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続・法学者は信頼に足るか?〜安念潤司中央大教授の場合2

ちょっと遅くなりましたが、つづきです。


3)「新規制基準」の適用後

安念教授は、本当に原子炉等規制法を読んだのだろうか?
改正原子炉等規制法においても、原発停止の理由は明白であろうと思うのだが。普通に読めば一目瞭然になっているとしか思えない。

まず、許認可取消権の行使、これは発電用原子炉設置者(旧法上で既に設置許可を得ている)の運転停止どころではなく、廃止措置を求めるものであるから廃炉にせよ、というのと同義と考えてよいだろう。そこまでの強権発動なんて、いきなりは難しいだろうに。高度な政治的決定が必要とされる。
停止命令についても、通常の考え方であれば、最初から命令なんてあるわけない。しかも、停止している原子炉に停止を命じても意味などない。あっても、行政指導という形式をとるだろう。


次に、事業者側が原子炉を運転しながら申請を出しても何ら問題ない、という安念教授の意見についてだが、それは無謀としか思えないわけである。本当にそんなことをすれば、今度こそ停止命令を食らうであろうな、と。


許認可取消ないし停止命令の条文は以下。


○第四十三条の三の二十  
原子力規制委員会は、発電用原子炉設置者が正当な理由がないのに、原子力規制委員会規則で定める期間内に発電用原子炉の運転を開始せず、又は引き続き一年以上その運転を休止したときは、第四十三条の三の五第一項の許可を取り消すことができる。
2  原子力規制委員会は、発電用原子炉設置者が次の各号のいずれかに該当するときは、第四十三条の三の五第一項の許可を取り消し、又は一年以内の期間を定めて発電用原子炉の運転の停止を命ずることができる。
一  第四十三条の三の七第二号から第四号までのいずれかに該当するに至つたとき。
二  第四十三条の三の八第一項本文の規定により許可を受けなければならない事項を許可を受けないでしたとき。
三  第四十三条の三の八第四項後段の規定に違反し、又は同条第六項の規定による命令に違反したとき。
四  第四十三条の三の二十三の規定による命令に違反したとき。
五  第四十三条の三の二十四第一項若しくは第四項の規定に違反し、又は同条第三項の規定による命令に違反したとき。

(以下略)


例えば、43条の三の二十第2項第四号にある、「43条の三の二十三」規定違反の場合、というのは、次の条文である(旧法36条とほぼ同じ意味合いである)。


○第四十三条の三の二十三  
原子力規制委員会は、発電用原子炉施設の位置、構造若しくは設備が第四十三条の三の六第一項第四号の基準に適合していないと認めるとき、発電用原子炉施設が第四十三条の三の十四の技術上の基準に適合していないと認めるとき、又は発電用原子炉施設の保全、発電用原子炉の運転若しくは核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物の運搬、貯蔵若しくは廃棄に関する措置が前条第一項の規定に基づく原子力規制委員会規則の規定に違反していると認めるときは、その発電用原子炉設置者に対し、当該発電用原子炉施設の使用の停止、改造、修理又は移転、発電用原子炉の運転の方法の指定その他保安のために必要な措置を命ずることができる。
2  原子力規制委員会は、防護措置が前条第二項の規定に基づく原子力規制委員会規則の規定に違反していると認めるときは、発電用原子炉設置者に対し、是正措置等を命ずることができる。


非常にかいつまんで言うと、
・技術基準不適合
原子力規制委員会規則違反
の場合には、諸々の「命令できる」ということになっているわけだ。
で、命令に従わない場合には、「43条の三の二十」の取消か1年以内の原子炉停止命令が発動可能、ということ。

技術基準適合要件は、以下の条文による。
○第四十三条の三の十四  
発電用原子炉設置者は、発電用原子炉施設を原子力規制委員会規則で定める技術上の基準に適合するように維持しなければならない。ただし、第四十三条の三の三十二第二項の認可を受けた発電用原子炉については、原子力規制委員会規則で定める場合を除き、この限りでない。


技術基準に不適合かどうか、は、原子力規制委員会の判断に委ねられる、ということになる。つまり、原子力規制委員会が「技術水準を満たしております、適合しています」と認めない限り、原則的に「運転はできない」。
もしも「合格だよ」と原子力規制委員会が言ってないのに、事業者が勝手に運転をしてしまったら、どうなるか?
それは「43条の三の二十三」に基づく命令が発せられることを招く。命令には、使用停止、運転方法指定などがあるわけであるから、当然に「運転は停止」ということも含まれるに決まっている。停止命令に従わない場合には、やはり43条の三の二十による「取消」か1年以内運転停止という行政処分が下される。


つまり、現状において「停止命令」が発動されていないから運転していい、という主張そのものが根本的に誤っており、原子力規制委員会が「合格です」と認定しない限りは、運転できない。許可がないのに運転した場合には、必然的に「43条の三の二十三」の命令発動を招くこととなり(但しこれを発するかどうかは行政側に委ねられる)、それを無視すれば取消か停止命令、ということ。


