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辺野古における岩礁破砕許可に関する行政不服審査法に基づく執行停止について

辺野古での埋立工事を巡って、沖縄県と政府との対立が続いている。3月30日には、農水大臣により、沖縄県知事の指示に関して、執行停止が宣言されるに至った。沖縄県と政府との法的闘争合戦の様相となっているが、沖縄県側の取り得る手段は限定的である。岩礁破砕許可に関する論点について整理し、今後の対抗策を考える為の一助としたい。



1)岩礁破砕許可の知事権限について


直接的には、沖縄県漁業調整規則が根拠法である。


沖縄県漁業調整規則 第39条
 
漁業権の設定されている漁場内において岩礁を破砕し、又は土砂若しくは岩石を採取しようとする者は、知事の許可を受けなければならない。
2 前項の規定により許可を受けようとする者は、第9号様式による申請書に、当該漁場に係る漁業権を有する者の同意書を添え、知事に提出しなければならない。
3 知事は、第1項の規定により許可するに当たり、制限又は条件をつけることがある。


本規則の制定根拠は、漁業法(ここでは略)及び水産資源保護法である。


水産資源保護法 第4条

農林水産大臣又は都道府県知事は、水産資源の保護培養のために必要があると認めるときは、特定の種類の水産動植物であつて農林水産省令若しくは規則で定めるものの採捕を目的として営む漁業若しくは特定の漁業の方法であつて農林水産省令若しくは規則で定めるものにより営む漁業(水産動植物の採捕に係るものに限る。)を禁止し、又はこれらの漁業について、農林水産省令若しくは規則で定めるところにより、農林水産大臣若しくは都道府県知事の許可を受けなければならないこととすることができる。
2  農林水産大臣又は都道府県知事は、水産資源の保護培養のために必要があると認めるときは、次に掲げる事項に関して、農林水産省令又は規則を定めることができる。
一  水産動植物の採捕に関する制限又は禁止(前項の規定により漁業を営むことを禁止すること及び農林水産大臣又は都道府県知事の許可を受けなければならないこととすることを除く。)
二  水産動植物の販売又は所持に関する制限又は禁止
三  漁具又は漁船に関する制限又は禁止
四  水産動植物に有害な物の遺棄又は漏せつその他水産動植物に有害な水質の汚濁に関する制限又は禁止
五  水産動植物の保護培養に必要な物の採取又は除去に関する制限又は禁止
六  水産動植物の移植に関する制限又は禁止

(以下略)


沖縄県漁業調整規則39条で制限しているのは、水産資源保護法4条2項の4号及び5号によるものと思われる。サンゴ礁保護とは水産動植物の保護培養であり、これに必要な「物の採取に関する制限」が漁業調整規則39条での制限の意味であろう。
また、コンクリートブロック投棄や紛失したアンカー投棄は、4号規定の「有害な物の遺棄」に該当する可能性がある。


すなわち、サンゴ礁破壊とは保護培養が必要な水産動植物の破壊行為であり、本来的に制限されるべき行為である。事前に県側が附した条件についても、漁業調整規則39条3項の条件を逸脱しているのであれば、許可取消事由となるのは明らかであろう。


2)沖縄防衛局の審査請求について


行政不服審査法に基づく請求というのが政府の言い分である。これに対する明確な否定理由は、法学的理論上存在するかどうか不明である。

沖縄県知事の行った作業停止指示についての審査請求であるが、行政指導であって処分(本件では許可取消)ではないというのが県側主張だが、審査請求対象となりうる。


行政不服審査法 第2条  

この法律にいう「処分」には、各本条に特別の定めがある場合を除くほか、公権力の行使に当たる事実上の行為で、人の収容、物の留置その他その内容が継続的性質を有するもの(以下「事実行為」という。)が含まれるものとする。


取消処分を前提とする作業停止指示であることから、行政指導であっても事実行為と認定する余地はある、というのが農水省側判断であろう。実質的に命令に近いということであり、処分性があるとみている。

