怒りのブログ別館

【いい国作ろう!「怒りのブログ」】のバックアップです

原子力規制委員会に関する池田信夫の無知

また池田信夫か。


http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51886651.html


原子力規制委員会は「設置許可」をやり直している

原子力規制委員会は「再稼動の審査」をしているのではない。くわしいことは今夜の言論アリーナで議論するが、委員会に運転許可の権限がないことは田中委員長も明言している。では彼らは何をしているのだろうか。驚いたことに、彼らは設置許可の審査をすべての原発についてやり直しているのだ。

この規制の唯一の根拠は、原子炉等規制法43条の3の14の「発電用原子炉設置者は、発電用原子炉施設を原子力規制委員会規則で定める技術上の基準に適合するように維持しなければならない」という規定だ。これは何のことかわかりにくいが、新しい原子炉だけでなく、既存の原子炉もつねに最新の技術基準に対応しないと適法な状態を維持できない。

これはバックフィットといって、なるべく最新の基準に合わせるように規制当局が勧告する規制方法だ。世界の普通の規制当局では、バックフィットは努力義務で、既存の設備で可能なかぎり行なうことになっているが、日本の規制委員会は不合格の場合は設置許可を取り消す。つまり廃炉にするのだ。

特に厄介なのは、耐震基準だ。ある原発が建てられたときは適法だったが、耐震設計指針が強化され、最新の基準を満たしていない場合は廃炉処分になる。わかりやすくいえば、建築基準法が改正されて耐震基準がきびしくなったとき、いま建っているすべての建物に新基準を義務づけ、おまけに建築確認の申請を出させて、それに合格しなかったら取り壊しを命じるようなものだ。

これは憲法第39条で禁じている法の遡及適用である。刑事事件では絶対禁止で、民法行政法では例外もあるが、不利益な行政処分の遡及適用は財産権の侵害になるので禁じられている。設置したときは適法だった発電所を新しい耐震基準で違法にしたら、これから日本で発電所は建てられない。

さらに問題なのは、このような憲法違反の疑いもある重大な規制が、まったく法的根拠のない行政指導によって行なわれていることだ。澤昭裕氏によると、この設置許可の審査は「田中私案」という形で内部的に決められたようだが、これは委員会規則でも決まっていない個人的見解で、文書化もされていない。

新しい規制が決まったころは、民主党政権が「原発即ゼロ」にしようとしており、菅首相と枝野経産相が「バックフィットを義務づけて原発廃炉にしろ」と要求していた。炉規制法ではバックフィットの規定(上の43-3-1)は曖昧に書かれているが、田中委員長は「経済性には配慮しない」と公言して、すべての原発に新基準を遡及適用したのだ。

(以下略)

==========



おかしいですね。前には、安念潤司中大法学教授の言い分通りに、「たった今でも稼働できる」と言ってたんじゃなかったのかね。新基準は再稼働に無関係、と断言していたのは、どこに行った?

http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/8da760d94d6e08b3bcd32f30c09ab5b5

(再掲)
電力各社には、原発の運転を停止していなければならない法律上の義務はない
電力会社は定検のうち原子炉を停止させる以外実施しようのないプロセスが終了すれば、法令上は運転再開できる
これらの許認可申請のために、電力会社は原子炉の運転を停止する法令上の義務を負うわけではない。許認可手続きと原子炉の運転は並行して行える


オイオイ、定検が終われば稼働できる、許認可手続きと運転は並行していい、とか吹いていたのは、どうしたのかね?

それに、池田信夫は同じ記事中で『安倍首相は法にもとづき、定期検査を終えた原発の再稼働を命じるべきだ』と豪語していたのに、どうした?


それとも、当方の記事でも読んだか?(笑)

参考>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/47abaa3da2f8bd403eb50c75b593efcb


安念潤司教授のご意見は誤りでした、ということに、ようやく気付いたか?
因みに、安倍総理には再稼働を命じる法的権限はないぞ(笑)。法にもとづき、って、それは池田の出鱈目言説だろう。



おまけに、今回の記事においても、またしても出鱈目を言っている。どうしてここまで、ウソを言い続けられるのか、本当に不思議だ。タイトルからして間違ってる。



1)設置許可はやり直していない

そもそも論として、間違いだと思うけど。既設の原発は、過去の設置許可は有効のはずだろう。設置許可は、新たに「発電用原子炉を設置しようとする者」が受けるものであり、既設原発はそれに該当しない。
池田自らも、当方が教えて差し上げた「43条の三の十四」の条文を引いて「発電用原子炉設置者は、…(中略)技術上の基準に適合するように維持しなければならない」と言っているではないか。この条文は既設事業者に対するものであり、池田は「発電用原子炉設置者」を分かっていない。

定義からして、「第四十三条の三の五第一項の許可を受けた者」を言うのだよ。即ち、許可を受けた者、なんだよ。過去の設置許可が無効となっており、たった今から設置許可を与える、ということではない。



2)原子力規制委員会の動きが遅かったワケとは

池田は田中委員長の「田中私案」だの委員会規則でもない個人的見解、ということを言っているが、それは本当なのだろうか?
法的根拠がないのに、どうやって強制力を持って行えるというのだろう。そういう言い草こそが、根拠のないデマの類なのでは。誰がそんなことを言ったの?