では、技術水準不適合か委員会規則違反というのは、どういう場合に考えられるのだろうか。

福島原発事故後に、各電力会社が事故対応の為の構造、設備、施設などの追加を行ったはずであろう。こうした変更や工事自体が、そもそも原子力規制委員会の許可か届出が必要なのである。工事許可の条件はここでもやはり「技術基準の適合」が条件なのであり、またその審査期間が延期される場合もあり得る(43条の三の八第7項)。


たとえ工事許可が出て実施できたとしても、使用前検査に合格する必要がある。

○第四十三条の三の十一  
第四十三条の三の九第一項若しくは第二項の認可を受けて設置若しくは変更の工事をする発電用原子炉施設又は前条第一項の規定による届出をして設置若しくは変更の工事をする発電用原子炉施設(その工事の計画について、同条第四項の規定による命令があつた場合において同条第一項の規定による届出をしていないものを除く。)は、その工事について原子力規制委員会規則で定めるところにより原子力規制委員会の検査を受け、これに合格した後でなければ、これを使用してはならない。ただし、原子力規制委員会規則で定める場合は、この限りでない。
2  前項の検査においては、その発電用原子炉施設が次の各号のいずれにも適合しているときは、合格とする。
一  その工事が第四十三条の三の九第一項若しくは第二項の認可を受けた工事の計画(同項ただし書の原子力規制委員会規則で定める軽微な変更をしたものを含む。)又は前条第一項の規定による届出をした工事の計画(同項後段の原子力規制委員会規則で定める軽微な変更をしたものを含む。)に従つて行われたものであること。
二  第四十三条の三の十四の技術上の基準に適合するものであること。
3  第十六条の三第三項及び第四項の規定は、第一項の検査について準用する。


設置ではなく変更工事であっても、合格が必要なことは明白だ。その基準となるのは、やはり原子力規制委員会規則等の技術基準に適合していることである。この合格です、というお墨付きを得られていないのに使用してしまえば、当然に法令違反となるわけであるから、先に見た「43条の三の二十三」の技術基準不適合(適合が確認されれば使用前検査が合格だから、だ)か委員会規則違反となるのだ。


他にもある。これも旧法上(『実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則』7条の3、同法7条の3の7、等)で指摘したことと同じで、保安規定に関する条文である。


○第四十三条の三の二十四  
発電用原子炉設置者は、原子力規制委員会規則で定めるところにより、保安規定(発電用原子炉の運転に関する保安教育、溶接事業者検査及び定期事業者検査についての規定を含む。以下この条において同じ。)を定め、発電用原子炉の運転開始前に、原子力規制委員会の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
2  原子力規制委員会は、保安規定が核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上十分でないと認めるときは、前項の認可をしてはならない。
3  原子力規制委員会は、核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止のため必要があると認めるときは、発電用原子炉設置者に対し、保安規定の変更を命ずることができる。
4  発電用原子炉設置者及びその従業者は、保安規定を守らなければならない。
5  発電用原子炉設置者は、原子力規制委員会規則で定めるところにより、前項の規定の遵守の状況(溶接事業者検査の実施に係る体制その他原子力規制委員会規則で定める事項及び定期事業者検査の実施に係る体制その他原子力規制委員会規則で定める事項を除く。)について、原子力規制委員会が定期に行う検査を受けなければならない。
6  第十二条第六項から第八項までの規定は、前項の検査について準用する。この場合において、同条第六項中「前項」とあるのは、「第四十三条の三の二十四第五項」と読み替えるものとする。


この保安規定も原子力規制委員会の認可を受ける必要がある。認可が受けられない場合というのは、2項規定の如く「災害防止上不十分である」という時であり、普通であれば「不十分であるので、もっと改善してきて下さい」(行政指導)とか「もっとこういう部分を改めなさい」(3項命令発動)、といったことになるわけである。
この認可を受けてないのに事業者が勝手に運転していた場合には、「43条の三の二十四第1項」違反となるのであるから、これも必然的に「43条の三の二十」第2項第五号に該当することになり、すなわち取消か停止命令発動事由となっているのである。


要するに、どこからどう条文を読んでも、事業者が自分勝手に「原子炉を運転します」なんてのが許容されているとは、到底思えない。新設(設置)の条件ということではなく、変更時でも同等の条件が課されているのであるから、旧法上の許認可があるから原発を運転したまま申請をしてもいい、などという判断は出てくるはずがないとしか思えない。

構造や設備、事故対処施設や体制の整備、保安規定、これらの変更がある場合には原子力規制委員会の許認可が必要となり、これに合格できなければ各種命令を発動されても文句は言えない。1年以内の停止命令を受けることになる。命令されなければやっていい、とか言えるのは、ただの部外者くらいではないか。食品の回収命令がでなければ「薬品汚染があっても販売していい」、とか言うのと同じ。そんなことをすれば、どうなると思うか?


安念教授のご意見は、疑問だらけ、ということです。