秒)
V 排出ガスの排出速度(単位 メートル毎秒)
T 排出ガスの温度(単位 絶対温度))


もう、言うに及ばず、ですね。
説明するのもバカバカしい。
国会での議論や制定意思が、こんなものを規定していたと?(笑)
そんなことは、到底考えられない、ということです。


最高裁判決文に並べたてられている理由というのは、どれ一つとして、まともに理由になるものなどない、と言っているのですよ。あの判決文のどこからも、省令の制定権限として、行政裁量の逸脱が認められる、という明確な根拠を裁判官は何も提示していない、と言っているのです。


これまでの立法過程において、省令制定として認められてきたことが、何故、本件ネット販売規制に関わる薬事法改正の場合のみ「違法認定」なのか、ということが大問題なのだと言っているのですよ。


何も、悪臭防止法が特別に変わった総理府令が制定されていた、ということではありません。こんなのに類するものなんて、それこそ一杯ある、山のようにある、ということです。


なのに、どうして、改正薬事法だけが、省令制定権限として、需要が存在するだの取引実態がどうだの国会議員の制定意思を有してないだの、という曖昧かつ意味不明かつ全くの無効な理由づけをもって、行政裁量権を逸脱している、とされるのでしょうか?


これを矛盾なく合理的に説明できる最高裁判事がもしもいれば、是非ともそのご高説を拝聴したいですわ、と思います。



当方が想像したような、三木谷を押し上げてきたような勢力がバックについており、彼らの命じられるままに判決をも左右できるほどの政治力を持った連中の横車か何かでしょうか、ということですわな。


上記の環境省令は、別に悪徳官僚が好き勝手に制定しているわけではありませんよ(笑)。専門家たちを招いて審議会なんかで大体話し合われて、専門的な部分を決めてゆくといったことが多いのではないでしょうか。その専門家たちの選択には、恣意的部分はあるかもしれません(喩えて言えば「原子力ムラ」みたいな話だ)が、制定の段取りとしては、専門家のご意見を尊重するという形式になっているわけです。ほぼ大多数の省令が、そうした手順を経て、何でもかんでも好き勝手に官僚が決めているとは思いません。


で、改正薬事法においても、最高裁判決文にあるとおりに「専門家たちの議論では慎重意見だった」(大雑把に言えばですが)、と認定されているわけですね。
他の殆どの省令制定に際しては、こうした専門家の意見が反映されてきたのに、どうして薬事法だけは「取引されてた、需要があった、国会はそんな意思を持ってなかった」だのといった、奇妙かつ全く無効な理由を出してきて、専門家の審議会レベルの意見を否定し覆すのでしょうか?(笑)


これは、本当に最高裁判事が判決文を書いたのでしょうか?(笑)
そう勘繰りたくもなるくらいに、低レベルの判決だな、と感じるわけですよ。普通に考えれば誰でも分かりそうな程度の、理屈を無視した論拠のみを出してきているわけですから。一つでも、なるほど、そういう考え方もあるのか、と思える部分があるならまだしも、ただの一つもないのですから、どう考えてもヘンだな、と感じるのではないでしょうか。


需要も、実質的に旧法下での取引があったことも、省令制定権限を考えるのには、ほぼ役に立ちません。国会制定意思の有無というのも、単なる印象論に過ぎず、根拠足りえません。
論理というか、理屈として、最高裁判決文は何も言ってないに等しい、ということです。それを支持する人がいるのは、やはり最高裁判決だから仕方のないことかもしれませんが、当方には理解できませんね。


まあ、最高裁が禁止事項はすべて条文中に具体的に明示的に書け、と言ったも同然だから、根拠法に全て書くということにするのでしょうな。