当方の見解は全く異なる。
まず、委員会規則で定める技術基準というものが、どうやって決まるのか、ということがあるわけである。
また喩えで説明する。
プロ野球の公式球を変更するという場合を考えてみよう。
ボールの直径と重量基準は従前とする。表層の材料も同様。採用されるべき新基準として、いくつかの意見があって、コア材の素材、反発係数、縫目の幅と高さ、という点が検討課題とされた。それぞれに意見対立があって紛糾したが、専門家たちの意見を取りまとめて、別の基準が定められたものとしよう。

すると、
①コア材:素材A→Bへ変更
②反発係数:範囲「p〜q」→「r〜s」へ変更
③縫目の幅:Cミリ以下→Dミリ以下
④縫目の高さ:Eミリ以下→Fミリ以下
という基準変更が行われることになるわけである。

こういう時、何故②の反発係数は「r〜s」なのか、ということについて議論されるし理由付けも必要になるわけだ。それが決まるのに時間を要する、ということになる。また、縫目の幅と高さの計測方法について、撮影された写真上での計測が行われていたとして、それ以外の方法の採用はどうなのか、ということも紛糾したりするわけだ。写真は不鮮明だ、とか拡大する際に誤差が大きくなりがち、とか。そうすると、昔にはなかった計測方法として、じゃあレーザー計測を採用する、となるわけだ。
(これらは、全く架空の話であり、飛び過ぎるボール問題なんかとは無関係であり、基準や計測方法なども空想の産物に過ぎません)

つまり、新基準の設定そのものが時間を要するわけであり、それが13年7月まで新基準が出てこなかった理由であろうと思われる。これは私案もなにも関係ない。ただ、縫目の高さの根拠は何か、と問われれば、自分が「信じる、ないし考える」文献や意見を示す必要があるだろう。「自分が信じる根拠」の提示は、それを「私案」と呼ぶのではないのか、と指摘されれば、そうなるかもしれない。けれども、そういう議論の土台の部分がなければ、比較できないし議論にもならない。どうしてレーザー計測を採用するのか、ということを説明できなければならないし、それが妥当かどうかを内部的に検討する必要があるわけだから。


法改正と施行時期が正確には調べてないので分からないが、原子炉等規制法が改正されて、「原子力規制委員会規則に従う」義務を生じた時点で、原子炉が稼働できない法的根拠は成立していると考える。ただ、その原子力委員会規則ってどんなものですか、と問われると「まだ出来てません」という返答になってしまうのはお粗末ではあるが、法的根拠がないわけではない。



3)「憲法違反の疑いもある重大な規制が、まったく法的根拠のない行政指導によって行なわれている」はウソ


これも以前に書いたので重複するが、条文上では矛盾はない。法的根拠は有効であるというのが拙ブログの見解である。
まず、設備等変更工事の申請は直ちに出せるわけだが、工事していいよ、という許可は規制委員会側に権限がある。工事許可の条件が「技術基準に適合=委員会規則に合致」なのであるから、委員会規則が出来上がっていない限り工事許可が出せない。これは「行政指導」ではない。法律の条文通り、だ。


さらに、工事には届出制もあるわけで、届出工事が完了している事業者もあるはずだ。じゃあ、これが直ぐに再稼働できる条件を満たすかと言えば、そうならない。これも書いた通りに、「使用前検査に合格」しなければ、使用できないと条文に書いてある(43条の三の十一)からである。第一項に「原子力規制委員会の検査を受け、これに合格した後でなければ、これを使用してはならない」と書いてあるではないか。

つまり、どんな変更工事であろうと、原子力規制委員会が使用前検査を実施し、これに合格したものでなければ「使用できない」のだよ。使用した時点で、違法が確定するのだ。どうしてこんな簡単な理屈が分からないのか、不思議でしょうがない。

自動車の運転免許に合格しないと運転してはならない、という時、運転したら違法確定であろう?(除外規定として路上教習などが定められているだろうとは思うが)


事業者はいくら変更工事が完了していようと、「使用前検査に合格」義務があるので、合格のお墨付きが得られない限り使用できない=運転できない、んだよ。これは田中委員長の私案でも何でもない、条文を読みさえすれば必然的に分かることだ。「使用前検査の合格」が得られてないのに使用した場合には、自動的に「43条の三の十一第一項」違反の違法が確定し、それは必然に「43条の三の二十三第一項」にある措置命令発動事由(委員会規則違反)となるのだ。だって、原子炉等規制法違反確定なのだから。これは行政指導という形式などではないのは明白だぞ。新基準が出された現在、こうした使用前検査が完了待ちとなって長い時間がかかる、ということがあるはずだろう。


耐震基準だの活断層の調査なんかについても、判断の根拠というものが必要になるわけで。事業者が「これだけの耐震強度があります、委員会規則の基準を満たしているので大丈夫です」と申請してきたとしても、本当にそうなのかどうかを委員会側が確認する必要がある。活断層からの距離はどれくらい離れていて、想定される最大の揺れはどのくらい、そうだとすれば構造物に求められる強度はいくら、それを満たすべく追加工事の内容はこうなる、ということが整合的でなければならない、ということ。ならば、工事の許可申請に対して、許可できるかどうかを判断する上で「(あなたの大丈夫という)根拠となる資料が足りないので追加調査をして下さい、証拠を追加しないと許可できないですよ」と原子力規制委員会側が事業者にアドバイスすると、これが行政指導という形式になっているというだけ。事業者は追加調査と言われたのが不満で、面倒くさいし時間もかかるし調査費用もかかる、ということで、こうした行政指導を毛嫌いするに決まっている。
このような追加調査をするよう言うかどうかは、行政庁側の判断に委ねられており、最終的に工事許可をするのが田中委員長以下委員会なのであるから、最終責任所在において「こうした申請書類の不備があるものについては、工事許可はできない」という見通しを表明したり示すこと自体が大問題というわけではないはずだ。これをもって「田中委員長の独自基準、私案」だ、というような批判は、そもそもお門違い。もしも委員会での検討の際、事前に何らの予告もなく田中委員長が「反対」を表明して工事許可が出ないとなれば、事業者はどうすればいいのかが全く分かるまい?


(つづく)