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聖なる水『ワクチーン』伝説の物語

昔々ある村の教会に、一人の司祭がおりました。教会は貧乏でお金がありませんでしたが、病人を助けたり、巡礼者たちに寝食を提供しておりました。

ある日の夜、助けを求めて3人の男たちがやってきました。3人ともひどく弱っており、激しく咳込んでいました。

男達は、宝物ハンターでした。宝物が隠されたという噂話を聞き、隣村との間にある洞穴に行ったそうです。そこでミイラを見つけ、死体の下の宝物をゲットしようと作業しましたが、実際には何もありませんでした。宝探しを諦めて、この村にやってきたのです。

すると暫くして、3人とも息が苦しくなってきたのです。3人はミイラの祟りにでも遭ったのかと不安になりました。教会に来たのはその為でした。

3人は次第に衰弱し、次々に亡くなりました。司祭は彼らの看病に当たりましたが、どうすることもできませんでした。ただ、これと似た病状の人達を見た記憶がありました。体の弱った村の老人が同じような経過で死亡したことがあったのです。

司祭は、きっと洞穴に何かの手がかりがあるだろうと思っていました。洞穴の場所は3人から聞いていたので知っていました。そこで自ら洞穴に行き、確かめてみることにしました。

司祭が洞穴に入ると、もの凄い数のコウモリの大群が飛び立っていきました。中は湿っぽく、埃臭い感じがしました。男達が見た死体は、そこにありました。周辺には、コウモリの糞がたくさん落ちていました。司祭は思い出しました。「そうだ、昔、どこかの司祭が言っていたな。コウモリの糞は、要人の暗殺目的で集められていたことがあるって」

3人の男は、うっかりこれを飲んだか吸い込んだに違いない。それで死んだんだ。司祭はこの時、邪悪な考えが頭に浮かびました。まさに電撃でした。
「これは使えるかもしれない」


司祭は、木の枝を箸がわりにして、慎重にコウモリの糞を集め、皮の小袋の中に入れました。こっそりと持ち帰り、あることに利用したのです。


暫くすると、隣村で奇病と恐れられる謎の病が発生しました。村人たちは不安になり、病人を連れて司祭の下を訪れました。
司祭は言いました。
「これは、サタンの祟りだ。間違いない。地獄の刻印を受けた者は助からないだろう。それを避ける唯一の方法は、聖なる水『ワクチーン』を飲むことです!」

「今、ほんの少しだけ、聖なる水『ワクチーン』があります。これは簡単には手に入りません。お望みの人には、金貨1枚と交換して差し上げましょう」

人々は先を争って『ワクチーン』を飲みました。中には大金を払うから、先に譲ってくれと申し出る者もいました。
実際は、きれいなガラス製の小瓶に入れた、ただの井戸水でした。それでも、大勢の人々がこれをありがたがって飲むのです。


貧乏だった教会は、ワクチーンのお陰で大いに潤いました。司祭の名声は次第に広まっていきました。司祭は手下を数人雇い入れ、コウモリの糞集めと離れた村々にそれを撒き散らしに行かせました。すると、どうでしょう!

司祭の持つ聖なる水、ワクチーンを求める人々で一杯の、長蛇の列が教会に続いてゆくようになりました。

司祭は大金持ちになりました。
コウモリの糞が、たくさんの金貨になったのですから!
こんなワクチーンなんていう、ただの水を求めて、人々が大金を払ってくれるなんて。笑いが止まりません。


ある時、隣村のはずれに住んでる、魔女と呼ばれ恐れられていた老女がおりました。老女は買物に村の市場にやってきた時、ふと言いました。
「あの病気は本当にサタンの祟りなのかねえ?毒キノコを食べた人に、似た病状の人を見たことがあるよ、あたしゃ。聖なる水だって、ただの川の水と変わりゃしないよ、ふっふっふ」

商店主は老女に言いました。「あんたなんかに何が分かるんだね?司祭さまが嘘を言うわけないじゃないか。あれは悪魔の仕業なんだよ。あんたも死にたくなけりゃ、ワクチーンを手に入れて飲んだ方がいいよ」

商店主は店に納品に来た農家の男に、この時の話をしました。「ホラ、例の魔女がいるだろ?あいつがさ、司祭さまの批判をしてたんだよ、毒キノコか何かでも同じ病気が出るってさ」
農家の男は「ふーん、そいつは聞き捨てならねえなあ、何とかしなきゃな。神に逆らうとは、とんでもない不届き者だ」