執行停止については、34条規定による。


行政不服審査法 第34条  

審査請求は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。
2  処分庁の上級行政庁である審査庁は、必要があると認めるときは、審査請求人の申立てにより又は職権で、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止その他の措置(以下「執行停止」という。)をすることができる。
3  処分庁の上級行政庁以外の審査庁は、必要があると認めるときは、審査請求人の申立てにより、処分庁の意見を聴取したうえ、執行停止をすることができる。ただし、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止以外の措置をすることはできない。
4  前二項の規定による審査請求人の申立てがあつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があると認めるときは、審査庁は、執行停止をしなければならない。ただし、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、処分の執行若しくは手続の続行ができなくなるおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、この限りでない。
5  審査庁は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。
6  第二項から第四項までの場合において、処分の効力の停止は、処分の効力の停止以外の措置によつて目的を達することができるときは、することができない。
7  執行停止の申立てがあつたときは、審査庁は、すみやかに、執行停止をするかどうかを決定しなければならない。


本件では、審査申請人=沖縄防衛局、処分庁=沖縄県、審査(上級)庁=農水省であり、34条2項、同4項、同7項により、今回の執行停止を決定し両者に通知したものと考えられる。


審査対象及び審査(上級)庁としての妥当性はどうであろうか。


水産資源保護法 第35条の二  

第四条第一項、第二項、第七項及び第八項並びに第三十条の規定により都道府県が処理することとされている事務は、地方自治法 (昭和二十二年法律第六十七号)第二条第九項第一号 に規定する第一号 法定受託事務とする。


沖縄県漁業調整規則の根拠が4条1項及び2項にあるなら、1号法定受託事務であることから、審査庁は必然的に農林水産省及び大臣となる。

従って、
・処分性は行政不服審査法2条の処分の定義(=事実行為)により該当
・審査庁は水産資源保護法35条の二により農水大臣
・執行停止決定は行政不服審査法34条による

外形的には、手続の要件を満たしているものと思われる。


3)今後の行政不服審査法上の流れと訴訟提起の関係

沖縄県は作業停止指示に続き、規則39条の岩礁破砕許可の取消処分を実行したとしても(農水大臣主張では、既にその権限も執行停止されている、というものである)、効果を持たない行政行為とみなされるだろう。実質的に取消処分と同等(事実行為)ということで審査請求・執行停止申し立てなのであるから、執行停止決定後には知事権限発動は無効(多分、不当でも不法でもなく、無効)である。


裁決が農水大臣より出されるまでは、訴訟提起も不可能である。


水産資源保護法 第35条

農林水産大臣又は都道府県知事が第四条第一項又は第二項の規定に基づく農林水産省令又は規則の規定によつてした処分の取消しの訴えは、その処分についての異議申立て又は審査請求に対する決定又は裁決を経た後でなければ、提起することができない。


故に、漁業調整規則に基づく沖縄県のできることは、待つことだけである。
裁決が出ないと訴訟提起できない。
裁決で防衛局の言い分が否定されることは想定できない(農水省防衛省の進める米軍基地建設を停止するほどの強権を発動することなど考えられない)ので、裁決結果は見えている。

行政不服審査法での再審査請求が当初の審査請求人(本件では沖縄防衛局)にしか認められていないなら、裁決が出た後の沖縄県の手段は行政訴訟しかないだろう。機関訴訟ということになるわけだが、原告適格が問題とされる可能性はある。

他には、国地方係争処理委員会の審理を申し立てる、といったことだろうか。

http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/keisou/kisoku.html


裁決が出る前に審査を申し出たとしても、農水省の執行停止に不服とする主張くらいしかなく、そもそもの漁業調整規則39条に基づく取消処分の妥当性には回答が得られない。農水省の裁決後に係争委員会に審査申出をしても、国の一組織であることから、期待できるような答えが来るとは考えない方がよい。


従って、農水省の裁決が出るまでは、岩礁破砕許可を根拠としての沖縄県側の対抗策はほぼ封じられていると思える。
裁決で負けた場合、訴訟提起は困難であるか(処分庁が審査庁を相手に機関訴訟を認められるか、都道府県が国を被告として取消訴訟を提起する場合の原告適格を裁判所が問題としないか)、できたとしても岩礁破砕許可取消が認められるだけであって、埋立工事を止めることができるわけではない。

工事法に制限がでてくるだけであって、基地は建設できてしまうということである。