農家の男は司祭に会いに行きました。「司祭さま、魔女のやつがとんでもないデマを言いふらしているんでさあ。サタンの祟りではない、って言うんでさあ。ワクチーンも川の水と同じだって言ってましたってさあ」

司祭は激怒しました。「神を冒涜する不埒な悪魔め、やはり魔女の正体を現したな、きみたちで悪魔を懲らしめてやって下さい。少々手荒なマネをしたって、神様がお赦しになるでしょう。トコトン分からせてやりなさい」

農家の男は、村人たちを連れて、老女の家を訪れました。
「やいやい、この魔女め、司祭さまに逆らうとはとんでもないヤツだ、二度と市場に来るんじゃねーぞ、分かったか」

老女は言いました。「あんたたちが司祭に騙されているかもしれないよ、って、忠告してやったんじゃないか。金貨が無駄になっちまっても知らないよ?あんた達のことを思って、言ってやっているのに、どうしてそれが分からないのかねえ」

村人たちは言いました。「魔女のお前なんかより、司祭さまは知識も経験もずっとお持ちなんだよ、立派な司祭さまが騙すわけないじゃないか。嘘を言ってるのは、お前の方だ。おいみんな、やっちまいな!」

老女の家をメチャメチャに破壊しました。男たちは帰り際に、言いました。「いいか、魔女め、次からは、勘弁しないからな、火あぶりにしてやるぞ」


相変わらず、近隣の村であの奇病が発生していました。どこで起こるか分からないので、村人たちは恐れていました。ワクチーンを求める人々の列は、どこまでも続いていました。「今日の分はもうおしまいになったそうだ、明日、また並ぼう」


あの農家の男はワクチーンを飲んでいたので、自分は絶対に大丈夫だと固く信じていました。ところが、離れた村の市場に農作物を売りに行った後から、具合が悪くなりました。あの奇病と同じ病状です。農家の男は不安になりました。「おかしいな、ワクチーンを飲んだのに、何故なんだ」

司祭さまに相談に向かいました。すると司祭は言いました。「聖なる水は、邪心の者には効果がないことがあるのだよ、あなたは大きな罪を犯しましたね?そのせいで効かなかったのです。悪魔の手に落ちたんですよ、あなたは。地獄の刻印が見えますよ、あなたの額に」

農家の男は失意のまま、自分の家へ向かいました。「おいらは一体何の罪を犯したのか?何も思い当たるフシはないのに。息が苦しい…何故おいらなんだ、おいらは信仰心も篤かったのに、どうしてなんだ、神様。いや、待てよ、魔女の家を打ち壊してしまったな、アレが悪かったのだろうか、心から謝罪すれば神様は赦して下さるだろうか?」


農家の男は死を覚悟していました。何とか神様に赦しを懇願して、助けて欲しいと思いました。そこで、心から謝罪する為に、魔女の家に向かいました。

魔女は壊れた家の脇の、ヤギの小屋に住んでいました。
男は真剣に詫びました。
「お前さんを懲らしめようと思ってしたことが、こんなことになってしまった。奇病になっちまったんだ。司祭さまはおいらの額に地獄の刻印が出てると言って、見放されてしまった。お前さんを苦しめた罪で、おいらは悪魔の手に堕ちてしまった。ごめんよ、本当にすまなかった。どんなことでもするので、おいらを許しておくれ」


老女は言いました。
「おまえさん、相変わらずバカだねえ。地獄の刻印なんざ、見えやせんよ。だってはじめからそんなものはないんだからねえ。あたしゃ昔、修道女の下で一緒に暮らしたことがあるんだよ。薬の調合も習ったもんさ。司祭の言葉の半分以上は嘘、って修道女はみんな知ってたよ。病気になるにはねえ、大抵の場合、その元になる理由ってのがあるのさ。毒キノコだって同じさ。それを体の中に入れてしまうと、病気になっちまうってことさ。

これは、あたしの勘だけどね、それはこのカビたパンを食べれば、どうにかなるかもしれないね。昔、似た病気の旅人が偶然持ってたのが、カビたパンでね、それを食べてたら自然に治ったって言うじゃないか。どうだい?おまえさんも、それに賭けてみるかい?」

農家の男は言いました。
「許されるなら、何だって従います。もう先の短い命なんだ、何でも言う通りにするよ」


数日後、ヤギの乳を飲み、カビたパンを食べ、体を大事にしてゆっくり過ごした男は、奇病から回復しつつありました。魔女と呼ばる老女の調合した、苦味のある薬草の煎じ湯を飲み、養生したら、治っていったのです。

男は悟りました。本当の嘘つきは、司祭はだったのだ、と。地獄の刻印など、なかったのだと。
聖なる水『ワクチーン』はただのデタラメで、金儲けの手段に過ぎなかったのだ、と。村人たちは完全に騙されているのだ、と。

司祭は、どうして、こんなことを?

老女は言いました。
「おまえさん、助かったからといって、ここでのことは人には言っちゃいけないよ。もし司祭の嘘をばらすと、今度はおまえさんが半殺しか、いや、本当に殺されちまうからね。今や、司祭の権力は絶対だ。周辺の村の村長や有力者たちと昵懇だし、金貨の威力で司祭には誰も逆らえやしない。貴族もみんな買収されてるよ。少しくらい騒いだ所で、司祭を味方する連中が処罰なんかするもんかい。
地獄の刻印が嘘だ、ワクチーンは何の効果もないただの水だ、なんて言ったって、誰も信じやしないよ。おまえさんも狂ったと言われるだけさ。だから、余計なことはしない方がいいよ」


農家の男は言いました。
「本当に申し訳ありませんでした。神様は、私に罰を与えたのではなかったのですね。真実を見る目を授ける為に、試練を与えられたのだ。そして、本当に神様に仕えているのが、魔女呼ばわりされてるあなたのような人だと、教えて下さった。あまりの怒りで、司祭に抗議しに行こうと思っていたが、あなたの助言に従い、目立つことはしないようにします。ただ、真実をほんの少しでも誰かに知ってもらえるよう、盲目の人々に伝えていこうと思います。この御恩は一生忘れません」


老女
「これも勘なんだけどね、司祭はあの奇病の元になる、何かをどこからか持ってきて、撒いてるんじゃないかと思うんだ。恐怖の奇病の正体は、病気が起こる時期に、同一人物がその村を訪れているんじゃないかと睨んでる。そいつが誰かを割り出せば、止められるかもしれない。おまえさん、それを密かにやってもらいたいんだわ。絶対裏切らない仲間を作って、それをやってごらんなさいな。それが罪滅ぼしってもんさ」


農家の男
「わかりました、やってみます。あなたのお陰で救っていただいた命、人々の役に立てるよう行動しようと思います。司祭の悪事を止めてやる。」

 

男が生還したことに驚き、涙ながらに喜んでくれた妻と、自身の兄弟だち、そして親類の男で、奇病の捜査を開始した。
尾行を続けた結果、司祭の下をこっそり訪れる男と、その連れを割り出した。彼らが普段はあまり行かない村を訪れた後で、決まって奇病の発生があることが分かったのだ。やはり老女の勘は当たっていた。


そして、連れの男が例の洞穴に行くのも判明した。その帰り際、農家の男たちは捕えて、自白を迫った。連れの男は、簡単に口を割った。
「脅されて命令されてやってるだけだ、ここの洞穴に落ちてるコウモリの糞を吸い込むと、病気になるんでさ。司祭と直接会ってるのは、兄貴だけっす。兄貴はかなり金貨をもらってるんでさあ」

農家の男達は、連れの男を使って、兄貴を呼び出した。
真相を聞かされた村長らの前で、悪事の算段をしてる所を動かぬ証拠として押さえることができました。一部の村人たちは、騙されていたことに気付くことができたのです。
村人たちは、洞穴を土砂崩れで埋めて二度とコウモリの糞を採取できないようにしました。


司祭は、彼らのことなど一切知らぬ存ぜぬで押し通して『ワクチーン』商売を続けました。
村の役人や警護兵らは司祭が買収してあり、彼らの罪は一切のお咎めなしとのことでした。調査の結果、野犬や野良猫などが偶然コウモリの糞を運んだせいで、奇病が拡がったのだ、という結論になってしまったからです。真相は闇に葬り去られました。お金の力には誰も勝てないのです。


時間が経ち、教会へと続いていた大勢の人々の列は、今では誰もいなくなりました。

老女の言う通り、司祭が罰せられることはありませんでした。
教会と司祭が大いに潤い、大金持ちとなったのは動かし難い事実なのです。誰一人として、お金を取り返した者などいません。


元から似た病気は存在していたのに、司祭の言う「サタンの祟り」の言葉を信じたせいで、恐怖と不安から司祭の言いなりになってしまったのです。

忠告した老女の声に耳を貸すどころか、逆に酷い仕打ちをしました。魔女だと決め付け、馬鹿にして、権威ある司祭の方が正しいという意見を押し付けただけでした。


聖なる水『ワクチーン』で儲けた司祭や貴族たちは、今でも金貨でザックザクです。誰も彼らを罰することなど、できないのです。

神様以外は。